
TO DOCTOR
医師・医療関係者のみなさまへ

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新春対談
府医ニュース
2023年1月4日 第3023号
昨年6月25日に開催された第151回日本医師会定例代議員会において、310票(投票総数376票)を獲得し、松本吉郎・日医会長が誕生した。同じ年の8月25日、大阪では第323回臨時代議員会で高井康之会長が、第17代大阪府医師会長に選任・選定された。新型コロナウイルス感染症が猛威を振るい、3年が経つ。徐々に平穏を取り戻しつつあるが、予断は許さない。国の安全保障、インフレと世の中はめまぐるしく形を変えるが、国民の命と健康を守る姿勢は変わらない。新春対談では、松本・日医会長を迎え、医療を巡る課題や将来への展望を語ってもらった。(司会:大平真司理事)
大平 明けましておめでとうございます。広報担当の大平です。司会を務めさせていただきます。本日は、大阪府医ニュース新年号の特別企画として、松本・日医会長、高井・府医会長の対談を企画いたしました。今日は、日本の医療のあるべき姿を中心に語っていただきたいと考えております。どうぞよろしくお願いいたします。
松本・高井 明けましておめでとうございます。
大平 まずは、新春対談ということでお正月らしい話題から始めたいと思います。府医ニュースの恒例企画となっていますが、まずは年末年始のお過ごし方やお雑煮の具材などを教えてください。
松本 私は山口県出身で、いりこ・昆布で出汁を取り、家でついた丸餅が入っていました。具材は鶏肉にカブ、ミツバ、シイタケなどです。12月30日までは診察して、大晦日はゆっくりと自宅で新年を迎えました。最近はコロナもあり、家で過ごすことが多いですね。
高井 私のところは白味噌の雑煮です。最近は簡単なお節料理になりましたが、家族でいただいています。小学生の孫も来るのですが、すぐにお節料理に飽きますので、肉を焼いています。
大平 年末年始はしばしの休養というところですね。松本会長は昨年の6月25日から、高井会長は同じく9月1日から会長職に就いておられます。現在までを振り返ってどのような感想をお持ちでしょうか。
松本 平成28年に日医常任理事に就任し、中央社会保険医療協議会(中医協)委員など、重要な任務を担当させていただきました。ずっと忙しかったのですが、会長となり、それがさらに増したように思います。この半年で医師会の仕事がなかったのは、数日程度です。信頼できる役員とともに仕事ができており、かなりの程度を任せています。会長の仕事は、決断し、最終的な責任を負うことだと考えています。
高井 確かに、会長だからこそ、決断しなければならないこともあります。
大平 今年取り組むべき課題や、中長期的な目標などを教えてください。
松本 感染症対策、かかりつけ医機能が発揮される制度整備、トリプル改定に向けた準備、第8次医療計画や医師の働き方改革と課題が山積しています。特に社会保障費をどう確保するかが大きな問題です。府医ニュースに書いてありましたが、「次の100年も国民皆保険制度を堅持する」ことが大切です(編注:第3019号)。
高井 直近では新型コロナウイルス感染症への対策、とりわけ発熱外来・検査体制の拡充が喫緊の課題です。インフルエンザとの同時流行が懸念されていることもありますが、第9、第10の波に迅速に対応できる体制の構築が必要です。行政や郡市区等医師会とも連携しながら対策を考えていきたいと思っています。また、かかりつけ医機能の制度化については、日医にご尽力いただき、かなり押し戻せました。今後も会員の意見を集約し、日医に届けてまいります。会員が一丸となって日医を支えることで、組織が強化されると考えています。
大平 高井会長からかかりつけ医機能のお話がありましたが、「経済財政運営と改革の基本方針2022(骨太の方針)」が、令和4年6月7日に閣議決定されました。その中で、「かかりつけ医機能が発揮される制度整備を行う」と明記されています。
松本 骨太の方針に記載された内容は、財政制度等審議会が取りまとめた「歴史の転換点における財政運営」(いわゆる「春の建議」)に記載された「かかりつけ医の法制化」とは異なると考えています。国民が選ぶのが「かかりつけ医」であり、医師は「かかりつけ医機能」を研鑽しなければなりません。登録制や人頭払いなど、患者のフリーアクセスを阻害する制度には断固として反対します。
高井 今までも十分にかかりつけ医機能を果たしてきたと思っています。コロナで機能しなかったと言われるのは心外です。
松本 一人の医師が24時間365日対応するのは不可能です。医療機関同士が連携し地域で支えていくことが大切です。患者の情報を共有し、機能に応じて役割を分担する。財務省の提唱するようなかかりつけ医であってはならないと思います。かかりつけ医を選ぶのは患者の権利です。全世代型社会保障構築会議では手上げ方式が望ましいとの見解が示されました。
高井 今後、日本は少子高齢化が進み、在宅医療の需要はますます高くなります。もはや在宅医療は医師が一人で対応できるものではありません。病診・診診連携はもとより、多職種が協働して、地域で支えていくことが大切です。その主導的役割をかかりつけ医が担っていくわけですが、そのための自己研鑽も重要です。日医に入会し、日医の研修を受けていく体制が理想です。また、診療報酬の包括化も課題です。一つの医療機関のみでしか算定できなかった、かつての「老人慢性疾患外来総合診療料」(平成14年廃止)の再来は避けていただきたい。
