
TO DOCTOR
医師・医療関係者のみなさまへ
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3000号座談会
府医ニュース
2022年5月18日 第3000号
佐々木 洋(大阪府病院協会長)
生野 弘道(大阪府私立病院協会長)
加納 繁照(日本医療法人協会長・大阪府医療法人協会長)
長尾喜一郎(大阪精神科病院協会長)
茂松 茂人(大阪府医師会長)
司会:阪本 栄(大阪府医師会理事)
司会(阪本) 本日は「大阪府医ニュース」3000号記念ということで、大阪府内の病院団体のトップにお集まりいただきました。
茂松 今般、府医ニュースが発刊3000号を迎えることになりました。大阪の医療は病院と診療所がオール大阪で対応しているということを示したいと企画しました。本日はよろしくお願いいたします。
司会 最初に府医ニュースの印象、感想などをお聞かせください。
佐々木 この度は、府医ニュース発刊3000号、誠におめでとうございます。一口に3000号と言っても気の遠くなる数字で、現在の月3回発行で換算すると80年以上かかる、そういう数字です。改めて、編集に携わってこられた先生方の血のにじむようなご尽力に心から敬意を表します。
生野 発刊3000号、おめでとうございます。府医ニュースの主張は、民間病院の理念や基本方針と全く同じですので、私達はいつも賛同しています。ますますのご発展を祈念しております。
加納 発刊3000号、おめでとうございます。時のそれぞれの会長が大阪の将来を見越して活動されたことをベースに、府医ニュースが「道しるべ」として伝え、今の府医の存在につながっていると考えます。そういう意味で、今後も我々の目標を示していただき、大阪の医療を牽引してほしいと思います。
長尾 この度は府医ニュース3000号発刊、おめでとうございます。府医ニュースでは、これまで新年号、今は年末号で編集委員の皆さんが顔写真で紹介されていますが、ご苦労が目に見えるようです。これからもよろしくお願いいたします。
佐々木 3000号まで70年以上かかっているということですから、すごいなと思います。
加納 1000号が山口正民先生というのもびっくりしました。
茂松 府医の土台は山口先生のあたりからできました。
加納 あの頃に基礎が築かれた感じがしますね。
茂松 そうですね。その後、植松治雄先生が形をつくりました。
加納 そして今度は茂松会長が。
茂松 いえいえ。私はお世話になっているだけです。
司会 さっそくですが、新型コロナウイルス感染症の話題に移りたいと思います。
茂松 当初から保健所機能が非常に重要だと思っていました。ただ、保健所は平成6年の地域保健法から機能が縮小され、大阪では橋下徹知事の時代に大幅に削られました。今回、感染症に脆いということが明らかになりました。特に診療所では、通常診療と同時に感染症を診るというのは非常に難しい。それでもPCR検査や予防接種についても何とか頑張ってこられたと思います。
佐々木 第6波に関しては、医療機関、医師会、行政が一丸となり、オール大阪で対応できたと思います。それでも、初期治療が追いつかず、多くの患者が亡くなるという悲劇が起こりました。救急搬送困難事案も多数発生し、一般医療にも多大な影響が及びました。しかし、全体としては明るい兆しも見えた感じがします。今後は、感染予防の徹底や早期の治療はもちろんですが、生命維持のための早期治療介入といったシステムをオール大阪で構築しなければならないと思います。
生野 第2波が終わった令和2年10月頃、「民間病院はコロナ患者を受け入れていない」といったバッシングが起こりました。大阪でも批判が高まりましたが、茂松会長は、「現実はそうではない」と反論されました。第3波以降は多くの民間病院が立ち上がり、大阪でのコロナ対応に努力しています。ただ、コロナ医療に専念するわけにいかない事情もあります。補助金が導入されるまでは、コロナ患者を受け入れている病院は赤字で、クラスターが発生した病院は悲惨な状況でした。それでも、医療団体などの訴えで補助金が出るようになり、何とか闘える状況になりました。
