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医師・医療関係者のみなさまへ
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府医ニュース
2020年4月1日 第2923号
令和元年12月に中華人民共和国湖北省武漢市で発生が報告された新型コロナウイルスが世界中で感染拡大し、深刻な社会不安を引き起こしている。我が国においても感染者の発生が全国各地で次々と報告されており、クルーズ船「ダイヤモンド・プリンセス号」の乗船者を含め、感染者数はついに1500人を超え、死亡者も35人となった(3/16現在)。こうした中、1月27日に設置された自由民主党の「新型コロナウイルス関連肺炎対策本部」で本部長を務める田村憲久・元厚生労働大臣および日本医師連盟参与の羽生田たかし・参議院議員と茂松茂人・大阪府医師会長による鼎談を3月16日午前、東京都内のホテルで実施。新型コロナウイルスからいかにして国民を守り、かつ医療崩壊を防ぐか、更には、新興感染症が大きな災いをもたらす現在における我が国の医療の在るべき姿などについて意見を伺った。(司会=阪本栄・府医理事)
阪本 本日は大変お忙しい中、貴重なお時間を割いてお集まりいただきありがとうございます。私は本日の司会を務めます府医広報担当理事の阪本です。よろしくお願いいたします。さて、現在、新型コロナウイルスの感染拡大がとどまるところを知らず、世界的な蔓延を受けて世界保健機関(WHO)がパンデミックと宣言しました。また、国内では各種イベントの自粛要請が出されるとともに、全国の小中高校および支援学校が一斉休校とされました。世界に目を向けると、ヨーロッパでの感染拡大が深刻化しております。こうした状況の中、田村議員におかれましては、自民党「新型コロナウイルス関連肺炎対策本部」の本部長として様々な対策に取り組んでおられ、また、各種メディアにも出演されるなど、大変お忙しく対応されていますが、現在の取り組み状況などをお聞かせ願えますでしょうか。
田村 中国から広がり始めた新型コロナウイルス感染症がパンデミックの状態となり、世界における感染者が約16万人となっております。日本では、屋形船でのヒト―ヒト感染の発生が1月中旬で、それから約2カ月で800人くらい(クルーズ船除く)に広がりました。ですが、イベント開催の自粛や学校の一斉休校によって抑え込みに一定の成果を挙げていると考えております。なお、自粛により街が閑散としており、この状態をいつまで続けるかを考えると、日常生活・経済活動において、どういうところに気を付ければリスクを減らせるかを国民の皆さんにお伝えしていく段階になると考えております。様々な業種に影響が出ておりますので、経済面での緊急対策では今までの発想に捉われずに支援を行い、収入減が深刻化しているパート契約やフリーランスで働く方々への支援にも力を入れていかねばなりません。また、現在、ワクチンや治療薬がなく、更には検査キットの不足が問題視されておりますので、専門家を交えて検討していく必要があります。
羽生田 ワクチンや治療薬が出回れば、インフルエンザと同様に扱えるようになりますね。
田村 新型コロナウイルスは、基礎疾患のある方や高齢者の重症化リスクが高いため、そうした方々への感染予防策が重要です。現在、ヨーロッパで爆発的に感染が拡大しておりますが、その要因として日本との生活習慣の違いが考えられます。日本では日頃から手洗いをよくする習慣があり、更には、ハグをする習慣がなく、握手も欧米に比べるとあまりしないと言えます。欧米の生活習慣や文化が、爆発的な感染拡大の背景にあるかもしれません。更に、これからはそうした世界各国から我が国にウイルスが流入することを危惧しています。これをどのようにして防ぐかということですが、グローバリズムや、これまでインバウンドで経済成長してきたということがあるので難しいです。ウイルスを抑え込めないとするなら、治療薬やワクチンが開発されるまで、どのようにして共存していくかを考えなければなりません。
茂松 グローバリズムによってヒト、モノが動くことにより、感染症が国をまたいで感染拡大することとなります。また、新型コロナウイルスが収束しても、今後も別の新たなウイルス発生が考えられますので、普段から社会保障や医療を充実させておかねばなりません。今回の混乱はこれまで行われてきた医療費抑制のツケが出たという側面もあると考えています。
田村 特にイタリアでは、医療費抑制の影響を受けて医療崩壊が起こっているとされていますね。
