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府医ニュース
2023年11月1日 第3053号
大阪府医師会(大阪府・大阪市共催)は10月7日午後、府医会館で令和5年度第1回認知症サポート医フォローアップ研修を開催した。当日は、李利彦氏(府医介護・高齢者福祉委員会委員)が座長を務め、橋本衛氏(近畿大学医学部精神神経科学教室主任教授)と池田学氏(大阪大学大学院医学系研究科精神医学教室教授)が講演。ウェブを併用し約350人が受講した。
はじめに、橋本氏が、「レビー小体型認知症(DLB)の診断と治療」と題し講演した。DLBの診断は、「症状と指標的バイオマーカーを組み合わせた臨床診断であり、いかに臨床症状を適切に捉えるかが重要だ」と語り、診断に際してのポイントを伝えた。
まず、DLBの臨床診断基準における中核的臨床特徴を詳説した。その一つである認知機能障害は、▽軽度の記憶障害▽注意力の低下▽視空間認知と遂行機能の障害――が初期から目立つが、タイミングによる変動も考慮するよう助言した。そのほか、幻視、パーキソニズム、レム睡眠行動異常について説示した。また、高頻度な支持的特徴として自立神経障害を取り上げ、QOLの低下を招く重要な症候であり、注意が必要と付け加えた。
次に治療について解説した。DLBは根本的治療薬がないために対症療法となり、多彩な症状に対して処方が複雑化すると指摘。患者や家族と課題の優先順位を相談して処方することで、副作用を抑えた治療ができると教示した。あわせて、非薬物的対応の有効性に言及し、例えば幻視においては、錯視の場合も多く、見間違いを誘発させる物を移動したり、過去の記憶を思い起こさせるような手順を踏むことで症状が改善する事例もあると紹介した。
続いて、池田氏が、「認知症診療新時代の課題」と題し、アルツハイマー病疾患修飾薬「レケンビ」(一般名:レカネマブ)を巡る最新情報を解説した。冒頭、症状の進行や患者の経済的側面から、「処方希望者のうち、投与できるのは1割程度」との見解を示し、導入の意義や課題を伝えた。
まず、アルツハイマー型認知症の原因は、脳内で「アミロイドβ」や「タウ」と呼ばれる異常なタンパク質が凝集・蓄積することによる神経細胞の破壊だと前置き。その上で、「アミロイドβなどの異常なタンパク質は、実際に認知症の症状が出現し始める20年程前から溜まり始める」ことが近年急速に解明されたことを受け、アルツハイマー型認知症の前段階である軽度認知障害(MCI)が見られた時には、すでに異常なタンパク質がある程度確認できる状態だと指摘。本剤は、アミロイドβタンパク質の凝集を阻害して、症状の進行を遅らせることが目的であり、「MCI期を投与のターゲットにしている」と説明した。
次に本剤導入による▽治療の選択肢拡大と自己決定の幅の広がり▽若年性認知症の就労支援や独居高齢者の生活維持といった自立した生活期間の延長▽診断後の支援促進――などに期待を寄せた。
一方で、①脳脊髄液検査やPET検査による病理診断に基づく超早期診断②2週間に1度の点滴治療のためのスペースとスタッフの確保③モニタリングとして、投与開始前から決められた時期に同一装置によるMRI検査を複数回行い、処方医が読影すること――など、医療設備・人材の確保とそれに伴う高額費用負担を課題に挙げた。加えて、超早期での認知症の告知や処方の対象とならなかった場合の患者・家族への精神的な支援などを求めた。さらに、高齢化による認知症患者の増加に比例して、対象となる患者も増えるため、医療財源の圧迫についても憂慮した。
最後に、今後は認知症治療でもiPS細胞を突破口に、既存薬と患者の細胞をマッチングさせていくことで、より迅速でテーラーメイドな治療になると力を込めた。また、この先、専門的な個別化医療が進み、多職種の役割が高まると述べ、さらなる医療連携の再構築が重要と訴えた。