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医師・医療関係者のみなさまへ

時事

オンライン診療と遠隔医療

府医ニュース

2020年12月30日 第2950号

汝のオンライン診療を知れ

 11月にオンライン診療が全面解禁となったが、これに対する政府の最新の考え方が知りたかったため、厚生労働省が4月に開設したオンライン診療研修を受けてみた。これは新型コロナ収束後にもオンライン診療が可能になる修了証取得のためのe―ラーニング研修である。驚いたのは、国家サイトであるにもかかわらず、申し込み用紙の最初に、日本医師会の医師資格証番号記入欄があったことである。更に研修を進めていくと、オンライン診療解禁前に作られたこともあり、その内容にはかなり慎重な姿勢が貫かれている。オンライン診療に対して賛否両論あったとしても、政府の経済界と医療界への両刀使いを垣間見る絶好の機会であり、また今後の議論を進めていく叩き台として、医師会員全員がこの内容を理解していなければならず、是非とも受講をお勧めする。
 厚労省の定義によれば、デジタルを通信手段に使う遠隔医療という大きな枠組みがあり、その一部に対患者のオンライン診療が含まれる。政府はオンライン診療を推進しているが、これはれっきとした診療行為であるため、個人情報保護や個人の権利等の縛りがあり、この最終的責任が医師に掛かってくる。政府は言うだけで、その尻拭いは医師がしなければならず、診療報酬等を鑑みると、今のところ割に合わないシステムとされている。当初は患者分布の変化が心配されたが、オンライン診療のみの診療所が禁止されているため、対面診療の補助的な色彩が強くなってきた。オンライン診療の責任を考えた時、むやみな導入はしない方が良いような風潮である。不完全なシステムを把握しておかなければならない理由はここにある。
 これに対して、遠隔医療の部分では、匿名化して医療情報を交換することが可能なので、今年の学会のような活発な活動が期待される。当初より、日医もこの遠隔医療の発展を推奨してきた。ここは経済界と医療界が相対峙しない領域が広がっている。オンライン診療は一歩一歩着実に進めていくことが望まれるが、遠隔医療の成果は国民に印象付けていくことが今後の方向性と言えるだろう。
 e―ラーニングの中に遠隔手術のシェーマがある。遠隔地の高度技能医が、データ通信網を使って地域の医師と共同で手術を行う図が提示されている。特殊技術を使うまでは地域の外科医が執刀する。ここまでは普通の診療である。その後、特殊技能が必要な手術は、オンラインで高度技能医が執刀する様が示されている。高度技能医はオンラインで患者を手術するから、これはオンライン診療になる。しかしここで、執刀せずに画面を見ながらコメントするだけなら、手術責任は患者の前にいる外科医であるから、これはオンライン診療ではない。実際、今でも患者急変時に、当直医が主治医と電話で連絡を取りながら緊急処置をすることは多々ある。処置の責任は研修医でない限り、一般当直医が持つのが通例だろう。相談料の話は別にして、非専門医が専門医と相談するだけであれば、非専門医が主治医として患者に責任を持つ限り、非専門医が専門診療をしたとしてもオンライン診療ではないということになる。専門的技術が何かという明確な定義もないから、教えてもらった専門的技術の行使は主治医責任である。
 これは非常に重要な論点を含んでいる。遠隔地の医師・看護師がオンラインを通して専門医から得られる情報量は、専門医が患者を画面越しに直接診療した時と比較して、比べ物にならないほど多くの知見を得ることができる。また、この情報共有で専門医と非専門医の空間的隔たりがなくなれば、専門科や専門病院という概念がなくなる革命的な技術革新となり得る。高血圧や糖尿病のような生活習慣病は、オンライン手術のように専門医が直接診療しなくても、定期的に患者のことで専門医と対話することにより、その勘所が伝授される。研修医や専修医がカンファレンスで飛び交う先輩の意見を聞くことで育つように、耳学問は医療者にとって非常に重要な知識源である。
 今まで疎外であった医師間距離を縮める遠隔医療は、その応用法を研究することで、地域医療の均質化に貢献することが期待される。(晴)