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本日休診

咳(しわぶき)と十三夜

府医ニュース

2022年10月5日 第3014号

 十三夜。陰暦九月十三日の夜の月のこと。
 今年は、十月八日。
 陰暦八月十五日の中秋の名月(十五夜)とセットになっていて「後(のち)の月」「後の名月」または「名残の月」などと言われる。大昔には十五夜を見たら十三夜も見るものとされていたそうだ。美しい月の見納め。片方の月しか見ないと「片月見(かたつきみ)」「片見月(かたみづき)」。うだるような暑さも、いつのまにか去り、秋めいてきた。十五夜が陽性なのに比べて、どちらかと言えば十三夜の月は陰性といわれる。だんだん大気は澄んでくるから、月光が鮮やかに見え、寂寥感を増すからだろう。
厠なる
  客のしはぶき
      十三夜
       大橋櫻坡子

 咳(しわぶき)と十三夜。秋の夜の静けさ、そこにしわぶく音が弱々しく聞こえる。厠、という古来の言葉が、歩くと軋みもする日本家屋を思わせ、少し離れたところから聞こえる月の友の咳が、いよいよ澄み渡る夜の大気を感じさせる。
 80代後半の患者さんは、お話し好きで、診察の後もお尻が長いタイプの方だ。呼吸器系の持病があり、気温の変化で咳こむことがある。「コロナ流行り始めたころは、待合で咳をすると、周りの人達が顔を背けたり、立ち上がって席を変えたりされた。すごく気を使った。これからも気が抜けない」。診察の度に、そうおっしゃり、「先生も気をつけなさい」と帰られる。
 ウィズコロナに思いを馳せる十三夜である。
(颯)