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時の話題
府医ニュース
2021年10月27日 第2980号
高齢化の進展とともに認知症患者が増加の一途をたどっている。日本の認知症患者は、2012年には462万人と推計されているが、25年には730万人に達するとの推計がある。日本は少子化とともに寿命の延伸などにより人口の高齢化が世界で最も進んでいる。
現在、健康寿命の延伸が国の施策として進められているが、認知症の最大の危険因子は加齢であること、また、認知症による生活の機能低下などを考えると認知症対策は重要な課題である。しかし、長年にわたり認知症は有効な治療手段がないこともあり、介護などの生活支援に重点を置いた対策が行われてきた。
ようやく1999年にドネペジルがアルツハイマー病に対する治療薬として販売され、認知症に対しての医療的な介入が進んだ。その後も認知症の大部分を占めるアルツハイマー病に対する新たな治療薬の製造・販売が続き、現在はドネペジル、ガランタミン、リバスチグミン、メマンチンの4剤が臨床の場で広く処方されている。これらの薬剤は神経細胞の変性により減少した脳内のアセチルコリンの分解酵素であるコリンエステラーゼを阻害することにより、脳内のアセチルコリン濃度を高めるなどして進行を遅らせることが期待できるが、効果は限定的でありいわゆる疾患修飾薬ではない。そのため、長年根治的な治療薬の開発が待たれていた。
しかしながら、アルツハイマー病の病因は未だ明らかではなく、病態も均一でないことなどから、これまで世界各国で積極的に治療薬の研究・開発が行われてきたものの、効果、副作用などの面から多くの候補薬が治験段階で頓挫し、なかなか実用化には至らなかった。
このような中、FDA(米食品医薬品局)は6月7日、新たなアルツハイマー病治療薬として米製薬大手バイオジェンと日本のエーザイが開発したアデュカヌマブの製造販売を条件付きで承認した。これまでのアルツハイマー病治療薬は、前述したようにコリンエステラーゼ阻害剤が中心であり、神経細胞が変性・死滅していくプロセスに直接関与するものではなく、疾患の進行を止めることはできなかった。今回のアデュカヌマブは、アルツハイマー病の主たる病態とされるアミロイドβ蛋白の沈着を低下させるというこれまでにない薬理作用から、病態に直接作用することでより効果の高い治療薬として期待されている。
今回の承認についてFDAは、有効性を巡り専門家の間で見解が分かれたことから、迅速承認の要件として引き続き検証試験による臨床的有用性の確認を求めており、効果が十分に確認できなければ承認を取り消す可能性もあるとしている。日本においても昨年12月に承認申請が出され現在審査中であり、年内には結論が出される見込みである。
患者、家族からは既に大きな期待が寄せられているが、日本での承認にあたっては、効果、有害事象の確認はもちろんのこと、高薬価、患者数を考えれば日本の国民皆保険制度の中での取り扱いが注目される。