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府医ニュース

2021年10月20日 第2979号

サマリーシートのゆるキャラ

 私は地域医療の根幹となるサマリーシートを十数年間使用しているが、現在は『あなたの記録』という名前を付けたソフトタッチのデザインに改良した。患者が貰って興味を示す装丁でなければいけないし、高齢者が理解できるものでなければいけない。しかし患者にばかり迎合すると、専門医に伝わる内容が失われてしまう。このような考え方で、患者の反応を拾いながら改変していった。大病院に勤めていた時はシステムエンジニア(SE)に依頼していたが、紙カルテ運用の診療所でも自作できるような、エクセルベースのデータシートが目標であったため、すべて自作にこだわった。実際、外部に新たに作成を依頼すると数百万円、部分手直しで数十万円かかるという試算があったからである。
 意外な発見として、自作プログラムは電子カルテから独立して作動するため、操作に慣れてくると、電子カルテ連動型よりも作業スピードが上がったことが挙げられる。大病院ではあらゆる職種が、自分の思いを馳せたプログラムを委託SEに注文するため、電子カルテ外付けの連動型オプションプログラムが多くなる。その結果、これらが競合して、一流メーカーの電子カルテの運用速度低下を招く矛盾を生じている。
 AIの時代にもかかわらずマニュアル思考なのは資金難故だが、自作のデータシートは味があると同時に作動が早い。診療時の記入カルテであり、患者に渡すサマリーシートであり、診療情報提供書の添付書類として扱い、そして統計処理ができるデータシートでもある。複合的な機能を持つシートの創造の世界が展開する。大病院で勤めていた時と異なり、「自分がこのように加工したい」と思った瞬間にシートを作り直している。外部で作成してインストールするのではなく、PC付録のエクセルでボトルシップのごとく組み立てていくので、ウイルス持ち込みは皆無だ。
 サマリーシートの中央には、人体解剖図を模した「ゆるキャラ」を挿入した。診察時に説明する臓器を、患者に説明できるギリギリまでデフォルメしている。素人が作図できる程度のものであり、その出来は中世ヨーロッパの解剖図のようで、作りの雑さには少し不満があった。もっとディズニーのような、プロ仕様のキャラクターに育て上げようとした。しかし意外なことに、腹話術のごとく人形を通して3年間患者と対話したが、いまだに生き残っている。ピノキオは、とうとう人間になれなかった。患者の評判が悪くなかったからである。
 いつ消去するか分からなかったので名前は付けなかったが、最近患者さんから「あのお人形さん下さい」と言われるまでになった。看護師さんからも「お人形さん、まだ渡してません」とか、ゆるキャライメージが先行していることに「もっと内容に言及してくれ」と言いたいところだが、今更名前を付ける気にはならない。人形の表情は、①絶賛して喜んでいる顔②まあまあだが悪くもなく容認している顔③落胆しているが、相手の気持ちを慮って今にも泣きそうな顔④とても失望した、しかし今後の努力に期待して叱咤激励している顔――の差分がある。「完全に失望し、お先真っ暗」という顔を作ったこともあったが、これはお蔵入りとなった。うつ病の患者に、主治医から見放された感覚を持たれるのは良くないと思ったからだ。人形の表情は患者のすべての状態を総合した診断結果であるため、患者に与えるインパクトは大きく、データ表ではないが、高齢者にも分かる直感的医療情報通信手段となる。
 このような細かい小技を盛り込んだゆるキャラに、自分の顔をはめ込んで見ると中々グロテスクであった。実体をイメージする顔を示すことは、漫画化した解剖図であっても生々しさが抜けないのである。飼い犬の顔も試みたが、やはり品のないイメージになる。結局、現在の顔は、オリンピックで話題になった性別不詳のピクトグラム的意匠を、患者との対話の中で選んできたのである。誕生から3年、私の可愛いお人形さんは、今しばらく私のパートナーでありそうである。(晴)