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トロフィー・ワイフ

府医ニュース

2021年6月16日 第2967号

 テレビ画面にはトランプ前大統領夫妻の姿が映し出されている。「最近、娘さんがデビューした某女性歌手」を私が誉めると、相方は「でも、アイツは○○と交際していたのに。土壇場で◎◎と結婚しちゃって…オンナはズルいよ!」と猛反発し、「男と女、どちらがズルいか?」という議論に突入しました。「トロフィー・ワイフって、知ってる? 功成り名遂げた男性が、糟糠の妻を捨て、若い美女と結婚することだけど、こっちの方がよほどズルいのでは?」と反論。それにしても、世界的なジェンダー平等の趨勢にとっては「まったく異次元の言葉」です。
 さて、カズオ・イシグロの短編小説「老歌手」は、ヴェニスの観光客相手のギタリストを語り手に、人気の落ちた老歌手が、愛妻と30年近く連れ添った現在、カムバックを目論み、愛妻と別れ、新たなトロフィー・ワイフをも得ることを決心する様子を描いたものです。老歌手は60代、愛妻は50代、ラストチャンスに賭ける老歌手にとって、トロフィー・ワイフが不可欠な存在であること、そして、それを最もよく理解しているのが当の愛妻(かつてのトロフィー・ワイフ)であることがうかがえます(「芸術家にとってのミューズ」とは似て非なるものと思われました)。
 わずか数十ページの短編ですが、解き難い問題を提示し、読み手の心を揺さぶり考えさせる作品でした。これからの時代も、デキる男のステイタス・シンボルは、やっぱりトロフィー・ワイフでしょうか? それとも??
(猫)