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近医連定時委員総会 3年ぶりに対面開催

府医ニュース

2022年9月28日 第3013号

新型コロナ対策など課題を共有

 近畿医師会連合(今期委員長=八田昌樹・兵庫県医師会長)は9月4日、神戸市内のホテルで令和4年度定時委員総会を開催。新型コロナウイルス感染症の影響により、過去2年はウェブ開催となっており、一堂に会しての開催は3年ぶりとなった。午前には常任委員会のほか、「医療保険」「地域医療」「感染症対策」をテーマとした3分科会が開かれ、2府4県の医師会が意見を交わした。
 委員総会開会にあたり八田委員長があいさつ。新型コロナウイルス感染症は変異を繰り返し、現在はオミクロン株BA・5が猛威を振るい、高齢者施設でのクラスター発生や医療従事者の感染による人員不足など問題が山積していると指摘。新型コロナは目に見えない災害であり、医師会と行政が協力・連携し、国民のために安心安全な医療提供体制を構築していくことが必要だとして、さらなる協力を呼びかけた。
 次いで、前期の主務地を務めた大阪府医師会より、高井康之会長があいさつ。昨年度は新型コロナの影響でウ
ェブ開催を余儀なくされ、議論を深めることが難しい面もあったと振り返り、今回の対面開催の意義を語った。一方で、新型コロナの重症者数・死亡者数は高止まりしており、いまだ予断を許さない状況であると強調。感染症法改正や全数把握の見直しなどの議論を注視しつつ、1日でも早く医療現場が働きやすくなる環境を整備し、国民が安心して生活を送ることができるよう尽力していきたいと結んだ。
 引き続き、令和4年度の役員選任が報告され、近医連規約第7条および第8条に基づき、委員長には、八田・兵庫県医師会長、副委員長に、越智眞一・滋賀県医師会長および鈴木克司・兵庫県医師会副会長、常任委員に平石英三・和歌山県医師会長と松井道宣・京都府医師会長、監事に安東範明・奈良県医師会長ならびに高井・府医会長が就任した(任期は来年6月30日まで)。来賓あいさつでは、松本吉郎・日本医師会長が登壇。各地域における医療提供体制、救急医療の現場が逼迫している状況を踏まえ、8月29日に加藤勝信・厚生労働大臣に要望書を提出したと明かし、陽性者の全数把握や隔離期間の短縮など問題点を共有していると表明。今後も国や都道府県医師会などと意見を交わしながらコロナ対応にあたっていきたいと力を込めた。その後、齋藤元彦・兵庫県知事、久元喜造・神戸市長より祝辞が述べられた。
 次いで、八田委員長が議長を務め、3年度の近医連活動を中尾正俊・府医副会長、歳入歳出決算を北村良夫・同理事が報告した。その後、鈴木・兵庫県医師会副会長より4年度事業計画、橋本寛・同副会長より予算が提案され、いずれも承認された。さらに、岡林孝直・同副会長より6項目にわたる決議が読み上げられ、大きな拍手で採択された。

脱成長社会へ転換
特別講演で斎藤・東大大学院准教授

 定時総会後には、特別講演として斎藤幸平氏(東京大学大学院総合文化研究科准教授)が「転換点に立つ時代――共に考え創る、私たちの未来」と題して講演した。
 斎藤氏は、新型コロナウイルス感染症の世界的な感染拡大によって浮かび上がった「経済格差」と「環境危機」といった資本主義の問題点を指摘。経済成長に重きを置いた社会から人や自然環境に対するケアを重要視した〝脱成長〟社会へ転換していく必要性を説いた。

近医連総会 分科会報告(概要)

