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近畿医師会連合定時委員総会

府医ニュース

2023年9月27日 第3049号

安全な医療・介護提供体制の構築が必要

 近畿医師会連合(今期委員長=越智眞一・滋賀県医師会長)は9月3日、大津市内のホテルで令和5年度定時委員総会を開催。午前には常任委員会のほか、「医療保険・介護保険」「災害医療」「医療従事者の安全確保」をテーマに3分科会を実施し、意見を交わした。

滋賀県医師会の主務により開催

 委員総会開会にあたり、越智委員長があいさつ。午前中に行われた分科会における活発な意見交換に謝意を表するとともに、予定している議案について慎重な審議を促した。続いて、前期主務地の八田昌樹・兵庫県医師会長が登壇。この1年、様々な協議会や委員会を対面形式で開催することができたと感謝を述べた。
 その後、令和5年度役員選任を報告。委員長には越智・滋賀県医師会長、副委員長に安東範明・奈良県医師会長および髙橋健太郎・滋賀県医師会副会長、常任委員に松井道宣・京都府医師会長および高井康之・大阪府医師会長、監事として平石英三・和歌山県医師会長と八田・兵庫県医師会長が就任した。任期は6年6月30日までとなる。
 松本吉郎・日本医師会長ならびに三日月大造・滋賀県知事(大杉住子・副知事代読)、佐藤健司・大津市長より来賓祝辞が述べられた後、越智委員長が座長を務め、兵庫県医師会より4年度会務報告がなされた。
 議事では4年度歳入歳出決算、5年度事業計画および歳入歳出予算が審議され、いずれも賛成多数で承認された。さらに、対面診療を重視した診療報酬体系、新型コロナウイルス感染症対策の総括と今後の新興感染症流行時や大規模災害発生時に迅速に対応できる体制作りなどを求める決議を満場一致で採択した。

決 議

 令和5年5月8日をもって新型コロナウイルス感染症の感染症法上の位置付けが5類へ引き下げられ、日本の社会は以前の日常を取り戻しつつあるものの、流行再燃の様相を見せている。
 コロナ禍を利用してなし崩し的に導入された初診からのオンライン診療は、医療の商業化への危険性を孕んでいる。また、多様化する医療・介護ニーズに対応するためには、地域の実情に沿ったシステム作りが重要であるにもかかわらず、医療DXの基盤となるオンライン資格確認システムやマイナ保険証の拙速な導入が、医療現場に大きな混乱を引き起こしている。医療・介護の質を担保するためには、対面診療を基本とした医療の原点に立ち返り、かかりつけ医として、患者が求める安心安全な医療・介護の提供及び、新興感染症流行時や大規模災害発生時における的確な医療提供の体制を構築することが必要である。
 我々医師会員は、国民皆保険制度を堅持し、国民の健康と医療を守るために一致団結することで、国と国民に対する発信力を強化しなければならない。
 従って、政府に対して以下の点を強く要望する。



一、医療の原則である対面診療を重視した診療報酬体系とすること
一、新型コロナウイルス感染症対策の総括と今後の新興感染症流行時や大規模災害発生時に迅速に対応できる体制作りを行うこと
一、医療DXの推進は経済効率優先ではなく、質と安全を担保し、地域の実情に沿って進めること
一、患者各々に寄り添った「かかりつけ医」であり、国民のフリーアクセスを制限する「登録制」にはしないこと
一、少子化対策の財源として国民の健康、安心安全な医療、国民皆保険制度を守り維持するための財源を削減しないこと

以上、決議する。

令和5年9月3日
近畿医師会連合定時委員総会

特別講演
松本・日医会長が中央情勢を報告
かかりつけ医機能など日医の方針示す

 特別講演では、松本・日医会長による中央情勢報告が行われた。冒頭、昨今の物価高騰に触れ、診療報酬・介護報酬という公定価格により運営する医療機関等は価格転嫁できず、経営努力のみでは対応が困難だと強調。岸田文雄首相や加藤勝信厚生労働相(当時)と面会の上、十分な原資を求めていると述べた。その上で、来年度のトリプル改定はターニングポイントになる重要な改定であると主張し、一層の協力を求めた。

