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医師・医療関係者のみなさまへ

本日休診

日盛りの祷(いの)りの木

府医ニュース

2022年8月3日 第3008号

 「兵隊の戦闘能力を高めるクスリって、言い方、いやです」。
 看護学科1年生の治療論総論で、ステロイドの講義の後、学生さんに言われた。
 「諸種の副腎皮質ホルモンの発見およびその構造と生物的作用の発見」で、ドイツ・バーゼル大学のタデウシュ・ライヒスタイン、アメリカ・メイヨークリニックのエドワード・カルビン・ケンダルとフィリップ・ショウォルター・ヘンチの3人が1950年ノーベル生理学・医学賞を受賞した。コルチゾンの抽出・合成や、関節リウマチへの臨床応用が評価されたのだが、第二次世界大戦中で、副腎皮質抽出物をパイロットに投与すると、高いところを飛んでも酸素欠乏症になりにくいという報告が、軍事利用が絡んだ大きな関心事となり、国家的プロジェクト規模にまで広がった。
 軍事的に実用化に至る前に終戦となった、と彼女に返答した。1年生の彼女は、高校の後半から受験まで、ずっとコロナ禍で、いまだに学生生活が影響を受けている。加えて、戦争という現実がSNSなどを通して、リアルタイムに伝わる映像が苦しい、と。「だからこそ、医療に携わりたかった」と答えた彼女がまぶしかった。
 2月に起こったウクライナでの戦闘が長引いている。私達の日常への暗い影は、確実に伸びて、迫っている。様々な禍に、何ができるのか。自問する。理不尽を非難するだけでなく、無力を嘆くだけでなく、熱意を持って、粛々と、自分のできることを行う。

滾るもの
 あり日盛りの
     祷りの木
橋爪鶴麿

 平和という言葉の重みをかみしめる、77回目の8月。(颯)