第1分科会/医療保険
今後の検証のために府県の状況を日医に

 第1分科会(医療保険)では、総会に提示する決議案の検討をはじめ、「令和4年度診療報酬改定の評価とその問題点に対する今後の対策」について協議が行われた。
 まず、各府県から今回の診療報酬改定について、▽オンライン診療・リフィル処方▽外来感染対策向上加算▽「重症度、医療・看護必要度」の見直し▽かかりつけ医機能の評価として機能強化加算の要件厳格化と算定実績の追加▽オンライン資格確認の原則義務化▽急性期充実加算に見合う財源確保のための中小病院の施設基準の厳格化▽不妊治療の保険適用▽後発医薬品の使用割合の引き上げ――など多岐にわたる問題点が指摘された。
 永濵要・大阪府医師会理事は、医療機関が感染対策を講じた上で限られた人材で対応している現状を、これまで以上に主張すべきと力説。医業経営の維持には、診療報酬の底上げが不可欠とした。次回改定に向けては政治力を活用して、「必要な医療が遂行できる医療費財源の捻出」を求める必要があると訴えた。
 分科会後半は、城守国斗・日本医師会常任理事が「中央情勢および診療報酬改定の総括」を述べた。「外来感染対策向上加算」の厳しい要件は、中医協で結果検証を行うが、まずは都道府県の状況を日医社会保険診療報酬検討委員会に上げてもらい、その上で要件緩和を求めたいと言及した。オンライン診療およびリフィル処方の導入は決定プロセスを問題視し、特別調査の設計を行うなど評価の見直しを検討すると言明。かかりつけ医機能の制度化は、皆保険の根幹であるフリーアクセスの制限となり、日医は断固反対と力を込めた。
 そのほか、後発医薬品の安定供給を阻害するのはメーカーのコンプライアンス不足と断言。改善がなければ「後発医薬品使用体制加算」の使用割合見直しを求めたいとした。「重症度、医療・看護必要度」の見直しは、特に内科系疾患で病院経営への影響が大きく、調査検証部会で復活を求めたいと加えた。
 また、看護師の処遇改善の費用は固定財源であり、診療報酬で手当てすると使える財源の幅が狭まるため、本来は補助金で賄うべきであると主張。さらに、二次救急の評価は救急医療管理加算と夜間休日救急搬送医学管理料しかないため、高度急性期の評価のみでは救急医療は成り立たないと説明した。

第2分科会/地域医療
2025年を見据えた地域医療構想と病院統廃合について協議

 第2分科会(地域医療)では、「感染症対応も踏まえた地域医療構想の見直し」「病院統廃合における地域医療の課題」をテーマに協議。事前に各府県が回答したアンケート結果を基に議論が展開された。中尾正俊・大阪府医師会副会長は、地域医療構想調整会議において、▽病床機能報告に際して、病床機能の報告基準を明確化すべき▽コロナ禍以前に設定された必要病床数ではなく、有事に備えて考えることが必要――などの意見が挙がっていると報告。なお、病床機能の報告基準については、府医および病院団体と意見交換を行った上で、大阪府より目安となる基準が示される予定であると明かした。また、病院統廃合については、大阪府の既存病床数は「基準病床数以上、必要病床数未満」が前提であると前置き。救急医療の実施件数、手術件数、呼吸心拍監視・科学療法実施件数などのデータを用いて定量的な診療実態分析を行い、急性期病床を「重症急性期」と「地域急性期(サブアキュート・ポストアキュート)」に分類し、「地域急性期」を回復期病床に準ずるものとしていると述べた。さらに、病院の統廃合が地域医療に与える影響として、医療資源や人材が集約することによって医療サービスの向上が期待される一方、地域住民から「救急医療に空白が生じる」「医療へのアクセスが悪化する」等の反発が生じる可能性もあり、十分な説明を行い、関係者間の理解を積み上げていくことが重要であるとした。
 第2分科会に出席した江澤和彦・日本医師会常任理事は、地域医療構想における調整会議が形骸化しないよう医師会の役割が一層重要になると述べたほか、令和4年度診療報酬改定において「急性期充実体制加算」が新設されたように、近年では診療報酬改定が地域医療構想を牽引していると強調。また、今後は新型コロナウイルス感染症のような新興感染症に備えて、平時から感染症に対応できる医療提供体制を維持していくために国と議論を進めていくとして、協力を要請した。