加納 民間病院がコロナ患者を受け入れていないとの発言には憤りを覚えましたが、その時に府医が声を上げ、支援いただいたことに感謝しています。当初はマスクも消毒薬もPPEもない。いろいろなものを代用して使っていました。それでも徐々に軽症・中等症の患者を引き受け、重症例に関しても活躍できる状況になったと思います。まさしく総合的な力を発揮し、公的病院と一緒になって民間病院が闘ったことで、大阪は模範的な形で医療体制を作れたと思っています。ホテル療養に関しても、オール大阪で対応しました。こういったことが唯一できるのが大阪ではないでしょうか。今後もいろいろな感染症が起こると思いますが、オール大阪で闘えば、模範的な形を全国に示せます。
長尾 コロナ関連業務としては、患者の受け入れ先として7病院・56床を確保しました。また、宿泊療養施設、ホテル療養者の「こころの健康相談業務」を大阪府から受託したほか、精神科患者の後方支援病床として21病院が協力しています。加えて、当協会内で「コロナ感染対策アドバイザー登録」を行いました。クラスター対応の経験や特別に勉強した医師・看護師・薬剤師など24人が登録し、相談に乗っています。感染対策の情報共有や家族の面会についてのアンケートも実施しました。
茂松 大阪はサービス付き高齢者向け住宅(サ高住)での感染対策が行き届いていなかった。一旦感染が起こるとゾーニングも全然できないので、普段からもう少し強化しないといけないというのが反省点だと思います。
生野 行政の介入が必要でしょう。自治体が「施設と病院は連携できているんですか」と確認しないと。平時に我々が言っても響かない。府医から行政に要望していただきたいです。
茂松 行政には引き続き伝えていきます。地域で役割分担を決め、協力することが大切です。そういう意味では行政との連携も非常に重要です。
佐々木 クラスターが発生しないよう施設の感染防御設備の改善や人員配置など定期的なチェックを行政主導で進める必要があると思います。
加納 防御対策だけでは難しいので、それに対する医療体制のバックアップ――今回、我々の病院では感染管理の認定看護師が活躍してくれました。そういう人材を派遣するといったことも現実的な話かなと思います。
茂松 府医では、感染区域で働く医師・看護師の感染に対する研修をスタートし、人材育成に取り組みました。さらに強化していきたいと思っています。今後は外来が重要になりますので、医師会として力を入れたいと思うところです。
佐々木 中小の民間病院が多い日本のシステムは、新興感染症が突然起こった時に個々の設備や人が不足します。いざという時に、国・行政の命令下で感染症対策に特化できるような法律やシステムが必要だと思います。さらに、日本は感染症指定病院が少なくて、大阪でも6病院72床しかありません。有事のことを考えると、災害拠点病院ぐらいのレベルで感染症拠点病院のような施設を増やすべきだと思います。
茂松 そうですね。公立・公的病院の在り方を含めて、日頃から人材育成とベッドの確保を考える必要があります。
司会 次に2年後に実施される第8次医療計画についてご意見をお願いします。
佐々木 突発的に起こる新興感染症や大規模災害に対応するには、平時から有事に備えた整備や訓練が必要であって、例えば病床利用率が100%近くにならないと黒字化しない、こういうシステムではなかなか有事の対応はできないです。
茂松 今まで平時の医療は非常に良かったと思います。ですが、今回のコロナでこれだけ医療が乱れて、感染症に弱いということを経験しました。民間が成り立つような医療体制、診療報酬体系を考えていくことが大事になると思います。感染症を含め日頃から公立・公的、大きな民間、中小の民間、そして診療所の役割分担を考えておくことが重要です。
生野 医師確保計画の中では、大阪全体を医師過剰地域として、特に専攻医・研究医をシーリングで排除しています。そんなばかなと。研修は都会ですべきです。それを終えた人が地域に行くのは分かりますが。あと、医師の働き方改革、冗談じゃないですよ。もっと勉強させないと。現場の意見を無視したままでは、大阪の2次救急は全滅に近くなります。医師会の強力な支援をいただいて、令和6年の開始までに軌道修正しないといけません。
加納 「地域医療構想」「働き方改革」「医師偏在対策」の三位一体改革の結論からでは、本当に大きな病院しか急性期ができないことになります。そのイメージに近いのは、欧米の大きな病院ですが、実はコロナの第1波の時に一瞬で崩壊しました。集約化し過ぎるとそういう形になってしまう。日本は、8割の民間病院が当初はコロナ患者を受け入れず、救急医療はしっかり守ったわけです。
司会 三位一体改革、さらには新専門医制度も関係してくると思いますが、もう少しご意見をいただけたらと思います。
