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医師・医療関係者のみなさまへ

ミミズクの小窓

噛めば噛むほどに…認知症予防

府医ニュース

2020年7月1日 第2933号

 〝噛めば噛むほどに……”と言ってもスルメの話ではない。昨年末、東京都健康長寿医療センターのグループが、咀嚼によってマイネルト基底核が活性化され、大脳皮質の血流量が著しく増加する機序を明らかにし、SAGEグループの脳血流と代謝の専門誌に報告した(JCBFM Dec 25 2019)。
 咀嚼は摂食・消化・吸収のためだけでなく、覚醒や認知機能の維持・向上にも有益であり、実際に咀嚼によって脳血流量が増加することは知られていたがその機序は明らかではなかった。著者らはラットで大脳皮質の咀嚼野の電気刺激などを駆使して実験を行い、咀嚼しようとするとマイネルト神経が活性化して、大脳皮質の血流が増加するのだが、この時に咀嚼筋が動くかどうかは関係がなく、「噛むぞ!」と思っただけでこの機序が発動するというのだ。
 この研究グループは以前から歩行による脳血流増加や自律神経活性化についての研究も行っているが(Auton Neurosci 103:83 2003, Geriatr Gerontol Int Suppl1 S127-36 2010)、歩行や咀嚼のようなリズミカルな運動がマイネルト神経を刺激して脳血流増加を引き起こすらしい。マイネルト神経活性化に加えて脳血流増加とくれば認知症予防も期待できそうだ。実際、東北大学のグループは中年期以降にしっかり歩行しておけば、後の認知症リスクが減少することを報告している(Age Ageing 46:857 2017)。
 ここで思いついたのだが、咀嚼が歩行と同様の効果があるのなら、〝歩きながらの咀嚼=食事”はどうだろうか。しかしこれには問題がある。〝行儀が悪い”という批判が避けられないであろう。「認知症になるよりマシだろう!」と居直る手もあるが、どちらかといえばミミズクは品格で勝負するタイプなので、不作法と思われるのは本意ではない。
 しかし解決策はある。今回紹介した論文では咀嚼筋が動かない条件でも咀嚼野が刺激されたら脳血流は増加するのだ。要するに〝思えば通ずる”と考えて良い。しっかり咀嚼する、というイメージを浮かべながら歩いているつもりになれば良い。「認知症予防の第一歩はイメージ・トレーニング!」というキャンペーンを打ってみるのも良いだろう。
 不肖ミミズク、ウォーキングは正直面倒くさいし、食事ではロクに噛まない早食いである。今回の研究を参考に、なんとか楽をして脳血流を増やしたいと思う次第である。