
TO DOCTOR
医師・医療関係者のみなさまへ
TO DOCTOR
医師・医療関係者のみなさまへ
時事
府医ニュース
2023年8月2日 第3044号
令和元年5月、医療機関等で療養の給付を受ける際、被保険者がマイナンバーカードにより資格確認することが国民健康保険法等改正で規定された。そして令和4年6月、療養担当規則が改定され、医療機関におけるオンライン資格確認導入が原則として(本年4月から)義務付けられた。この段階では、現行の保険証とマイナ保険証の「選択制」が打ち出されていた。しかし、昨年10月、河野太郎デジタル担当大臣が保険証の廃止に言及。本年6月、十分な国会審議がなされたとは言い難い状況で、マイナカードと健康保険証の一体化(現行の健康保険証の廃止)などを盛り込んだ改正法案が成立した。
保険証が廃止される流れとなったが、保険資格確認のもととなるマイナカードでの不祥事報告が全国で相次いだ。他人の情報がマイナカードに紐付けられている、など信じられないものばかりである。さらには、今年7月、三重県で光回線の通信障害があり「フレッツ光」が利用できない事態となった。従来の保険証がなければ、医療現場の混乱は悲惨なものとなったことは想像に難くない。
便利なら多少のミスはこれから修正すればいい、PDCAサイクルを回せ、そんな声も聞こえるが、公的証書に単純ミスが生じるものに依存した新システムでよいのだろうか。マイナカードで「私が私である」という保証ができない事態の中、このままでは医療が円滑に進むとは思えない。
日本国憲法第25条では生存権について規定している。第一項 すべて国民は、健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を有する。第二項 国は、すべての生活部面について、社会福祉、社会保障及び公衆衛生の向上及び増進に努めなければならない。
従来の我が国の皆保険制度では、プッシュ式で被保険者本人に保険証が配布され、全国どこでも安価で等しく医療を受けることができる。この仕組みこそが、医療のフリーアクセスの基盤であり生存権を守る最低限のものだ。昨年の療養担当規則改定では、オンライン資格確認の義務化が加わったとされているが、その中身はマイナ保険証での受診を目指すものである。オンライン資格確認の先に保険証の廃止があったとは予想だにしなかった。
医療DXの推進に前向きな関係者は、その効果の一つに医療現場の負担軽減をあげているが、この本末転倒現象をどう認識しているのか。さらに、全国の病院を統一のネットワークでつなげたいという理想を持つなら、なぜ、プッシュ式の健康保険証方式を保守しないのか。マイナ保険証システムは、質の悪いPDCAサイクルに陥った。もう改善はかなり困難である。ここで立ち止まる勇気を関係者は持ってほしい。
(葵)