加納 宿日直許可に関しては厚労省が前向きに対応しています。医療機関からの相談を受け付ける窓口も設置されました。これは画期的なことで、前向きに相談できる窓口ができたというのは一歩前進です。
茂松 それと、病院へのアンケート調査も進んでいますね。結果によっては、「ちょっと待った」ということもありそうです。
佐々木 宿日直許可の相談は結構ありますが、申請となると二の足を踏んでしまうようです。
生野 医師も労働者ということで勤務時間を制限してもいいですが、ちょっと考え方が……。法律に従うと研修医は勉強できなくなる。若い時に一生懸命勉強して仕事して、みんなで頑張れと応援してあげないと、ろくな医者が育ちません。
茂松 昔は医局制度があって、困った人の相談を受けていました。今は相談する場がない。それで自殺に追い込まれる悲劇もあったり。昔、僕らが医局から派遣された時は自殺などなかったですよ。きちんとした指導があり、勉強もたくさんしました。
生野 医師のための法律であれば、専門家の意見を聞けと言いたいですね。
茂松 医療側で在るべき姿を出して、政治に訴えないといけないです。そこは政治力をつけないといけない。
生野 あと、地域医療構想で多くのデータが出されますが、解説する人がいない。5大学がもっと公衆衛生に力を入れなければなりません。専門家が地域医療を丁寧に解説すべきです。データへの説明がないのに地域医療構想調整会議で進めなさいって、無理ですよ。
茂松 働き方改革が医師の健康管理を主眼とするなら、もう少しやり方があると思います。我々がデータを提示しなければならないですが、何もできていない部分もあります。
佐々木 産科を掲げる公的病院は多いですが、それを集約しようとしている。医師の働き方改革に沿った手法ですが、お産をする側の立場に立っていない間違ったやり方だと思います。
茂松 集約化・効率化にいいことはあまりないです。有事、平時でどう考えるかということが大切です。
長尾 精神科は地域医療構想には直接入っておりません。精神科は救急を診ながら慢性期も対応していたり、非常に多彩です。600床、900床の病院もあり、身体科とは少し違う構図があります。しかし、国は急性期とのすみ分けを求めてくるでしょう。診療報酬においてもそのような仕組みができました。さらに、病院ごとの救急病床の制限もできましたので、身体科病院と同じようになっていくのは明らかです。今後、いろいろな問題が出てくるのは精神科も同じです。
茂松 特に精神科は認知症と若者のメンタルですよね。役割が広くなるし、今の医師数で対応可能なのかということもあると思います。
長尾 多様な精神疾患に対応するということで、依存症からPTSDなど、オールマイティーに診ることができる精神科医療が求められています。
佐々木 産業医もほとんどメンタルの仕事ですよね。
司会 令和4年の診療報酬改定は、本体プラス0.43%で決着しました。表向きは本体プラスですが、看護師の処遇改善、不妊治療の保険適用、リフィル処方導入など、決してプラスではありません。中医協で議論がないままにリフィル処方が導入されたことや初診からのオンライン診療など、中医協の在り方についてお聞かせください。
茂松 今回のような、本来は中医協の外での話が診療報酬に入ったことが大きな間違いです。リフィルやオンラインなど医療を後退させるような話が平気で行われること自体おかしいです。医師会が発言力を強くして、正しい主張をしなければならない。やはり政治力が重要だと思います。
加納 病院に関しては、今改定で急性期入院基本料の「重症度、医療・看護必要度」の評価項目から、いきなり心電図モニターが外されるという暴挙に出られました。現場を無視したもので、急性期病院にとって厳しいことをいきなりされたという状況です。回復期リハに関しても同様で、「潰れてもいい」と言われているのと同じぐらいのインパクトです。地域包括ケア病棟にも救急実施といった変な条件まで付きましたし乱暴過ぎます。中医協で議論していたら絶対成立しない話が出てきている。中医協の在り方を議論して、現場に即した内容で討論できるような状況にしていくべきです。
茂松 患者の視点も全く入っていません。
生野 看護師の処遇改善、そんなの当たり前です。不妊治療の話も診療報酬の外でしてもらわないと。技術料の評価がないじゃないですか。日医の「ある程度評価できる内容」との発言はちょっと問題だと思います。
茂松 あれはおかしい。大きな問題ですよ。
生野 妥協の産物ですからね。本当はこんな時こそ診療報酬を上げないといけない。
