TO DOCTOR
医師・医療関係者のみなさまへ

新春随想

郡市区等医師会長

府医ニュース

2025年1月15日 第3096号

 本紙恒例の郡市区等医師会長による「新春随想」。医療界に限らず、幅広いテーマでご執筆をお願いし、11人の先生から玉稿をいただきました。(順不同/敬称略)

医療と人工知能(AI)
吹田市医師会長 御前 治

 新年あけましておめでとうございます。
 近年、Chat GPTをはじめとするAI(Artificial Intelligence)、すなわち人工知能の発達、普及が急速に進んでいます。その功罪について、いろいろな立場からの考え方や意見が発信されています。今までのChat GPTは過去の膨大なデータからテーマに合致するものを瞬時に探して整理し文章にまとめるという作業を行っていましたが、最近のバージョンでは自ら考えて解を出すことも可能になってきています。
 医療分野においてもAIは広く応用されており、診断や治療内容の決定を行えます。このまま進めば、医師など医療スタッフは不要になるのでしょうか。
 まず人間の感情的サポートについてAIは不得手だと思われます。AIはヒトの感情を理解できません。例えば、がん患者の精神的サポート対応マニュアルや教科書などを学習すれば、ある程度の文を作成することはできるでしょうが、本当に適切な個別対応はまだまだ困難だと思います。外科的治療ではAI支援ロボット手術が普及しつつありますが、あくまでも支援・補助であって最終的な操作や判断は外科医に託されなければなりません。
 検査データや画像診断結果から診断された病名やそれに対する治療方法を、文字通り機械的に決めるだけではなく、実際の臨床現場では患者のおかれている生活背景や、時には経済面も考慮して総合的に判断する複雑な意思決定過程を踏んでいます。終末期医療の現場では倫理的判断も関与してきます。複雑な総合的判断にはまだまだヒトが必要です。
 AIは医療現場で大きな貢献をなしていますが、ヒトの存在価値はけして低下することはないと考えます。よく言われることですが、AI技術をうまく使いこなして、より良い医療、ケアが提供できるようになることを期待しています。なお、この文書作成にはChat GPTなどは使用していません。

趣味はコーヒー焙煎
堺市医師会長 岡原 和弘

 昨年6月に堺市医師会長に就任しましたが、平日の午後は、ほとんど会議や委員会で埋まっています。予定がない日にも医師会に出務しており、忙しい日々を過ごしています。日曜日はたまに公務もありますが、何もない日が多いので、唯一の休息日となります。ゴルフも楽しいのですが、時間がかかるため、月1回程度に抑えています。では、残りの日曜日はというと、最近、はまっているコーヒー焙煎をしています。
 はじめは、ネットでコーヒーの生豆を買って、鍋で炒って、焙煎していました。この鍋焙煎でも、結構おいしいコーヒーを作ることができます。しかし、生来、凝り性でもあるので、焙煎機が欲しくなり、焙煎機を買ってしまいました。この焙煎機は電気式で、アフターバーナーが付いているため、焙煎時の煙を抑えられます。ただ、熱量の強弱とドラムの回転速度しか調整できず、一度に焙煎できる豆の量は400㌘まででした。量はこれでもいいのですが、これでは、最近流行りの浅炒りコーヒーができません。迷ったのですが、これだけいろんな仕事もしているのだし、いいかと思って、2台目の焙煎機を購入しました。この焙煎機はさらに優秀で、一度に1㌔まで焙煎可能です。温度センサーが付いており、回転数や排気量、熱量も細かく調整できます。また、専用ソフトで豆の温度や焙煎条件がリアルタイムにグラフ表示され、記録もできます。なかなか遊び心をくすぐってくれます。まるで実験のように、「次はこうしてみよう」と条件を変えて試せるのが楽しいです。豆の種類でも条件は変わってきますし、300㌘と500㌘では、全く条件は変わります。飽きないようにできています。できたコーヒーは、お友達などにプレゼントするととても喜ばれます。意外とコーヒーは万人受けするので、皆さんに好評な趣味になっています。
 最後に、私のお気に入りのコーヒー3選をご紹介します。
1.ジャマイカ ブルーマウンテン№1:苦味や酸味が少なく、甘みが強い。どなたが飲んでもおいしいと感じる定番です。
2.エチオピア イルガチェフェ アリーチャナチュラル:苦味が少なく、程よい酸味とフルーティな風味が特徴です。
3.コロンビア ピンクブルボン:柑橘を思わせる強い酸味と、コーヒーとは思えない花のような香りが魅力的です。