外来機能明確化し患者の流れ円滑に

 次に、外来機能報告について説明した。患者の大病院志向によって一部の医療機関に外来患者が集中し、待ち時間の長さや勤務医の負担増に影響していると前置き。外来機能の明確化・連携を強化し、患者の流れの円滑化を図るため、紹介患者への外来を基本とする「紹介受診重点医療機関」を地域の協議の場において定める仕組みと位置付けた。
 また、地域における面としてのかかりつけ医機能についても言及。これまでの議論を振り返り、▽かかりつけ医はあくまで国民が選ぶ▽診療科別や専門性の観点から複数のかかりつけ医を持つことが自然▽かかりつけ医とそれ以外の医師を区別するものではない――など制度整備に対する日医の考え方を改めて示した。そして、令和7年4月の施行に向けて、医療現場の意見を踏まえ、国民がより適切に受診できるよう医療提供体制を構築していく必要があると語った。
 そのほか、マイナンバーカードの保険証利用や医師の働き方改革、ナースプラクティショナーに関する議論について、日医の取り組みや方針を説述した。

組織強化への取り組み さらなる協力を

 日医の組織率は2000年の60.4%をピークに減少し、2020年には51.2%になったと回顧。常任理事を増員し、組織強化に注力した結果、51.7%にまで回復したと明かした。その上で会員獲得に引き続き全力を尽くすと締めくくった。

近医連定時総会 分科会報告(概要)

第1分科会/医療保険・介護保険
外来・入院・介護の基本料の引き上げに向け協議

 第1分科会(医療保険・介護保険)では、冒頭で委員総会に上程する決議案を承認。その後、「令和6年度診療報酬および介護報酬改定」に係る諸課題を協議した。
 まず、「診療報酬改定において最も重要と思われる事項」について意見交換。物価高騰・賃金上昇により医療機関の経営状態が厳しく、診療報酬上では価格転嫁できないため、「基本診療料の引き上げが必要」との見解で一致した。大阪府医師会からは永濵要理事が、多職種が連携する上で、医療・介護の双方が算定できる点数設定を主張。あわせて医療DX推進に伴う経済的な担保や、円滑なシステム構築を訴えた。
 「介護報酬」については、①介護人材不足②介護職員の賃金改善③医療との連携における医師への評価――などの課題が指摘された。前川たかし・府医理事は、マンパワー不足の解消が最重要と発言。処遇改善加算に加え、昨年10月に開始した「介護職員等ベースアップ等支援加算」の上乗せを引き合いに、「4年度の調査報告では一定の成果が見えた」と評価した。
 続いて、「医療保険と介護保険の給付調整に係る現状の問題点」を協議した。患者の入所施設ごとに異なる医療機関の算定項目の可否など、制度の複雑さを問題視。規定を明瞭化し、医療・介護の連携が推進しやすい報酬設定を求める意見が挙がった。永濵理事は▽重度褥瘡処置が必要な患者等の日数制限▽施設入所者における眼科や耳鼻咽喉科等の診療に対する算定▽認知症高齢者グループホームでのインスリン注射に係る「在宅患者訪問看護・指導料」の算定――に関する要件緩和の必要性を指摘。さらに、認知症高齢者の自己注射への施設職員の関わり方の整理や高齢者施設の類型区分ごとに医療機関が関与可能な範囲の明確化を唱えた。
 協議を受けて江澤和彦・日本医師会常任理事は「改定では外来・入院・介護の基本料引き上げを共通認識とし、物価上昇への対応と賃上げ実現に向けて一致団結して財源確保に臨む」と力を込めた。