茂松 今後は受診状況も変わりますから、病院の在り方も変わってくると思います。余裕を持った医療体制が必要なのに、全然できていないですから。
加納 圧倒的に増える大都会の高齢者に対する医療体制を考えないといけません。高齢者医療の需要は間違いなく右肩上がりで進みます。一方で少子化の流れは変わらない。そこをきっちりと確認しながら次の医療を考えていかないといけません。
司会 たくさんのご意見をいただきましたが、この機会に何かご発言はございませんか。
生野 私は、「民間病院は救急を断らない」。この姿勢を強く広めています。救急で10回、20回と断られたと市民は平気で言う。冗談やないぞと。こんなこと言われて平気なのかと。現場の大変さは分かります。でも、一旦は受けてほしい。救急患者を全部診ることは当然だと思います。医療人がこれを言わなければどうするんですか。救急要請が来ても断って、10回、20回とぐるぐる回る。コロナで医療崩壊って、何度も続けば何してるんだとなります。機能・役割分担で救急を断らない。これを大スローガンとしてほしい。全体で救急を診よう、救急拒否ゼロの社会をつくろう、当たり前だと思います。
茂松 大阪はまだましな方です。
加納 全然ましです。大阪の2次救急は頑張ったと思います。救急搬送困難事案数の増え方でも2倍ぐらいにはなっていますが、実数で考えたら本当に頑張っています。大阪は、例えぐるぐる回っても、きちんと診るというシステムができています。
茂松 ただ、懸命に力を入れている病院から見た時に、もう少し頑張ってほしいと言われる気持ちもよく分かります。みんなで頑張ろうというのが生野先生の思いですね。
佐々木 公立病院でも病院長は断りたくないのですが、医師が超専門化していてなかなか対応しきれない面もあります。
茂松 脳外科医なので呼吸器は診れないと言われると、そこで終わってしまいます。
生野 医師であるなら一度は診る。それからどこに送ったらいいかを考えないと。
茂松 万一の時に責任を追及されるのでは、という不安が問題です。昔はそうじゃなかった。専門性がはっきりしてきたことで締め付けられるようになったと思います。
佐々木 ただ、最近は初期研修で広く内科なども勉強してきているので大分良くなりました。初期研修制度は欠点もありますが、幅広く疾患を診ているということで、ある程度の症状は対応できるようになったと思います。
生野 連携も必要です。自院で対応できない時もたくさんあります。コロナが疑われると厳しいとか。救急は全部拒否しない、そのかわり次に搬送できるシステムがあるという状況がいいと思います。
加納 これからは高齢者救急がメインになってきますので、しっかりと対策を考えないといけない。大阪は医師会を中心に、様々なことを全国に先んじてやってきました。これからもお願いしたいと思います。
生野 もう一つ言いたいのは在宅医療です。診療所と中小病院がタッグを組んで回すべきだと思います。ここに力を入れたい。あと、もっと高齢者の施設をつくるべきだと思います。在宅が推進されていますが、実際は施設の方が喜ばれることも多い。
茂松 以前はある程度入院で診ていましたからね。診療所と在宅支援診療所の連携も必要だと思います。
加納 それと、急変に備えて2次救急との連携も強化もしたいですね。
茂松 平時からの連携が大事です。
佐々木 我が国の国民皆保険制度と民間医療機関を中心とした体制は堅守すべきだと思います。ただ同時に、高度医療も進めないと世界から遅れてしまいます。やはり両方をやらないといけない。特に高齢者に対する医療は生命の延長だけではなく、QOLを重視して健康寿命を延ばすような医療を考えないといけないと思います。
司会 コロナという有事に、日本の医療は非常に脆かったと思います。
茂松 そこは反省しないといけません。しかし、国は余裕のある医療というものを全く考慮せず、粛々と地域医療構想を進めています。これは正さなければならないと思っています。
本日はありがとうございました。
2019年12月に中国で初めて報告され、全世界に広がる。発熱、鼻水、喉の痛み、せきなどの呼吸器症状が現れ、一部で重症化・死亡例も見られた(2022年4月末で国内の累計感染者数は約810万人、死亡者数は約3万人)。感染防止のためマスク着用、消毒、3密(密閉・密集・密接)回避が定着した。日本では、保健所機能が逼迫し感染症に脆弱な医療体制が明らかとなった。座談会の時期は、国内で感染例が確認され2年が経過していたが、収束のめどすら立っておらず、全員がマスク着用で座談会に臨んでいる。