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医師・医療関係者のみなさまへ
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府医ニュース
2021年8月25日 第2974号
大阪府医師会では医療問題研究委員会特別講演会を7月31日午後、府医会館会場およびオンラインにて開催。朝野和典・大阪健康安全基盤研究所理事長が「新型コロナウイルス感染症――現状と課題」と題して講演を行い、同委員会委員や府医役員らが視聴した。
はじめに、座長を務めた茂松茂人会長があいさつ。大阪では、新型コロナの第4波で入院調整患者も含めた自宅療養者が、最大で2万人近く出たことに言及。新たな抗体カクテル療法により、悪化が予測される患者に対する早期入院・治療など、大阪の医療体制や戦略を変える必要があることを大阪府に提言したいと力を込めた。
朝野氏は講演の冒頭、新型コロナウイルス感染者が急増する第5波は、各フェーズの対応がこれまでとは異なると言明。府医がこれから何をするべきかという理念を持つことが重要と前置きした。
新型コロナは日本の習慣で、3・4月、7・8月、そして11・12月から1月の人の集まる時期に流行の波が来ると説示。第5波は昨年の第2波と重なっており、恐らく第6波が年末年始に来ると予想した。
また、第4波で「感染者に対する死亡率が東京に比べて大阪が高い」と報道されたことを取り上げた。これは、70・80代の感染者数が両都市とも変わらない中で、東京は若年者の感染者が圧倒的に多かっため死亡率が低く出たのであり、そのような正確な要因も解析することは必要とした。
現在の第5波における死亡率が0.3%と、第4波における2.8%に比べて極端に下がっているのは、高齢者の感染者数が減ったためで、ワクチン接種の効果だと述べた。今は未接種の40~60代が重症化の中心になっており、それら年代への接種の普及を求めた。現在開発中の抗原成分や弱毒性の国産ワクチンもブースター効果を含めた使用が考えられるため不可欠とした。
なお、ワクチン接種は約85%の感染予防効果があるが、逆に15%の人は接種後も感染するため、マスク着用などは必要と指摘。また、重症化や死亡に対しては95%以上の効果があり、今回の感染拡大も医療逼迫には至っていないと語った。
第4波では、大阪府の重症病床は最大449床、軽症・中等症病床は1738床を使用し、更に自宅療養者も急増。府内のICU615床のうち、約3分の2をコロナ患者に使うなど、一般医療へのしわ寄せが起こり、手術を延期するなどまさに医療崩壊になったと振り返った。
今後の医療体制として、大阪府は新たに「中等症・重症一体型病院」の体制を考えていると報告。例えば市民病院は、これまで軽症・中等症病床が中心で、患者が重症化した場合は大学病院等へ移送してきたが、今後は継続治療することになると解説した。
現在、府内で580床もの重症病床が確保されたが、その反面として中等症病床の減床があることを問題視。これからは重症者・死亡者が減少するため、中等症病床に比重を移すべきとの考えを示した。また、ホテル宿泊療養へも、すぐに入所できる体制を計画。入所者全員に酸素モニターを配布し、濃縮酸素をホテルごとに3台配備した上で、1ホテル4~5人の看護師の体制で24時間観察をしていると状況を報告した。
今後の新型コロナに対する医療は、①カシリビマブ、イムデビマブによる「抗体カクテル療法」出現により、軽症・中等症病院では重症化リスクのある人の治療に重点を置く②その他の感染者はすぐに宿泊療養になるため、医療の中心がそこに移る③若い世代の感染者の増大で自宅療養者のサポートも重要になる――と詳述。更に現在開発中の経口抗ウイルス薬は、ワクチンと同様にゲームチェンジャーになると力説した。
つまり、「ワクチン接種で感染・発症・重症化を予防し、発症したとしても経口抗ウイルス薬で治療できる時代が来る。更に抗体カクテル療法で、重症化率も1%以下、死亡率も0.1%以下になるだろう」と期待を込めた。
以上から、新型コロナに対する近い未来は、①年1回の変異株に有効な改良を加えてのワクチン接種②治療と予防の両方で承認された経口抗ウイルス薬の処方③インフルエンザや感冒と同様に季節性の感染症になる④外来で冬季の発熱性疾患として抗原検査を行う⑤軽症病床や宿泊施設が無くなり、軽症患者はインフルエンザと同様に外来診療で行う――と予想。現在のように専門病棟を設置し、医療資源を投入することも無くなり、重症患者を除いて、すべての病院が対応することになると見通した。
また、若年者のワクチン忌避には、「受益者負担の原則」によるリスクコミュニケーションを図るのが良いと提案。▽重症化する高齢者や基礎疾患のある人には接種を説得▽40歳未満の人より、ワクチンのメリットが大きい40歳以上の人にワクチンを勧奨する方が適切▽小児への接種は、小児と同居する成人への接種を勧奨するのが合理的――など、メリット・デメリットを説明した上で希望者に接種を勧めるのが良いとした。
最後に、直近の問題である宿泊・自宅療養者をどのようにサポートしていくか、今まさに、大阪府医師会の肩にかかっていると締めくくった。