西区医師会防災体制の確立にむけて
西区医師会長 内藤 方克

 あけましておめでとうございます。皆様方におかれましては、お健やかに新年をお迎えのことと心よりお慶び申し上げます。
 2025年はいよいよ大阪・関西万博の年。西区も西区万博を開催され、三村浩也区長を中心に行政の皆様のおかげで昨年も大変盛り上がりました。当医師会といたしましては、11月5日の区民まつり「文化と健康のつどい」に参加をさせていただき、晴天の下多くの市民の方々、また三村区長をはじめ行政の方々にも多数医師会ブースにお越しいただきまして、地域の皆様方に大変ご好評いただくことができました。
 西区役所では南海トラフや大規模災害に向けた防災やSDGsに向けた取り組みを活発に行っています。今後、西区医師会におきましても防災体制を整えていくことが喫緊の課題であると思っております。
 すでに他区の医師会ではしっかりしたマニュアルや災害体制を整えているところも多く、またいろいろご指導いただければ幸いです。今後とも、何卒よろしくお願い申し上げます。
 2025年が皆様方にとってさらに幸多き年でありますよう、心よりお祈り申し上げます。

「新春随想」番外編
大正区医師会長 樫原 秀一

 去年最終回のはずでしたが引き続きゴルフです。
 第1話:昨年5月4日に第6回全国医師ゴルフ選手権大会に出場する機会をいただきチャンピオン戦に大阪府医師会から2名で参加しました。歴史と伝統の名門「岐阜関カントリー倶楽部」の高度な技術を要する東コースでグリーンスピードは12フィート、6966ヤードの難コースでした。晴天の下に松本吉郎・日本医師会長があいさつされて北海道から沖縄まで38道府県75名の選手が緊張の面持ちでスタートしていきました。私は後半乱れて91で52位でしたがもう一人の代表である南憲司選手(住之江区)がアウト38・イン39でラウンドされ見事個人戦優勝されました。団体戦は7位でした。北海道、静岡、広島の先生と楽しく一緒にラウンドさせていただき良い思い出になりました。また機会があればぜひ出場してみたいです。
 第2話:私のホームコースは兵庫県垂水ゴルフ倶楽部で1920年開場、今年106年目を迎える日本で7番目に古いコースです。
 2001年に41歳でクラブチャンピオンになりました。去年はたまたまいいゴルフが出来て23年ぶりにクラブチャンピオンに返り咲きました。2回戦以降はいずれも前半にリードされる厳しいマッチプレーが続きましたがショートゲームで凌ぐことができました。実は8年前にパターイップスに苦労しました。ショートパットは左打ちしかできない時期もありましたが、長尺パターにより回復できました。また色々なウェッジを試した結果、AW、56、62度を選択したことでバンカーならびにアプローチが好きになり好結果につながりました。
 入会させていただいて35年になりますがこの夏の酷暑でコースは経験したことのないダメージを受けました。10月のチャンピオンシップまでに回復させていただいたコース管理の方々に感謝です。いつも気持ちよくプレーさせていただいているコースの皆様、食堂の皆様、一緒にラウンドしていただいている皆様に心から感謝申し上げます。そしてゴルフに理解のある家内や家族、職場のスタッフに恵まれて幸せです。

浪速区医師会が目指す医療DX
浪速区医師会長 久保田 泰弘

 新年おめでとうございます。2024年5月に浪速区医師会長を拝命しました。会長に就任し、2週間後の最初の仕事が前浪速区医師会長有田繁広先生の葬儀委員長でした。
 浪速区医師会は、以前よりICT化に力を入れてまいりました。そのための委員会を2009年(病診連携委員会:110回開催)と2016年(47回開催)に設立し運営してきました。歴代の会長が会を牽引してきました。そして大阪府医師会の澤井貞子理事の労もあって大阪市医師会連合会、郡市区等医師会長協議会等の資料等もPDFでいただけるようになり、当会理事会は、すべての資料をクラウドに上げ、理事全員に配った端末(Android PC)を利用してペーパーレスで行っています。
 そして、今まで利用していたメーリングリストをSNS主導(LINE WORKS)で一本化していく予定です。SNSの方がメールに比べ見落としが少なく、その場で返信ができる利便性があります。また、各種委員会ごとにグループ化しているので、理事会前にある程度の決議が可能です。
 また、災害対策チェックシート浪速区版を作成し、災害時訓練として各医療機関の被害状況をSNSで集計できる仕組みを作成しました。災害医療、救急医療、在宅医療、病診連携をシームレスに連携できるシステムを目指し様々な試みを行っています。
 現在、目指しているのは浪速区版医療DXです。厚生労働省は2030年までに標準型電子カルテを広げていき、すべての電子カルテの共有化を目指しています。それはそれで様々な疾患に関するデータ分析等に都合のいい側面もあるのですが、莫大な費用とセキュリティーの面で、不安な部分もあります。主治医(開業医)が、かかりつけ患者のデータをコンパクトにまとめてクラウド化しておき、救急、災害、在宅とケース別に必要な部分を使い分ける仕組みです。もちろん今の厚労省が医療DXを進めていくならそれにも追従はしますが、より利活用しやすい仕組みの構築を目指していこうと考えています。
 将来、地域住民の全電子カルテデータを厚労省が管理する可能性を危惧しています。私個人としては、地域住民のデータは、医師会主導でクラウド化し、研究、臨床分析等必要と思われるデータのみを医師会側が提供すればいいと考えています。
 どういう形の医療DXがいいのか、皆さん一度議論しませんか?

