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医師・医療関係者のみなさまへ

ミミズクの小窓

糖尿病におけるケトン体――友か敵か

府医ニュース

2020年11月25日 第2947号

 サスペンス系のドラマで「友か敵か(a friend or a foe)」というのはよくある設定である。〝どんでん返し〟狙いであるが、そうはいかない。配役を見ただけで想像がつく。ミミズクの実経験では敵だと思った相手のほぼすべてと、友だと思った相手の過多数は敵であった。「どんな生き方をしてきたのだ?」という問いには「C`est la vie」とお答えしておく。またPubMedを見ていると、精神心理分野以外でも〝a friend or a foe〟という語句をタイトルに用いている論文が散見される。明らかにウケ狙いである。それはさておき糖尿病におけるケトン体は友か、敵か、いずれであろうか。
 「恨み辛みはござんせんが、敵と心得やす」「あっしには関わりないことでござんす」など、色々な答えがあり得るが、糖尿病でのケトン体に好印象を持たれている方は少ないであろう。なお「なんで急に木枯らし紋次郎的になるのだ!」というご批判はあるだろうが、特に理由はない。文体はいつも行き当たりばったり、なのだ。
 しかし最近、滋賀医科大学のグループが「ケトン体は友人かもしれない」という論文を発表した(Cell Metabolism on line July 28,2020)。元来ケトン体は、飢餓状態において生体・細胞維持に必須であるATPの重要な産生源である。そこで著者らは糖尿病性腎臓病の進展にはATP産生障害が関与しており、更に最近頻用される血糖降下剤であるSGLT2阻害剤に強力な腎保護作用と軽度のケトン体上昇作用があることに着目し、ケトン体の糖尿病性腎臓病の悪化抑制作用について検討した。
 その結果、糖尿病性腎臓病モデルマウスの腎におけるATP産生は脂肪酸依存からケトン体依存にシフトしており、ケトン体前駆物質投与で血清シスタチンC値や腎病変の組織学的改善が得られ、更に内因性ケトン体産生律速酵素を欠損させたモデルマウスではSGLT2の腎保護効果が消失した。なおこのケトン体の効果は、ケトン体が一種の〝飢餓シグナル〟となり、糖尿病性腎症において異常活性化しているタンパク質キナーゼ複合体であるmTORC1を抑制することによって発揮されるという。これらの知見は糖尿病性腎臓病の新しい治療の開拓を期待させる。
 かくして糖尿病におけるケトン体は〝ホワイト・ナイト〟である可能性が出てきた。もう少し早く分かっていたら、良い友人になれたかもしれないのに残念だ。