
TO DOCTOR
医師・医療関係者のみなさまへ
TO DOCTOR
医師・医療関係者のみなさまへ
府医ニュース
2023年8月30日 第3046号
新型コロナウイルス感染症が5類へと変更され、初めて大きな波を迎える。大阪府は、約3900の外来対応医療機関を指定しているが、さらなる増強を目指して大阪府医師会に企画運営を委託。これを受けて府医は、「感染症対策研修会」を3回シリーズで実施することを決めた。7月6日には西浦博氏(京都大学大学院医学研究科社会健康医学系専攻環境衛生学分野教授)、同28日には忽那賢志氏(大阪大学大学院医学系研究科感染制御学教授)が講演した。
第1回研修会は、「新型コロナウイルス感染症:外来診療含む現在の流行状況と見通し」と題して西浦氏が講演。会場とウェブの併用で行われ、約300人が聴講した。
西浦氏はまず、感染報告が定点化されたため、迅速な状況把握が困難になったと言及した。そうした中で、府医が会員医療機関から日々の発生動向を収集し続けていることを評価。今後の医療体制を準備するよう促した。
次いで、エンデミック化する過程として各流行時における特徴を説明した。積極的な制御が行われた第1~5波では、大都市の密な接触箇所で伝播が発生し、「人口規模が大きいほど死亡者が出やすかった」と指摘。一方、制御が薄くなった第7波以降は、大都市圏で免疫を持つ人が増え、人口規模の小さい地域で伝播が起きたとした。今後も再感染の振動による医療への負荷は避けられないと見通した。さらに、超過死亡の発生機序を説示。直接死亡、間接死亡、関連死の3つをもとに、調査・分析してリスクに備える必要があると説いた。
今後のオペレーションとして、▽医師会・自治体主導での早期治療窓口の設置▽外来レベルでの先回り対応▽マスクや換気など個人でできる感染対策の継続――などを挙げ、改めて新型コロナへの対策を求めた。
第2回研修会では、忽那氏が「COVID―19現状と医療機関の感染対策」と題して講演した。ウェブとあわせ約250人が聴講した。
直近の新型コロナウイルス定点当たり患者数を示し、大阪府は13.56と全国平均レベルだと指摘。沖縄では一時48を超えており、全国で流行の状況が異なると述べた。
流行状況の見通しについては、N抗体陽性率に着目。イギリスでは86%が陽性で感染が広がりにくい土壌ができあがっているが、日本は4割強で「イギリスの状況に至るには時間が必要」との見方を示した。また、N抗体は、年齢が上がるにつれて獲得されておらず、病院や高齢者施設でクラスターが発生しやすい状況になっていると推測。一般の感染対策と分けて考える必要があると説いた。
ワクチン開発当初は発症リスクの大幅な低減も確認されたが、ウイルスが変異する中で「効果を得にくくなった」と言及。感染防止目的での接種意義は薄れてきたとする一方、重症化予防効果は持続しており、高齢者や基礎疾患があるなどのハイリスク者は、継続接種が望ましいとした。
次いで、軽症者への治療を解説した。発症後しばらくは体内でウイルスが増殖するため「早期に診断し治療薬を投与することが重要」と強調。リスクを判断し、適切な抗ウイルス薬を選択することが求められると訴えた。
忽那氏は、薬物相互作用や腎機能に問題がなければ、「ニルマトレルビル/リトナビルが第一選択」と説明。入院患者ではレムデシビルも有効性は高く、それらが使用できない状況ではモルヌピラビルが検討されるとした。他方、10月1日以降の薬剤に対する公費負担の継続等は国で議論がなされている。新型コロナ治療薬は高価なので、「重症化リスク評価が一層大切になる」と結んだ。
講演後、宮川理事が公費負担の継続を日本医師会を通じて国に求めていると明かした。