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時の話題
府医ニュース
2020年7月1日 第2933号
新型コロナウイルス感染症についてのPCR検査は、当初から診断上必須であるとの共通認識はあったものの、日本では諸外国に比べ限定的な実施に留まっていた。その理由は、実施する対象者についての考え方の相違、検査体制の不備、受け入れ医療機関が逼迫する懸念などが考えられた。そのため、臨床現場では必要なPCR検査が思うようにできず、院内感染への懸念から診断が確定するまで感染を想定した防護策を取らざるを得なかった。
日本では、これまで専門家会議からの提言を根拠に、数理モデルによるシミュレーションに基づいた感染対策が行われ、国民に対しては人との接触を8割減らすことを目標に繰り返し自粛要請が行われてきた。3月6日からPCR検査は保険適用となり、保健所を経由することなく、医療機関が民間の検査機関等に直接依頼を行うことが可能となった。また、「鼻咽頭ぬぐい液及び唾液の有用性について」とする厚生労働省の研究班による臨床研究において、発症から9日以内であれば、両者で良好な一致率が認められるとの研究結果が示されたことから、6月2日、症状発生から9日以内の有症状者についての唾液PCR検査も保険適用となった(10日以降では一致率が低下)。
更に4月27日、富士レビオ社の抗原検査キット「エスプラインSARS-CoV-2」の薬事申請が行われ、5月13日、我が国初の新型コロナウイルス抗原検査キットとして承認された。抗原検査は30分程度で結果が出ること、特別な検査機器や試薬を必要とせず、検体を搬送する必要がないなどのメリットがあるが、検出に一定以上のウイルス量が必要(感度がPCR検査より低い)という課題もある。
厚労省では当初、重症者や救急搬送の患者、症状のある医療従事者や入院患者などに対して、速やかな判定が期待されるものの、感度の問題から当面はまず症状のある者に抗原検査を行い、陰性の者には念のためPCR検査も行うことを予定していたが、6月16日には、発症から2~9日目の症例では陰性の判定にも使用でき、追加でのPCR検査を必須としない方針が示された。更に厚労省は、6月19日に国内初の唾液を検体とした抗原検査試薬「ルミパルスSARS-CoV-2Ag」を承認した。
一方、抗体検査については、現在、イムノクロマト法と呼ばれる迅速簡易検出法をはじめ、国内で様々な検査キットが研究用試薬として市場に流通している。厚労省では期待されるような精度が発揮できない検査法による検査が行われている可能性もあり、注意が必要であるとしている。また、現在、国内で医薬品・医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律(薬機法)上の体外診断用医薬品として承認を得た抗体検査はない。
WHOは、抗体検査は、診断目的として単独で用いることは推奨されず、疫学調査等で活用できる可能性を示唆している。厚労省が実施する抗体保有調査(一般住民調査)では、世界的にみて一定の基準を課している国において、既に使用が認められているなど、一定の評価がなされている抗体検査機器を活用することとしている。
現在、新型コロナウイルス感染症に関連した検査法が次々に上市され、今後も新たな迅速検査キットが開発されるものと期待されるが、それぞれの検査法の特性、限界を理解した上での効率的な活用が重要である。