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医師・医療関係者のみなさまへ

緩和医療に関する研修会

府医ニュース

2022年1月26日 第2989号

生き方を決めるACPを目指す

 令和3年度緩和医療に関する研修会が12月8日午後、大阪府医師会館で開催され、医師・医療従事者ら約120人が会場およびウェブにより視聴した。
 大平真司理事が座長を務め、中尾正俊副会長が開会あいさつ。緩和ケアが必要な患者が尊厳のある人生の最終段階を迎えられるよう、その家族を含むサポートについて考える機会になればと期待を寄せた。

患者の価値観や人生観 話し合って共有を

 引き続き、池永昌之氏(淀川キリスト教病院緩和医療内科主任部長)が、「地域連携と緩和ケア――今求められる地域でのACPの取り組み」と題して登壇した。冒頭、最近の医学・医療の進歩による治療により、逆に家庭や施設に戻れなくなるなど、患者本人にとっての「生活の質」「精神的苦痛」などが問われていると指摘。治療法の決定には、「本人の希望」や「推定意思(推定される本人の希望)」が尊重されると言及した。
 そこで、患者・家族・医療従事者間の「話し合い」を通じて、「患者の価値観」を明らかにし、これからの治療・ケアの目標や選好を明確にするプロセスとして、ACPが重要になってきたと強調。患者にとっては「理解しようと聞いてくれる人」がそばにいることが鉄則だと語った。▽患者の強みや大切にしていることを理解して聞く▽会話を途切れさせず思いを引き出す▽患者に関心をもって接する――などの要点を説示した。
 最後に、東淀川区で実施している「オレンジノート(自分の価値観や人生観を記すエンディングノート)」や「こぶしネット(東淀川区の在宅医療連携を考える会)」を紹介。「死に方を決めるのではなく、生き方を決めるACPを目指したい」と結んだ。

必要な人に等しく 緩和ケアの提供は責務

 所昭宏氏(近畿中央呼吸器センター心療内科長)は「呼吸器疾患と緩和ケア――今求められる地域でのACPの取り組み」をテーマに講演した。日本緩和医療学会の統計で、令和元年度における非がん疾患の緩和ケアチームへの依頼件数は、5289件(うち循環器疾患:1685件、呼吸器疾患:757件など)あったと提示。また、日本肺癌学会「肺癌診療ガイドライン」では、進行・再発肺がん患者に対して「診断早期からの専門的な緩和ケアの提供」を推奨していると言明した。なお、「緩和ケアとがん治療の統合」は、米国のがん学会においても標準的な考え方で、QOLや抑うつの改善があると報告。WHOが推奨するUniversal Health Coverageとしての緩和ケアという考え方では 「重い病とともに生きるすべての人とその家族を対象とし、必要な人に等しく提供することは、医療・介護・福祉従事者と施設の責務である」と力を込めた。
 さらに、堺市二次医療圏でのACP普及の取り組みを報告した。同市のがん診療拠点病院は5病院あり、緩和病棟・病床は7病院で設置。平成30年に堺市ACPワーキンググループを立ち上げ、がん拠点病院・行政・三師会・看護ほか関係団体等でネットワークを構築。各種研修会や事例検討会などを開催し、普及・啓発に努めているとした。