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時事

心肺蘇生を望まない傷病者への対応

府医ニュース

2019年12月25日 第2914号

東京消防庁が新たな運用を開始

 12月16日、東京消防庁が、心肺蘇生を望まない傷病者への対応について、新たな運用を開始した。2月に公表された同庁の救急懇話会答申書「高齢者救急需要への取組はいかにあるべきか」および、東京都メディカルコントロール協議会での検討を踏まえたもので、可能な限り傷病者の意思を尊重することを目的としている。先立って11月27日には、救急隊員への研修会が開催された。
 新たな運用の要件は、①ACP(愛称「人生会議」)実践下の成人で心肺停止状態であること②傷病者が人生の最終段階にあること(回復不可能な疾病、例えば悪性腫瘍の末期)③家族等(以下、家族)の意思ではなく、傷病者本人が「心肺蘇生の実施を望まない」こと④意思決定に際し想定された症状と現症が合致すること(外因性の心肺停止は対象外)――である。
 初動において、傷病者本人の「心肺蘇生の実施を望まない意思」を示されるまでは、通常の心肺蘇生活動を続ける。意思表示は、書面に限らず口頭や、現場にいない家族からの電話、ACPに関与していない友人、隣人等からの口頭の情報提供も対象に含み、必ずかかりつけ医等に確認を取る。かかりつけ医への連絡は、直接のほか、訪問看護師等を経由することも想定されている。救急隊から現場の状況を説明し、上記要件の②~④を確認する。そして、引き継げる場合に限り、かかりつけ医からの指示を受けて心肺蘇生を中止する。かかりつけ医の到着時間が、おおよそ45分以内の場合、救急隊は待機して直接引き継ぐものとし(医師の指示および家族の同意があれば、家族へ引き継ぎ)、おおよそ12時間以内の場合は、家族に引き継ぎ、救急隊は引き揚げる。かかりつけ医に連絡がつかない場合や、家族またはかかりつけ医に傷病者を引き継げない場合は、心肺蘇生を継続して二次医療機関等に搬送する。
 ちなみに、45分という時間は、在宅医の往診料が保険診療として認められる距離から、12時間という時間は、 厚生労働省の死亡診断書記入マニュアルに記載されている事例から算定したとのことである。
 さて、7月3日に決定された、国(総務省消防庁)の「傷病者の意思に沿った救急現場における心肺蘇生の実施に関する検討部会」報告書では、▽救急現場で、傷病者の家族等から、傷病者本人は心肺蘇生を望んでいないと伝えられる事案は数多く発生している▽396消防本部(全体の54.4%)は対応方針を定めていない――と課題を認識しつつも、現段階での統一方針の策定は困難と、解決を先送りしていた。
 大阪市をはじめ、201消防本部(対応方針を定めている消防本部の60.5%)は、傷病者本人の心肺蘇生を拒否する意思表示を伝えられても、心肺蘇生を実施しながら医療機関に搬送する対応方針としている。現場滞在時間の更なる延長は、大きな障害となり得るが、最大の人口を擁する東京都の運用変更は、時代が動き始めたことを表しているのだろうか。(学)