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府医ニュース
2021年3月3日 第2957号
3月になった。年度末には、年の瀬とは少し違った慌ただしさがある。卒業・進学、就職など、別れや旅立ちの季節であり、人々が集い、移動する季節でもある。ただ、ウイルスが、人間の都合を考えてくれるはずはない。いまだ、COVID―19は、私達の生活に大きな影響を及ぼしている。
スーザン・ソンタグの『隠喩としての病い』を読んだ。隠喩は、本来別の事象を示す言葉の転用を意味する。病気は侵入者であり、肉体という砦を包囲する敵だという隠喩が近代科学以前より存在し、医療者のみならず社会全体が病気と「戦う」という言葉は、病気のみならず、病気の人にもスティグマ(汚名)を着せることになる。
ウイルス感染症も同じく、ウイルスだけでなく、ウイルスに感染した人もスティグマが着せられると、感染したことを責められるようになり、重症化し死に至る不安だけでなく、社会的な制約という脅威に晒される。陽性が確定した途端、社会から別のカテゴリーへ移行する「隔離の恐怖」。そして、回復した後も、「元感染者」として、カテゴリーに固定化される恐れもある。
これはおかしい。誰も好んで感染したはずはないのだから。
「人は『ただ』病気になるのだ。病気になることが、罰だというふうに余計な意味を付与してはならない。病気の『現実性』を損なうことになる」とソンタグは指摘している。
どのような人にも感染のリスクがある。隠喩がらみの病気観を一掃し、真摯な視点を持つことを心掛けたい。
(颯)