大平 私は耳鼻咽喉科を標榜していますが、単科診療所の立ち位置も気になります。
松本 財政当局はかかりつけ医がゲートキーパーとなり、そこを通しての受診を想定しているのでしょう。選定療養の仕組みを考えているのかもしれません。患者自己負担は3割が上限となっていますので、現状の制度を維持していかなければなりません。
大平 かかりつけ医機能が発揮される制度整備については、日医は具体的にどのように対応していくのでしょうか。
松本 11月に「地域における面としてのかかりつけ医機能」を公表しました。厚生労働省とは継続して議論しています。現在の仕組みを大きく変えるべきではないと考えており、医療法施行規則に定められている「かかりつけ医機能」をベースに、国民に分かりやすく伝えていくことが大事だと思います。かかりつけ医機能への評価を充実・強化することで、「地域における面としてのかかりつけ医機能」が発揮できるでしょうし、これこそが「かかりつけ医機能が発揮される制度整備」へとつながると思います。
高井 かかりつけ医機能を発揮するために研修等で資質向上に努めることは当然ですが、財務省が求める「制度化」は問題です。イギリスのGP(General Practitioner)制度のように事前登録や人頭報酬になることのないよう注意が必要です。
大平 骨太の方針では、医療デジタルトランスフォーメーション(DX)という考えも示されました。
松本 日医では、平成28年に公表した「日医IT化宣言2016」に基づき、医療のIT化に積極的に取り組んできました。IT化によって、より安全で質の高い医療を提供することが大切ですが、「医療現場の負担を減らす」という視点も大事です。オンライン資格確認の原則義務化に当たっては、やむを得ない事情で導入できない医療機関もあります。都道府県医師会や、郡市区等医師会からの情報を集め、例外規定や経過措置などを主張していきます。
高井 デジタル化によって蓄積された医療データをどのように使うかが肝要です。特定の機関が独占し、医療費抑制の手段として使用されるのであれば大きな問題です。また、急速なデジタル化によって取り残される医療機関がないよう配慮していただくことも大切です。医療提供体制がスムーズになり、真に国民のための医療DXとなることを期待しています。
大平 サイバーセキュリティも必要です。
松本 ネットワーク接続は広く普及しており、昨年の10月には大阪急性期・総合医療センターがサイバー攻撃による被害を受けました。日医では、サイバーセキュリティ支援制度を実施しておりますので、ご活用いただければと思います。
大平 昨年の10月には健康保険証を原則廃止し、マイナンバーカードと一本化するとの発表がありました。
松本 健康保険証を廃止するのであれば、国が国民に対して丁寧に説明していくことが重要です。高齢や認知症などでマイナンバーカードを取得できない方が保険診療を受けられないという状況は認められません。また、医療現場に混乱が生じないようにすることが前提だと思います。
高井 スムーズに移行できるような支援や、システム導入のための補助金なども必要です。
松本 医療現場の代表として、医師会が医療DXの流れを適切に評価し、上手にコントロールしていくために、今後もしっかりと取り組んでいきます。また、DXにおける重要な柱の一つがHPKIの推進、すなわち医師資格証の普及です。昨年の夏頃から申請が急増していますが、その背景には電子処方箋の発行を行う手段が、現状では医師資格証しかないことがあります。こうした状況もあり、資格証の発行を強力に進めています。
高井 医療DXによって医療現場が混乱するようなことがあれば、安心・安全な医療が提供できなくなってしまいます。日医の主導で医療機関がスムーズに取り組めるよう進めてほしいと思います。
大平 新型コロナの確認から3年が経過しました。
松本 人口当たり新規感染者数、死亡者数、入院者数の実績を見れば、我が国の医療提供体制は諸外国に比べても優れていると言えます。全国の先生方のご尽力の賜物です。新型コロナとは闘いの最中です。今後も感染拡大と小康状態を繰り返すことが予想されており、医療逼迫の懸念を常に抱えながら社会経済活動をできるだけ維持していくことが求められます。
高井 コロナの第8波に入っていますが、今までと違うのは季節性インフルエンザの流行も重なりそうだというところです。現在、約3千の医療機関が診療・検査医療機関として大阪府に届け出ていますが、医療が逼迫した時にその数だけで足りるのかという不安もあります。有事の際に医師会としてできることを考え、迅速に対応していくことが必要です。
松本 日医の役割は「国民の健康と生命を守る」ことです。そのためには、すべての医師、医療関係者の理解と協力、国をはじめとする関係機関との連携が不可欠です。コロナとの闘いは長丁場となっていますが、これに打ち勝つべく、一層のご協力をお願いいたします。