患者―医師関係は対等です
大東・四條畷医師会長 福田 泰樹

 新年あけましておめでとうございます。新春随想と言われても昨今あまりに話題が多く、何を随想して良いものか迷ってしまいますが、以前から少し気になっていたこと一つ。
 最近、「カスハラ」なる言葉が毎日のように紙面に出てくる。カスタマーハラスメント、「客」がその立場を利用して店員などに理不尽な要求をしたり、罵倒したり、時には土下座をさせたりする行為である。その一因として、近年、やたらと普及した「様」に原因があるのではないかという指摘を目にした。
 日本語には「敬語」という、英語には見られない言葉がある。人の名前につける接尾語で、「様」や「さん」や「殿」があたる。相手に対する敬意を表すのだが、手紙などで儀礼的に使われる場合はともかく、直接的な対話の場では相手との関係性をも包含する。「殿」は上の立場の人から下の立場の人に対して使用する敬語とされている。一方、「様」と「さん」についてはあまり明確な区別がないようだ。ただ、殿様には「様」がつくし、お客様にも「様」がつき、微妙に上下関係を感じさせる。「殿さん」とか「お客さん」になると、とても身近な存在になる印象がある。カスハラは「様」付けで呼ばれて、つい有頂天になって殿様気分で相手を家臣のように罵倒してしまうのだろうか。
 翻って、医療現場ではどうだろうか。30年程前、大学に勤務していた頃ベッドサイドでいわゆる医療面接の講義をする羽目になった。我ながら斬新なアイディアであったが、参考書がない。幸い、当時、黎明期にあったインターネットを通じて米国医学部の学生が、2回生のMedical Interviewの授業で使う教科書を教えてくれた。早速取り寄せてみると医師―患者関係について「スーツを着て診療をすると患者さんは言いたいことも言えなくなる、逆にあまりにラフな出で立ちでは患者さんの信頼を無くす、対話する時は目線を同じ高さに近づけろetc」と書いてあった。当時「医師―患者関係が対等である」という見方は一般的ではなかったが、現在では授業はもちろんCBTやOSCE、さらには医師国家試験にも出題され、医療の根底に流れる考え方になっている。
 しかし、最近、対等性を旨としなければならない医療現場において「様」という敬語をしばしば耳にすることがある。接客教育のたまものではあろうが、果たしてこれが正しいのか、甚だ疑問に思うのは小生だけであろうか。医療現場におけるカスハラにつながらないことを祈るばかりである。