第2分科会/災害医療
JMAT、CBRNE対策など災害時の体制に意見交換

 第2分科会(災害医療)では、①災害時における受援体制の構築②災害時における要援護者の把握③行政、関係団体との災害協定④JMAT⑤CBRNE災害(※)への対応――について事前アンケートに基づき協議。災害協定は全医師会が行政や関係団体と書面を交わしていた。「災害時の要援護者」について、鍬方安行・府医理事は、市町村レベルでは情報を把握しているが、災害発生時の大阪府との情報共有が課題と指摘。また、災害時の医師会事務局の行動指示を記したアクションカードを奈良県医師会が作成していることに触れ、府医でも今後検討したいと語った。
 続いて、JMATについて各府県より組織登録や研修会の実施状況が報告された。兵庫県医師会は精神科医療の重要性を指摘。避難所における新たな精神疾患発症に対しては、JMAT編成時に精神科医や精神保健福祉士を組み込むことでサポートが容易になるとの提案がなされた。
 救急災害医療対策はマスギャザリング問題も扱うこととなっているため、鍬方理事は2025年開催の大阪・関西万博において、行政がCBRNE災害への対策を軽視しているように伺えるとして懸念を表明。日医作成の「大規模イベント医療・救護ガイドブック」が改訂されれば、災害拠点病院のみならず、一般診療所を対象に行政とともに対応を啓発していきたいとしたほか、日医主導の基礎的な研修会実施を要望した。加えて、災害発生時の患者情報共有として「JSPEED+」の有用性を強調。財政支援がなく活用が進んでいない現状の改善を訴えた。
 長島公之・日医常任理事は、令和3年の災害対策基本法の改正により個別避難計画の作成が市町村の努力義務になったと説明。避難行動要支援者名簿の作成・活用方針をまとめる際には地域医師会の参画が重要として、府県医師会の支援を要請した。さらに、CBRNE災害では被害者が診療所を受診することも考慮して対応を検討したいと言及した。
 最後に茂松茂人・日医副会長(府医理事)は、日医「救急災害医療対策委員会」の取り組みを紹介。また、JMAT活動が徐々に認知されてきており、このような災害時の救護活動が組織強化にもつながるとまとめた。

※CBRNE災害
C:chemical(化学剤や毒劇物化学兵器による災害)
B:biological(細菌やウイルス、病原微生物兵器による災害)
R:radiological(原発事故など放射性物質による災害)
N:nuclear(核・放射能兵器による災害)
E:explosive(高性能爆薬等爆弾を使用したテロや災害)

第3分科会/医療従事者の安全確保
相談窓口の設置状況や警察介入事例などを共有

 第3分科会(医療従事者の安全確保)では、事前アンケートに基づき、医療従事者の安全確保に関する各府県の取り組みを主務地から説明。「医療従事者の危険察知力を高める研修会等」「応招義務に対する正しい理解を得るための周知」に関する取り組みは各府県で積極的に実施されていると紹介した。そのほか、▽医療従事者の相談に対応できる相談窓口等の設置▽地域における危険情報を共有するネットワークの構築▽警察との連携状況▽各医療機関における防犯対策――などの現状が報告された。
 引き続き、事前アンケートに関する追加説明や警察が介入した事例とその対応などを各府県より提示し、意見が交わされた。大阪府医師会からは笠原幹司理事が発言。府医では毎年「医療安全推進指導者講習会」を開催し、その中で医療従事者の安全に関する話題を取り入れているほか、大阪府医師協同組合を通じて防犯対策やクレーム対応費用保険を会員に案内していると紹介した。また、令和3年に発生した大阪市北区の精神科診療所放火事件以降、府医が相談を受けた警察介入事例は少なくとも3件あったと述べ、その概要や対応を詳説した。
 日本医師会に取り組みを望む事項として、応招義務の信頼関係喪失が認められる客観的な基準の設定や、国へ医療従事者の安全・安心確保に関する新たな法整備の働きかけ、暴言・暴力・ハラスメント対策に関するポケットマニュアルの作成などが各府県から要望された。
 総括では、城守国斗・日医常任理事が応招義務が免除される「信頼関係の喪失」の基準設定に言及。現場対応の幅を狭める可能性があり、基準を設けることには難色を示した。一方で、判断のよりどころとなる指標を示せるよう今後検討していくとの見解を述べた。
 加えて、松本吉郎・日医会長は、対応が遅れた場合、医師や医療従事者の命に関わるため、「ある程度危険を察知した場合には、それなりに踏み込んだ対応を行うことが大事」だと強調。地域で考え方を共有することが望ましいと語った。