茂松 イタリアにおける危機的状況は医療費削減による医療提供体制の弱体化が引き起こしたと考えられます。一方、大阪府では「大阪府新型コロナウイルス対策本部専門家会議」が立ち上げられ、3月12日に初会合が開催されました。医療機関の病床数や陽性者の症状を踏まえて、トリアージを行いながら対応していくことを基本としており、私も委員として参画しております。「入院フォローアップセンター」を立ち上げ、同センターが病床数を見極めた上で、症状が重い患者から、①感染症指定医療機関に入院②新型インフルエンザ協力医療機関・公的医療機関・大学病院など感染症に対応した設備のある医療機関に入院③休床病床・廃止病棟などに隔離④民間の宿泊施設や自宅で健康観察――といった対応をとることとなっております。更なる感染拡大を踏まえ、同センターが各保健所と入院医療機関との間を取り持ち、連絡調整を行うこととなります。
田村 社会保障財源の削減が進められ、診療報酬が少ししか上がらない状況が続いております。しかし、イタリアでの爆発的感染拡大が医療費抑制による医療崩壊に伴うものであるとされていることを考えると、医療費削減が続いた場合の将来の状況が危惧されます。
茂松 PCR検査について、医師が保健所に検査を依頼して断られた事例があるなどの問題がマスコミでも連日大きく取り上げられ、社会問題となっております。保健所については統廃合や縮小が進められ、機能低下を危惧しておりましたが、そうした影響もあると考えております。
田村 PCR検査については、様々なご意見をいただいております。これについては、インフルエンザではない、レントゲンやCTにより肺炎の可能性が高い、細菌性ではないなど、医師の総合判断により検査すべきとされる事例では実施すべきと考えております。現在は接触者外来に限られておりますが、保険適用となりました。導線を分けるなど感染対策を行って検体を採取でき、運搬できるところであれば手を挙げていただいた診療所でも実施していただければと考えております。
羽生田 三重梱包であれば運搬してもよいとされています。しかし、三重梱包のための容器代を考えると、検査機器を購入した方が安価になるとも言われております。
田村 新しく出される簡易のPCR検査機器について、国が補助するようにしていきたいと考えておりますので、そうしたものを利用していただきたいと思います。
茂松 外来受診した患者が後にコロナウイルス陽性者と判明し、休診を余儀なくされている医療機関もあります。今後、院内からコロナウイルス陽性者が出た場合、消毒や患者への配慮など、休診を選択せざるを得ないこともあると思いますが、その際の補償や補填は検討されるのでしょうか。
羽生田 3月19日の参議院厚生労働委員会においてこの補償について確認の質問を予定しておりますが、「新型コロナウイルス感染症に関する緊急対応策―第2弾―」における雇用調整助成金の特例措置の拡大ということが講じられております。これは若干の条件はございますが、簡単に言うと新型コロナウイルス感染症に関して、管理者の判断で休診とした場合は、「雇用調整助成金」が適用に該当すると確認しております。厚生労働省より、標準予防策(マスク・手洗い)を講じていれば濃厚接触者に該当しない旨の見解が出されておりますが、医療者として自院の患者や従業員がコロナウイルス陽性と判断されれば、休診を選択せざるを得ないこともあると思います。その際は、ぜひこの雇用調整助成金を活用し、地域医療を継続的にお支えいただければと考えています。ただし、院長へは休業に伴う補償や補填は仕組みとしてありません。現時点では、民間保険の活用しかないですが、保険の範囲拡大や解釈変更も含め今後も取り組んでまいります。
茂松 現在、ワクチンや治療薬がないため、一般の医療機関では対応に苦慮しております。
田村 陽性が判明しても、症状がある程度悪化するまでは特別な対応ができないのが現状です。なお、日本はCT・MRIなどの医療機器の数が多すぎるとの意見があります。現在、日本には人工呼吸器3000台、ECMO600台が配備されていますが、今回の状況を考えれば、そうとも言えません。なお、エボラ出血熱のように致死率が高いウイルスは広がりにくいですが、新型コロナウイルスは発症しない人や軽症例が多く、外出できる。そのため感染拡大しやすいと言え、基礎疾患のある方や高齢の方には脅威となります。ヨーロッパではパニックのような状態で、外出を禁止し戒厳令と同様のレベルとも言えます。
羽生田 フランスでは多くの店が閉まっており、必要最小限の日用品しか買えないようですね。