小児科医がALSになって
旭区医師会長 木野 稔

 私は小児科医です。「小児科は身体全部を診るのですね」とよく言われますが、そんな時には「心」も観ますと答えます。そして、子どもの将来も看ますよ(見守ります)と付け加えます。子どもは心身ともに未熟ですが、成長発達過程を驀(ばく)進しています。無力で自己中心的ですが、人から見捨てられず面倒を見てもらえる、愛されるはずだと信じる力(基本的欲求)は持っています。そのような欲求を十分満たされずに育った子どもは、大人になる頃までに様々な方法で穴埋めする技術を身に付けます。その方法が間違っていれば、心理的あるいは行動上で問題を抱えることになるのはよく知られていることです。『おとなは、だれも、はじめは子どもだった。しかし、そのことを忘れずにいるおとなは、いくらもいない』サン・テグジュペリ「星の王子さま」の言葉です。
 私は大人になってというか、70歳の老人になって、ALS(筋萎縮性側索硬化症)と診断されました。手足が衰え、食事も喉を通らず、呼吸もつらくなりました。そして診断から1年足らずで、気管切開を受けて呼吸器につながる身となりました。寝たきりで、独りで座ることも寝返りすることもできません。言葉を発することもできず、常にオムツをしています。子どもで言えば5~6カ月児です。自宅療養なので、毎日午前午後と訪問医療、介護のお世話になり、家人(妻)には生活のすべてを委ねることになりました。医師会活動もできず、楽しく語らいながら食事することもできず、内心忸怩たるものがあります。
 しかし、この病気になり、できることがだんだんと少なくなってくると、逆に何が一番大切かと考えるようになったのは幸いなことです。大人の私達は、自分のことは自分ででき、人に頼らず、人から頼られることを誇りにするのが成熟の証と考えていますが、高齢になって全身の機能が衰えてきたら、謙虚に人の世話になり、人の役に立てずとも、ほがらかで優しい心であることの方が大事かと思います。そして、子どものように、人から面倒を見てもらいながらも、信頼と愛情を基にして天(神)に祈ることができれば最高の人生と言えるでしょう。感謝して、希望の年となるよう祈っています。

冠の簪
大阪狭山市医師会長 芝元 啓治

 新春、おめでとうございます。昨年は地震に始まり豪雨災害が度重なりましたが、本年は天災と戦災の少ない年であることを祈念します。
 昨年私は、理髪店への足が遠のいた夏の終わりより頭髪を伸ばし続けており、診察室では「先生、サーファーになったのですか」「何色にしますか?」等の感想をいただいています。その意図は、私は河内長野市にある高向神社に奉務しておりますが、神主は大きな祭りでは正装として冠を被りますが、現在はこより紐を下顎に掛け冠を頭頂部に固定します。古くは頭頂部に頭髪を集め束ねて冠の一部に押し込めて簪で固定しており(大河ドラマ「光る君へ」の道長達公卿の冠の被り方にほぼ同じ)、私も古式で冠を被ってみようとの考えからです。頭髪がそろそろ長くなった頃に、「かつて、冠を被れないと官位に就けなかった」との記述に目にし、中高時代の疑問がとける思いでした。国語漢文で唐の詩聖杜甫の「春望」を記憶されている方も多いと思いますが、私には最後の「渾欲不勝簪」の解釈が、「老齢を嘆く内容である」には納得ができず、ずっと疑問でしたが、再び官職を得たい思いを「春」に託したものと解釈して納得しました。すぐに納得や理解できたと自身を安心させたり欺いたりしないで、納得できないことや疑念を抱き続けると、不意に氷解することがありませんか?
 多くの会員に周知のことですが、隔年の診療報酬改定の意図・方向性は、1983年発表の「医療費亡国論」の基本路線に揺るぎ無く、診療報酬改定ごとにポイントやターゲット診療科は入れ替わるものの、肌感覚として診療報酬のアップは無いでしょう。医療DXなる新機軸導入義務化が拡大されています。患者サイドや医療者にとってサービス向上と作業負担減であれば歓迎ですが、その現場は煩雑化し混乱していると思えます。漢詩と同様に隠された本音を勘案しながら、診療報酬改定はもちろん、今後の医療DXに対応し対峙していく姿勢は必要であると、私は考えます。本音を推察し続けましょう。

初夢2025「大阪市役所医師会MVP報告」
大阪市役所医師会長 細井 雅之

 昨年もアメリカ大リーグの大谷翔平選手はMVPを獲得されました。昨年のいいニュースの一番は何といっても大谷選手だったと思います。2022年より大阪市役所医師会でもMVPを作りました。これは、Most Valuable PlayerのMVPではなく、Medical Valuable Personとし、臨床、研究、実地活動、後継者の指導に寄与した医師会員を顕彰する「いいね制度」として、会員の労をねぎらうとともに、働き甲斐のある職場つくりを目指したいと思って制定しました。
 現在、大阪市役所医師会は、総合医療センター、十三市民病院、住之江診療所、大阪市総務局、こども青少年局、健康局、保健所、教育委員会、こころの健康センター、心身障がい者リハビリテーションセンター、弘済院附属病院などに全592名の会員がいます。部門としては、研修医部門、専攻医/レジデント/シニアレジデント部門、病院部門スタッフ、行政部門スタッフ(チーム)として、全会員からの推薦を集め、選考委員会で投票をして以下のように決定しました。MVPには表彰状を贈らせていただきました。特に、後輩指導に高評価の医師、救急部門で大活躍されている医療チームが選ばれました。2025年にはMVP2024を決定し表彰していく予定です。「医師研修シーリング制度、医師偏在化問題」など、勤務医にとって頭の痛い問題が残っていますが、今年こそ、いい初夢がみられますように祈っております。

