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時事
府医ニュース
2023年5月3日 第3035号
独立行政法人は、故・橋本龍太郎首相(当時)による行政改革会議の中で「国民生活や社会・経済安定などの公共上の見地から確実に実施されることが必要な事務・事業のうち、国が自ら主体となって直接実施する必要はないが民間に委託することは不適切であるものを効率的かつ効果的に実施させる」ことを目的に設立された。医療分野、特に病院においては、厚生労働省管轄の独立行政法人である国立病院機構(NHO)や地域医療機能推進機構(JCHO)、労働者健康安全機構がこれにあたる。
政府は本年度の予算で、防衛費確保の財源(防衛力強化資金)として、NHOとJCHOの積立金(利益剰余金)1500億円のうち、半分の約750億円を国庫に返納させる方針とした。保有する積立金の返納時期は、通常であれば関連法で業務運営計画の中期目標期間終了後の令和6年度の返納なのだが、前倒しで返納させることになる。また、JCHOの余剰金は、法律によると年金特別会計に納付するとされているが、今国会では他の目的にこの返還金が付け替えられることも問題になっている。
現在、4月の国会では、防衛力の抜本的強化に向けて税外収入を活用するための財源確保特別措置法案に関して議論がなされている。防衛力強化の是非はここでは述べない。必要なものであるなら、「あっちの予算(余剰積立金)をこっちに付け替える」的なやり方はせず、NHOとJCHOの積立金を国庫に早期返還することと防衛費増額はまず別建てで議論するのが本筋だと思われる。また、国民全体が長年の不景気で生活が困窮している中、国民総生産(GDP)そのものの拡大を目指し、予算を確保する議論(財政拡大)が与野党ともに出ていない。
積立金を「不要見込み」として早期返納させる目的は、地域医療構想同様、NHOとJCHOの機能縮小にあると受けとれる。COVID―19パンデミックの手探りの段階から、より公的性格をもつ病院スタッフの尽力で助かった命もあった。全国ワースト1と言われる大阪府内の感染状況の中、私達が現場でCOVID―19に立ち向かえたのは、これら病院が後ろに控えていたからである。今国会では、経営赤字で病院建物の改修ができず、必要な人員や医療機器も確保できていない実態ならびに今の積立金では足りないという国会質疑もある。
この流れは、かつて問題となった「国立病院立ち枯れ作戦」を想起させる。医療の人員確保、建物老朽化対策など、平時の備え、安全保障が十分でなければ国民の命は守れない。よりよき医療スタッフ、医療環境の整備のためには、公的使命を持つ彼らが余裕をもって働いてもらう配慮が必要ではないか。
(葵)