
TO DOCTOR
医師・医療関係者のみなさまへ

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時事
府医ニュース
2022年9月7日 第3011号
今夏、私達は初めて行動制限なき流行波を迎えている。7月当初「現状としては行動制限をかけるというような事態とは思っていない」との政府閣僚発言があった。しかし、予想されたことだが、大規模イベントのあとで感染者数が全国各地で増加。8月だけの新型コロナ死者数は7000人以上と阪神・淡路大震災よりも多い状況だ。
府下では、8月末現在、発熱外来のみならず救急医療にすらアクセスできないという声も多い。外傷患者が入院時にコロナ陽性であったことが判明、その後患家で数時間も搬送されずに医療・介護スタッフ、救急隊が立ち往生したとの、会員からの報告も入っている。高齢者施設のクラスターは壮絶の一言。感染職員が感染入居者をケアしないと現場が回らないという悲鳴もある。
それでも、イベント自粛要請、流行地域における限定的な行動制限の方策は一向に出される気配はない。それどころか、政府は感染拡大防止策の徹底を条件に、9月中旬から無症状コロナ感染者の「買い出し」容認を検討しているという。
さらに医療現場を悩ませているのは、解熱剤などの治療に必要な医薬品、診断のための検査試薬の欠品である。この問題に対し、政府は感染症法を改正し医薬品緊急生産の指示を可能とするとの報道があった。そもそも昨年2月に起きた後発医薬品を中心とした出荷調整が今回の問題の引き金とも言える。この問題の背景には緊縮政策による現場への負担がある。
検討されている法改正で、感染症流行時に政府が特定医薬品の緊急生産を国から強制しても、普段からの人的、財政的な備えがなければ対応が困難であろう。また、従わない企業には企業名公表や罰則導入も検討事項とのこと。十分な手当なき対策・罰則は、さらなる現場への負担、事故を引き起こすに違いない。
医療機関・保健所の負担軽減のためHER―SYS見直しを政府が検討しているという。そもそもHER―SYSは、保健所・医療機関等の負担軽減のために導入されたもの。その感染者増大による対策が全数把握見直しというのは本末転倒である。まずは、その安直なPDCAサイクル思考やICTを導入すればうまくいくという考えを見直してほしい。
次の波への対策も期待できず、医療と介護の現場では諦めの空気さえ漂う。医療や介護従事者の立ち去り型サボタージュが起きぬよう、そして、何より災害や感染症流行などの社会の歪みが起きるたびに命の危険にさらされる人々への十分な対策を政府には望みたい。それは30年近く続いた小さな政府(新自由主義)からの転換である。(葵)