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第144回 日医臨時代議員会

府医ニュース

2019年4月24日 第2890号

 第144回日本医師会臨時代議員会(定数368人/柵木充明議長〈愛知県〉)が3月31日、日医会館で開催された。当日は平成31年度日医事業計画および同予算が報告されたほか、30年度日医会費減免申請および裁定委員の補欠選任の件が上程され、いずれも承認された。また、医療施策に伴う日医の取り組みや方針などに関し、全国各ブロックから2題ずつ質問がなされ、日医執行部が見解を示した。

国民との信頼関係で制度構築 未来に対する「責任」果たす

 冒頭、4月27日から開催される「第30回日本医学会総会2019中部・学術集会」の実施に伴い、齋藤英彦会頭が登壇。今回は、「医学と医療の深化と広がり――健康長寿社会の実現をめざして」をテーマに掲げ、「講演内容も充実させるよう心がけた」とし、積極的な参加を呼びかけた。
 続いて、柵木議長が定足数を確認し、議事録署名人2人(馬瀬大助代議員〈富山県〉・久米川啓代議員〈香川県〉)を指名。次いで議事運営委員会委員8人(近畿からは安東範明代議員〈奈良県〉)の紹介がなされた。その後、会場全体で『日医綱領』を唱和した。

かかりつけ医の役割 一層重要さ増す

寄り添う心、和の心が「かかりつけ医」の心

 開会のあいさつで、横倉義武・日医会長は、風しんに係る追加的対策および会務運営への協力に謝意を表した。また、平成の終わりにあたり、第二次世界大戦における医師会の官製化への反省から、「医療政策・医政の重要性を認識する必要がある」と強調。今般、『グランドデザイン2030』を作成したと報告し、次代の医療制度を政府・国民とともに考えていくと述べた。更に横倉会長は、医師確保計画は地域医療構想や医師の働き方改革と密接に関係するとの見解を提示。「医師偏在解消指標の数字が一人歩きしないよう注視しつつ、地域の実情に対応可能な制度設計に寄与する」と加えた。そのほか、医療のICT化、専門医制度などにも触れ、「かかりつけ医」の役割が一層重要性を増すと指摘。〝寄り添う心〟〝和の心〟を「かかりつけ医の心」と表し、「全国の医師に涵養していただくことが重要」と語った。その上で、「次代の医療制度を国民との信頼関係の上で築き上げていくことは、未来に対する責任」と言明。▽地域医療構想を通じた医療機能の分化・連携等の推進▽医師確保対策を通じた医療資源の地域間格差の是正▽医師の働き方改革を通じた医師の健康確保と地域医療を支える各医療機関の継続性の両立▽医師の養成を通じた医療の質の向上と医師偏在の是正▽地域包括ケアシステムを通じた切れ目のない医療・介護提供体制の構築――を高度に相関させながら、人生100年時代に則した医療の在り方を模索し、「かかりつけ医の更なる普及と健康寿命の延伸につなげる」と力を込めた。そして、20万を超す会員と結束し、「長寿社会の実現および未来に対する責任を果たす」と声を強め、一層の支援・協力を要請した。

事業計画・収支予算を報告

 31年度事業計画を中川俊男・日医副会長、同予算について今村聡・同副会長が報告。財務委員会の橋本省委員長(宮城県)より、審議過程で医師の働き方改革や消費税への対応、災害医療などを質問し、理事者から回答を得た上で、同委員会で承認した旨が述べられた。

30年度会費減免申請を承認

 次いで、議案として提示された「30年度日医会費減免申請」に関しては今村副会長、「裁定委員補欠選任」については横倉会長が概要を説明。表決の結果、いずれも挙手多数で可決承認された。なお、減免申請分は1万6357人で総額4億4477万円(昨年より532人増、1761万1千円減)。また、裁定委員には白岩照男代議員(東京都)が選任された。

医療に係る消費税「継続して検討」

 引き続き、都道府県各ブロックからの質疑に日医執行部が応じた。医療に係る消費税問題では、「非課税下では解決済み」とする日医の見解に対して質問がなされ、小玉弘之・日医常任理事は、将来の消費税率引き上げに備えての議論を継続すると述べた。また、中川副会長が追加答弁で、課税転換への課題を提示。医療が「消費」と位置付けられる点に理解が求め難いことなどを挙げながら、「あらゆる選択肢を排除せず、検討していきたい」と加えた。
 そのほか、児童虐待や地域医療構想、妊婦加算凍結など、様々な問題で質疑応答が展開。近畿ブロックからは茂松茂人代議員(大阪府)が、①外来医療機能の偏在対策の在り方②オンライン資格確認――について、日医の見解を質した。同じく近畿からは、平石英三代議員(和歌山県)が登壇。成育基本法の成立を受け、日医がどのように取り組んでいくかを問うた。