茂松 大阪府ではライブハウスでクラスターが発生しました。大阪府における感染者数は100人を超え、更なる増加が懸念されます。こうした中、府医では、会内に「新型コロナウイルス感染症対策本部」を1月30日に設置し、大阪府民の健康を守るため、大阪府・市、日本医師会等と連携する中で、医療機関への適切な情報発信を行っております。更に、医療機関における適切な対応を支援するため、いち早く「新型コロナウイルス対策研修会」を2月4日に開催したところ、会員や会員医療機関の看護師など医療従事者ら約800人が参集しました。改めて医療現場における関心の高さや危機感を感じたところです。今後も機会を捉えて、会員医療機関への情報発信に努めてまいりたいと考えております。
阪本 さて、令和2年度診療報酬改定については、全体:0・46%引き下げ、診療報酬本体:0・55%引き上げ(医師らの人件費や技術料:0・47%、救急病院の勤務医の働き方改革:0・08%)となりました。これについてのご意見をお聞かせください。
茂松 今回の改定は、救急や周産期医療で長時間の就業を余儀なくされる病院勤務医の労働環境を改善するため、急性期の病院への評価に重点が置かれた内容となっております。特に注目される項目としては、公費126億円が投入された「地域医療体制確保加算(入院初日520点)」が挙げられます。ただ、救急病院の勤務医の負担の軽減や処遇の改善を計画し、評価することが要件化されており、対応できる病院は大病院に限られると思われます。そのほか、働き方改革への対応については、常勤換算や専従要件が緩和されたり、医師事務作業補助体制加算が充実されています。また、オンライン診療の基準も緩和されております。診療所の関係では、かかりつけ医機能の評価として前回改定で新設された機能強化加算や地域包括診療加算について、要件の見直しはあったものの、点数は据え置かれており、目を引くような改定となっておりません。
田村 人件費が上がっている中、十分でないことはもちろん承知しておりますが、財政状況が厳しく財務省がマイナス改定を求める中、なんとか診療報酬本体で0・55%引き上げとすることができました。また、医療業務の簡素化が進められる中で、看護補助者や医療クラークへの評価として加算を増やすことができました。記録の簡素化などを更に進めて業務を減らし、ダウンサイジングを進めねばならないと考えております。
羽生田 0・47%に働き方改革の0・08%を加えるのではなく、0・55%に0・08%を加えていただきたかったのですが。2年後の次回改定で0・47%から議論がスタートすることが懸念されます。
茂松 次回改定は相当厳しくなることが予想されます。また、厳しい状況の中、大企業において過大な内部留保が積み上げられていることも大きな問題と考えております。
田村 財政再建至上主義を推し進め、その結果、医療崩壊が起こるようなことは避けねばなりません。社会保障を守るために、企業にも応分の負担をしていただき、我が国のみんなで支える制度を築きたいと思います。なお、制度を構築するとしても、国民の意識を統一してから実現までには数年かかりますので、早急に取り掛からねばなりません。イタリアの現状を見ると恐ろしくなりますので、これを機に国民の声を聴きたいと思います。
茂松 我が国ではそうしたことに関心が低く、国にお任せになっているように思えますので、国民とともに議論することが必要です。
田村 アメリカでは国民皆保険制度がなく、民間の医療保険に入っていない人も多数おられます。インフルエンザ罹患を疑っても、検査を受けられず、薬も飲まないという人も多いようです。それに対して、我が国では国民皆保険制度があり、高額療養費制度もある。国民が安心して暮らせる大きな理由のひとつです。また、その前提には医師の献身的な働き方があります。医師の献身的な努力が日本の安心を支えていると言えます。
茂松 かかりつけ医は健康寿命を伸ばすために、治療だけでなく予防や健康づくりにも取り組み、様々な場で活躍しております。こうしたかかりつけ医の重要性とともに、国民皆保険制度の大切さをもっと国民に対して訴えていかねばならないと思います。
阪本 新型コロナウイルスの感染拡大が収まる気配を見せず大変な状況の中、ありがとうございました。我が国の今後の医療・社会保障を守るために大変貴重なご意見をいただけたと思います。
茂松 国の医療費抑制策が進められる中、医師会は国民医療を守るため、国民とともに活動していかねばならないと考えております。また、国民皆保険制度をはじめとする日本の医療制度を守るために、田村先生・羽生田先生お二人には今後、一層活躍いただきたいと考えております。
茂松・阪本 本日はありがとうございました。