
TO DOCTOR
医師・医療関係者のみなさまへ

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ミミズクの小窓
府医ニュース
2020年4月15日 第2924号
さて、大阪府医師会員諸兄姉にお聞きしたい。〝未来にきっと良いことが起こる〟と思われるか、否か。
答えがYesなら楽観主義者、Noなら悲観主義者である。不肖ミミズクは典型的な楽観主義者ではあるが、黒猫に出会った時にはきっと悪いことが起こると信じている。「楽観・悲観と迷信がごっちゃになっていないか?」というご意見は是としたい。
30年以上も前から〝気質としての楽観主義(dispositional optimism)〟が健康にポジティブな影響をもたらすと説き続けるマイアミ大学のCharles S Carver教授の論文(J Personality 1987 55:169)を見ると、ここは無理からでも明るい未来を信じたいところだ。
以前より高いレベルの楽観主義が中高年の脳卒中リスク(Stroke 2011 42:2855)や、がんを含む全死亡率を低下させるとする報告(Am J Epidemiol 2017 185:21)がある。となれば悲観主義は修正可能なリスク因子と考えられなくもない。そこで最近米国のグループがこのテーマに関するメタ解析を試みた(JAMA Network Open 2019 Sep 27)。
著者らはデータ・ベースを検索して楽観主義と心血管病罹患リスク・すべての原因による死亡との関連を研究対象にしている論文15編を抽出(対象者総計22万9391人)、うち心血管病リスクは10編で、全死亡リスクは9編で検討されていた。平均観察期間は13.8年(2~40年)であった。なお、がんリスクを対象とした研究は除外している。
結果は楽観主義の程度が高い人では心血管病リスクは35%低く、全死亡リスクも14%低かった。ただし、論文間での異質性は高度~中等度であった。なお多くの論文では性格を判断する質問紙法の点数によって対象を三分位群または四分位群に分けて、最も悲観的なグループを基準にして最も楽観的なグループの相対リスクを算出していた。
19世紀を代表する詩人・作家であるオスカー・ワイルド氏は〝The optimist sees the doughnut, the pessimist sees the hole〟と述べた。すなわち穴のあるドーナツよりも穴のないパンケーキの方が低リスクなのであろう。それは違うだろう、というご意見はスルーして古い唄をひとつ……。植木等氏の「だまって俺について来い(1964年)」である。〝銭のない奴は俺んとこに来い! 俺もないけど心配するな(中略)そのうち何とかなるだろう〟この前途に対する無根拠な期待、これぞ究極の楽観主義であり、最も低リスクの生き方なのかもしれない。