近畿ブロック代表質問
外来医療の偏在対策およびオンライン資格確認について

 茂松代議員は、専門医制度偏重による地域医療の混乱を憂慮し、かかりつけ医の重要性を強調。また、医師偏在対策に触れる中で、「数の論理だけで制限を加えるべきではない」との考えを示し、外来医療の医師偏在対策を問うた。更に、被保険者のオンライン資格確認について、現行通り被保険者証での運用や、医療機関窓口の負担軽減につながるシステムの検討状況について質問した。最初に答弁した松本吉郎・日医常任理事は、「かかりつけ医機能を推進していくことこそが、医師の働き方改革・偏在是正の最重要施策である」と前置き。医師偏在解消指標は、地域ニーズの見える化であり、「管理統制ではない」と強調し、開業規制ではなく、医師会入会への足掛かりとしての運用を促した。オンライン資格確認では、長島公之・日医常任理事が答弁。オンライン資格確認の一本化は断固反対との立場を明らかにし、マイナンバーカードによる資格確認の際には、患者本人がカードリーダーにかざし、「医療機関は預からない」という運用方法が徹底されるよう国に求めるとした。あわせて、被保険者証へのQRコード記載や読み取り機器等の導入費用に対する補助なども引き続き要求していくと述べた。

未入会での開業に地域医療への懸念

 茂松代議員の答弁に関連し、高井康之代議員(大阪府)が発言。医師多数地域における学校医・産業医活動等に触れ、「強制されるべきものではない」と指摘する一方、当該事業は医師会員でなければ従事できないが、大阪では未入会のまま開業するケースが散見されると報告。地域医療への懸念から、非会員の開業について日医の見解を質した。今村副会長からは、「医師会員でなければできない事業」として枠組みを作っているとの説明があり、「医師会入会を間接的に促すための仕組みと理解願いたい」との回答があった。
 当日は閉会後に羽生田たかし参議院議員が登壇。一層の支援を呼びかけた。

成育基本法を受けての今後の取り組みについて

 平石英三代議員は、将来の子ども達の健康増進・管理は重要な課題であると指摘。成育基本法の成立を受け、「産前産後小児保健指導事業」「母子保健・学校保健データの情報管理システム構築」など、今後の日医の取り組みについて見解を問うた。

答弁 平川・日医常任理事
 答弁に立った平川俊夫・日医常任理事は、成育基本法の趣旨を概説。その上で、「すべての妊婦、子どもに妊娠期から成人期まで切れ目のない医療・保健・教育・福祉を提供することの重要性を定め、国や地方公共団体、関係機関に必要な施策を実施する責務がある」との考えを示した。あわせて、「母子保健・学校保健データの情報管理システムの構築」も重要な課題であると言及。得られたデータを成育過程で切れ目なく利活用するため、適切な情報管理システム体制を整備するよう国に求めていくとした。

日医代議員会ブロック代表質問とは
様々な医療施策について方針を確認

 従来は全国8つのブロックごとに、代表質問1、個人質問2を上限として質問枠が割り当てられていたが、30年11月9日の議事運営委員会で「議事運営委員会決定事項」の一部改正案が承認され、質問形式を「代表」に一本化。各ブロックの質問枠が2となった。質問数を減らした分、関連発言などで討論を充実させることが狙い。

傍聴記
超高齢社会を支える決意表明 代表質問に絞り質疑が円滑に

 当日の朝は肌寒いが、桜は正に見頃の満開であった。第144回日本医師会臨時代議員会は、平成31年3月31日午前9時半から開催された。開催に先立ち、本年4月27日~29日に予定される第30回日本医学会総会2019中部――の齋藤英彦会頭が壇上に立ち、総会のテーマ等の紹介とともに、日医会員に向けて事前登録の依頼がなされた(日医会員の現時点での事前登録者数は前回に比して▲4千人)。
 その後、議長あいさつ、出席者数の確認、日医綱領の執行部および代議員全員による音読があり、議事に入る。横倉義武会長の冒頭あいさつは、「改元」に寄せる期待に始まり、「在るべき医療の姿」としてのグランドデザイン2030、4月からの改正医療法・医師法施行開始に伴い、医師の働き方改革には「医師の健康への配慮」と「地域医療の継続性」の両立を可能とした制度設計が必要と述べられ、勤務医の健康確保に意欲を示した。医療分野でのAIやIT技術については、安全性の担保と医師主導の下での積極的な運用が求められること、また新専門医制度については確実な制度設計を、との観点から23のサブスペシャルティ領域の見直しの必要性を述べられた。社会的共通資本である医療は、医師と患者の相互の信頼の下で行われる共同作業であり、「かかりつけ医の心」「寄り添う心」を大切に超高齢社会を支えていく決意表明など、多岐に及ぶ充実した内容であった。
 中川俊男・今村聡両副会長からの事業計画および収支予算書の説明の後、質疑と続いた。今回からは個人質問は廃され、すべてが代表質問となった。代議員会に先立つ3週間前に締め切られた質問は全16題。多岐に及んだが、うち5題が児童や妊産婦あるいは成育基本法に関するものであり、少子化のみならず、昨今の児童虐待への危機感の強さもうかがえた。また地域医療構想や消費税問題は毎回、俎上に上がることもあって、ベテランの副会長・常任理事の答弁は、よく整理された非常に内容の濃いものであったし、ICT化関連の質問では新たに答弁に立たれた常任理事のフォローをそつなくこなされた。代表質問に絞ったことで全体として質疑が円滑で内容の濃いものとなった印象であった。(猫)