第3分科会/感染症対策
新型コロナウイルス感染症における取り組みや課題を討議

 第3分科会(感染症対策)では「新型コロナウイルス感染症の対応」について協議が展開された。はじめに外来診療体制および入院病床確保等に関して各府県から説明。事前アンケートを踏まえ▽回復者の下り搬送▽公立病院等の患者受け入れ状況▽入・退院調整▽高齢者施設内での療養体制――などの状況が報告された。大阪府医師会からは宮川松剛理事が、令和2年5月より大阪市立十三市民病院を新型コロナ専門病院とした取り組みなどを述べた。
 次いで、「自宅療養者と宿泊療養支援体制」について、電話等の情報通信機器を用いたオンライン診療を中心に意見交換。オンライン診療の活用や考えには相違があり、「うまく機能していない」「活用が進んでいない」との意見が挙がる一方で、「かかりつけ医による電話での診察は有効であった」という声もあった。
 さらに、「今後の再興・新興感染症対策にいかすべき点」など今後を見据えた対応を討議。宮川理事は、今後の新興感染症への対応には、地域医療構想の病床・医師削減等の方針に対し、見直しを求めていくべきと力を込めた。そのほか、医学部講義に対して公衆衛生関連を充実させる必要性やワクチン・治療薬など手立てがない状況も想定した対策を講じるべき――など様々な課題が指摘された。
 また、宮川理事が全数把握の是非を話題に挙げ、各府県とも全数把握を維持すべきとの姿勢を示した。その理由として、「今後の新興感染症対策に役立てるため」「重症化リスクのある患者を見逃さないためにも必要」などの発言があった。
 釜萢敏・日本医師会常任理事は、「医療機関の負担を覚悟の上で全数把握を維持すべきとの意見に感銘を受けた」と述べ、今回出された意見は様々な機会で国に伝えていきたいとの意向を示した。

茂松・日医副会長
議論を総括

 茂松茂人・日医副会長(府医理事)は、感染症法の改正が議論されていることに触れ、「新型コロナの感染力を上回る新興感染症にも対応できる医療体制の構築」などを関連省庁に訴えていきたいと語った。

決 議

 新型コロナウイルス感染症の収束は未だに見通せないが、このパンデミックに対し2年余の間、多大な国民の負担と巨額の経費が費やされ、その一方では医療関係者の献身的な働きによって、世界の中でも人口比で見た死者数は極めて少なくすることができた。しかしながら、政府の医療費削減政策のために病床削減と転換が進められてきた結果、医療機関に経営的に対応する余裕はなく、病床逼迫が生じたことも事実である。今後に備え、これまでの対策を総合的に検証し、実効性のある医療提供体制を確立する必要がある。
 コロナ禍において日本社会のあらゆる分野でIT化の脆弱なところが露見した。政府は感染症対策の不手際の一因はここにあるとして、医療のIT化の名の下に、オンライン診療とオンライン資格確認システムの原則義務化を拙速に進めつつある。オンライン診療においては、医師と患者の信頼関係の上に成り立っているという原則を放棄し、利便性と経済性のみに基づく要件緩和には、医療制度に対する信頼を失墜させかねない多くの問題が生じている。
 また、このコロナ禍で全世代において「かかりつけ医」の果たす役割の重要性が明らかになったが、政府は「かかりつけ医制度」を法制化し、国民皆保険制度の根幹をなすフリーアクセスの制限や診療報酬の包括制を導入しようとしている。国民に信頼される「かかりつけ医」は、日々の診療を通じて培ってきた信頼できる医療と地域保健活動に対する貢献の上に成り立つもので、一元的に法制化できるものではない。
 財政的な配慮のみから今回の診療報酬改定で導入されたリフィル処方箋は医師が患者を診察しなくても薬剤師の判断で処方は続行されるなど、保険診療の原則に反するものであり、患者の療養管理上問題が生じかねず、医療の信頼を損なわせる危険性がある。
 ウィズコロナ・ポストコロナにおける国民の信頼に応えられる医療制度を確立するために以下の決議をする。



一、医療費抑制政策を中止し、あらゆる事態に対応可能な医療提供体制を構築せよ
一、医療のIT化を経済効率優先ではなく医療の質と安全性に配慮して再考せよ
一、オンライン資格確認の拙速な義務化は現状に配慮して再検討せよ
一、かかりつけ医制度の法制化は中止せよ
一、医療の信頼を損なわせる危険性のあるリフィル処方箋は廃止せよ
一、国民の命と安心を守るために社会保障費の財源を確保せよ

令和4年9月4日
近畿医師会連合定時委員総会