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時事

働き方改革を巡る診療報酬改定

府医ニュース

2020年1月29日 第2917号

中医協総会の行方

 1月10日に開催された第159回労働政策審議会労働条件分科会で、医師の働き方改革に関する検討状況について話し合われた。
 この席で今村聡・日本医師会副会長から昨年12月に実施された医師の副業・兼業と地域医療に関する緊急調査の集計が発表された。要は働き方改革を厳密に遂行すると地域医療が崩壊するという結論である。この中では3549回答施設より病院機能を持つ施設2021を抽出、そのうち8割が宿日直体制が維持困難になることを挙げ、6割が派遣医師の引き上げを回答していたのである。更に病院の経営が悪化、外来の縮小と回答が続く、誠に厳しいアンケート結果であった。一般の労働者と同じような副業・兼業の対応で医師が扱われると、社会混乱が生じる可能性を警告したわけである。ただ、今村・日医副会長の講演場所が労働委員会館講堂であったこと、また今後展開する中央社会保険医療協議会総会への戦略があることを十分酌量する必要はある。
 同日、中医協総会では令和2年度診療報酬改定に向け『議論の整理』が行われた。働き方改革の究極は、地域包括ケアや医療機能等で、地域医療構想に基づく病床再編などの大きな課題を消化していくことにより、患者の一局集中を緩和することが基本である。1月15日に行われた同会では、重症度、医療・看護必要度の見直しで平成26年度改定から病床転換が想定よりも低いことが議論になった。支払い側は7対1の急性期一般入院基本料を力一杯引き上げて、施設基準の厳格化を提案したが、重症度、医療・看護必要度のハードルを上げることにより7対1から振り落とす論理は、今後機能分化への淘汰論理として再三持ち出されることであろう。当然、我々診療側は猛反対であり、現提案の入院料1の該当患者割合35%は断固阻止である。しかし議論の結果、どのポイントで妥結するにしても、現状維持以上になるわけであり、働き方改革にとって逆風は持続したままである。急性期病院はより多くの重症患者を入院させなければ、淘汰される危機が迫っている。
 以上は働き方改革を巡る大きな動きであるが、狭義の改革ではどういう論議が今後進んでいくのであろうか。
 中医協の資料では、タスクシェアリング・タスクシフティングのためのチーム医療の推進が挙げられている。以前からよく使われていたタスクシフトという文言が、シェアリングという言葉の次に位置しているのは、包括タスクシフトの概念が入ってきているからであろう。グループ内の役割分担で効率を上げていくわけであるが、医師からの一方向性タスクシフトは、コメディカルに同様の問題をシフトするだけで、硬直性が解消するわけではない。臨機応変に可能な範囲内での分担を考えていこうということであろう。ここにも医師側の論理だけで物事が進まない難しさがある。
 次に現場で取り組めそうな課題としては、地域との連携を含む多職種連携の強化である。外来化学療法、精神疾患、腹膜透析、結核、摂食嚥下障害、緩和医療、周術期口腔機能管理などにおいて多職種が積極的に地域横断的に活動することを、診療報酬から裏打ちする予定にある。機能分化は専門医の技能と捉えがちであるが、実際医療機関では、コメディカルの技能が医療機能の最前線である。コメディカルの地域展開は地域全体の技術向上につながるから、急性期病院一局集中を緩和する可能性がある。またチーム医療概念の伝達は、医師が専門外でも熟練したコメディカルのアシストにより、効率の良い専門診療行為が可能となるかもしれない。
 3番目は医療におけるICTの利活用がある。電子カルテによる院内業務集約化の利便性は大きく、最終的にはAIホスピタルを目指していくのであろう。現在へき地医療、希少疾患集中管理、遠隔モニタリング、テレビ会議などでの利用が議論されており、働き方改革に貢献していくと思われる。(晴)