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医師・医療関係者のみなさまへ
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時事
府医ニュース
2023年7月26日 第3043号
今年3月2日の勤務医部会第5~7ブロック懇談会において、新仁会病院の鹿島洋一先生が「新型コロナウイルス感染症の活動報告」として大阪府ホテル宿泊療養施設の状況を報告された。概要は24時間看護師が滞在し、1日2回の回診、悪化時はリモートで医師が診察し、必要に応じて急性期病院に入院させる。大阪府下15カ所あるホテルに最大1800人まで収容し、オンライン診察を行ったほか、全国で初めてHOT(Home Oxygen Therapy/在宅酸素療法)の導入を行った。大阪府の入院フォローアップセンターと連携し入院調整を行ったが、22時以降はホテル駐在の医師が采配した。ホテルの一室を詰所に作り替え、患者情報を集中させながら、投薬は各医療機関から移送し、バイク便で各ホテルに配達した。最終的に薬剤師、事務員、看護師等を増員し集中化、また感染状況に応じて規模の増減を行った。最大医師70人、看護師500人に規模が拡大し、第7波では1日150人ほどの患者に対応、看護師からの診察依頼に対しては、大阪府療養者情報システムが導入され、オール大阪でスピード対応した。
以上のようなコロナ禍の対応策は、コロナ感染のニーズに応じて緊急的に発生した制度であったが、コロナ感染だけに留まらない新しい医療体制を提示した。例えば、災害時の軽症患者にも応用でき、疾病に留まらず健康な人でも、高齢者や妊婦の災害時や孤立時に、集中的な介護が必要とされる時に有用である。以前に私は自衛隊や日本赤十字社が保持する簡易テントを利用した臨時病院に関して記述したことがあったが、ホテル療養という新しい概念の出現は、ホテルが安全で快適な環境を提供する臨時病院に生まれ変わる事実を提示した。この分野での技術的進歩が望まれる。
ホテル療養のシステムは将来的に学ぶべき点が多く、在宅医療での集中管理モデルになり得るが、公的機関が動かない限り、人件費やホテル賃借料など診療報酬以外の投資が発生し、一医療機関が簡単にできるシステムではない。しかし、そういう事例の中からでも、身近に取り組めるアイデアがあった。
最近急性期病院から紹介を受けた患者群のうち、診療所に紹介するには重過ぎるが、急性期病院に紹介するには軽症、なおかつ慢性期病院に入院させるには、準急性期並の診療行為が必要で、回復期維持のため入退院を繰り返す患者が当院で増加してきた。働き方改革などの急性期病院の高度化に伴い逆紹介されてくる準回復期患者群である。これらの患者は自宅や施設で管理されることになるが、一番重要なのは、いつ入院させるかの判断を的確に把握することにある。血液検査などの数値的判断も重要であるが、「呼吸困難はあるのか」「発熱はあるのか」というバイタル管理が重要なのは言うまでもない。バイタル管理に関しては、ICUで使うようなモニターなども考えられるが、高価であり、まず重たい。そこで現在巷にある機器を使って、準回復期患者の管理ができないか調べたところ、スマホを使ったオンライン診療による情報収集のほか、管理医療機器(クラスⅡ)に登録されている市販の血圧計やパルスオキシメーター、家庭心電計は、使用者が薬事法や関連法令に従って適切な保守点検や修理などの管理を行えば、医療に使用することが認められていた。また、厚生労働省が開発した「みまもりコロナ」は宿泊軽症者等が自分のバイタル記録や健康状態を入力し、保健所や医療機関と連携するアプリであったが、スマホを利用したExcelの自作でも可能である。
以上のように、在宅や施設においても、市販のクラスⅡの医療機器を駆使すれば、安価に準回復期患者を入院同様の管理状態に持っていくことが可能である。投薬管理は診療施設から回収後、バイク便でホテルに配達されたように管理薬局と連携して、いかに準回復期診療を運営していくかの体制作りが重要となる。日頃からこのようなシステムをシミュレーションしておくことは、ホテル療養といった大規模な施設を動員することなく、小規模な地域での有事即応体制を作ることにつながると思われる。
(晴)