高井 府医では毎年1回、「大阪の医療と福祉を考える公開討論会」を開催しています。大阪府民向けに正しい健康情報を提供したいという目的で始まったのですが、今回はユーチューブでライブ配信しました。昨年、一昨年と新型コロナをテーマに実施しましたが、今回は子どもに焦点を当てた企画としました。児童心理の専門家、現役の小学校長、タレントのつるの剛士さんをパネリストに招き、意見を交換したのですが、現場ではコロナ禍でも「前向き」に捉える姿勢の大切さが確認されました。コロナ禍でできなかったこともたくさんありますが、それ以上に気付けたことも多かった。そうしたことを大切にし、今まで以上に明るい社会を目指したい。そんな提言ができたと思います。コロナとうまく共生していくことで、徐々にコロナ禍前の日常を取り戻していくのでしょう。
大平 感染症法等の改正案が成立しました。都道府県知事と新興感染症の対応を行う医療機関との感染症対応に係る協定の締結や、公立・公的医療機関等・特定機能病院・地域医療支援病院には感染症発生・蔓延時に担うべき医療の提供が義務化されます。
松本 感染症法等の改正は、「役割分担と連携」という、今回のコロナ対応の教訓をいかしたものでなければなりません。その上で、ウイルスの感染力や毒性に応じて対応していくことが求められます。今回の法改正では、都道府県連携協議会の設置や補助制度なども盛り込まれています。政府には、これまでの努力に応え、後押しする施策を進めるよう求めてまいります。
高井 平時から体制を整えておくことが重要です。いざという時に迅速に対応できる体制を整備しなければなりません。法案では新型コロナ、特にオミクロン株を想定しているのかもしれませんが、もっと危険な感染症の対応も検討しておくべきでしょう。
松本 いわゆる日本版CDCも立法化される方向です。「感染症危機管理庁」が政府の司令塔となり、日本版CDCによる科学的根拠に基づく国の政策を立案する。そして、感染症法等の改正によって、ハード・ソフトの両面での財政支援も行いながら、医療提供体制が強化されることを期待しています。
大平 松本会長は、中医協委員も務められていましたが、令和4年度改定についてはどういった印象をお持ちでしょうか。
松本 中医協では、前回改定の医療現場における影響を調査・検証して、次の改定で修正する流れが確立しています。次回改定では、それらの調査結果も踏まえて、必要な手直しをしていく必要があります。会内でも、高井会長に委員長を務めていただいていますが、社会保険診療報酬検討委員会で前回改定を評価し、次回改定の要望事項をまとめていただきます。中医協委員の後押しとなるようなご指摘を期待しています。
高井 リフィル処方の導入など、中医協の外で決定する事項が増えているように感じます。中医協の形骸化につながりかねず注意が必要ではないでしょうか。保険点数よりも「日本の医療を守るためにはどのような診療報酬体系であるべきか」という視点を大切にしていただきたいと思います。
松本 財務省はリフィル処方を導入することで、医療機関の通院を減らすことを狙いとしているようですが、その考えは誤りです。そもそも、不要な再診など存在しません。医師が定期的に医学管理を行い、適切な処方期間を考えることが再診の意味です。リフィル処方を行う際には、医学管理の重要性に鑑み、慎重の上にも慎重に、そして丁寧に検討いただく必要があります。
大平 来年は、診療報酬・介護報酬・障害福祉サービス等報酬のトリプル改定となります。
松本 繰り返しになりますが、まずは前回改定が医療現場に与えた影響を検証した上で、次を考えるということが基本です。一方で、診療報酬改定で何より大切なことは、「改定財源の確保」です。政治的な働きかけも必要であり、会員の先生方にはそのあたりもご理解いただければと思っています。
高井 医療機関が安心して医療を提供できる体制を作ることが、患者、国民の健康を守ることにつながります。医療費抑制の観点から診療報酬を考えるのではなく、「国民の幸福」ということに重きを置いていただきたい。国民のための医療を提供するためには、政治も避けては通れません。引き続き、会員にも訴えてまいります。
大平 日医の組織率が下がっており、現在、約50%です。組織強化が喫緊の課題ではないでしょうか。
松本 日医は、医師個人の資格で加入する我が国唯一の医療界を代表する組織です。すべての医師は医師会に参画してほしいと考えています。まずは、医師会活動を体験してもらうことが第一歩と考え、令和5年度より医学部卒後5年間まで会費減免期間を延長することにしました。この取り組みの実効性を高めるため、現在、全国の医師会にも同様の施策の推進をお願いしています。
高井 日医代議員会でもよく指摘がありますが、会員の異動についての手続きの簡素化も必要です。医師会が医師のために何をしているのか、日医の取り組みがもっと理解されるよう周知していくことも大事です。医師になれば医師会に加入するという考えを浸透させなければなりません。医師会はこんなに有益な団体なんだと認識してもらえる取り組みを考えたいですね。
松本 ご指摘のとおりです。また、有能な人材を全国から広く役員に登用することで、会務遂行能力の向上につながると考えています。そのため、役員増員に向けた定款改正の検討を始めました。医師会組織強化の目的は、国民視点に立った医療の実現にあります。地域医師会と日医との連携をより一層緊密にする中で、地域の声を踏まえた政策提言を行い、医師の期待に応えられる医師会、そして、国民の信頼を得られる医師会へとつなげてまいります。
大平 本日は貴重なお時間を頂戴し、ありがとうございました。
松本・高井 ありがとうございました。