第2回 MVP 2023年度

専攻医/レジデント/シニアレジデント部門
堀田 貴大 先生
 総合医療センター小児救急・感染症内科

病院部門スタッフ
奥野 英雄 先生
 総合医療センター小児救急・感染症内科

行政部門スタッフ
中山 浩二 先生
 大阪市健康局保健所 保健所長

スタッフチーム部門
初期急病診療部チーム
 総合医療センター初期急病診療部

変化できる組織体制を
泉大津市医師会長 武本 優次

 進化論で有名な19世紀の博物学者チャールズ・ダーウィンは、「生き残るものは、強いものでなく、賢いものでなく、変化に対応できるものだけが生き残る」と唱えています。21世紀の地球温暖化に対して、グテーレス国連事務総長は「地球沸騰時代を迎えている」とし、予想できない気候変動や記録的な干ばつの発生に危機感を募らせています。そして、四季の国・日本では二季(夏と冬)だけの国になりつつあります。これに加えて、我が国は失われた30年の影響から唯一抜け出せず、給与の引き上げ圧力、円安による物価の高騰、診療報酬の引き下げ、新たな感染症の発生リスク、超高齢社会の人口動態の変化に伴う診療形態などの変化、生成AIを中心としたDXの急激な変化や政治体制の変化等、環境問題に加えて、医療を取り巻く社会諸情勢は大きく変化することを求めています。
 ここで大切なのは、変化することが重要なのではありません。それぞれの変化に十分な情報を得て対策を工夫した上で、効率的・効果的に変化することです。時代の流れに沿って、産業構造も栄華盛衰を繰り返してきました。
 今回の診療報酬改定で大きなダメージを受けた医療機関は数多く、コロナ禍の大変な時期を全力で支えたにもかかわらず、その見返りが、病院だけでなく、私を含めた施設も大きなダメージを受け、診療継続に関して、一時は気持ちが後ろ向きになってしまいました。医療は社会に不可欠な社会的共通資本です。これを守るため、行き過ぎた人為的圧力には徹底的に抗い、不可避な変化には英知を絞って、また勇気をもって変化するよう対応していただきたいと考えます。
 恐れず、失望せず、希望をもって、今年一年がより良き年であったと振り返ることができるよう、皆様と一緒に頑張ることができればと存じます。本年もよろしくお願い申し上げます。

うん(運!?)よく老後を過ごしたい!
豊中市医師会長 辻 毅嗣

 2025年は巳年です。脱皮を繰り返す巳(ヘビ)は生命力があり復活と再生のイメージがあります。世界保健機関(WHO)や日本医師会のシンボルマークにもヘビが使われています。巳年の今年はイメージの如く力強く復活と再生し好転する年になればと願っています。
 さて2025年になり次は2040年問題が気になります。2040年頃には私自身、後期高齢者になり自分が介護を受ける立場になるのかと考えます。昨年4月、地域包括的排便ケアセミナーの座長をいたしました。そこで初めて榊原千秋先生の講演を聞きました。内容はまさに目から鱗で、もう一度勉強し直す必要があると強く感じ、POOマスター研修会を受けました。老いても排尿や排便は最後まで自分でという希望は、自宅で最期まで過ごすという希望より多数を占めています。訪問診療の際、這ってでもトイレに行こうとする高齢者を目にすることがあります。排便排尿ケアは赤ちゃんから亡くなるまで人間として大切な課題と考えます。研修会では排便サイクルの把握と便の性状と量の評価をします。ブリストルスケールによる便の性状は1~7段階でコロコロ便から水様便まで分類され、量は1~6段階まで評価します。目指すべき性状は3~5、量は5~6です。排便姿勢も重要で下剤の使用や食事、生活リズム、腸内フローラ、ビフィズス菌の活用、腹部マッサージ、腹部エコーを用いた評価など多岐にわたる排便ケアのアプローチも学びます。気持ちよく出せると食欲が湧きADLの向上につながります。在宅や施設に関わらず、患者さん一人ひとりに合った適切な排便ケアを多職種がチームで行う必要性を感じます。
 豊中で多職種の排便ケアのスキルアップに取り組むことは将来この街で誰もが〝うん〟よく気持ちよく過ごすことにつながるものと信じこの取り組みを進めていきたいと思っております。