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勤務医の窓

働き方改革と「労働生産性」

府医ニュース

2019年4月17日 第2889号

 昨年、働き方改革関連法案が可決・成立した。この中で医師の働き方においては残業規制が最も大きな影響を及ぼすと考えられている。
 医師の働き方については厚生労働省の検討会で現在議論中であるが(3月20日現在)、その会合で、まず「医師は労働者である」ということが確認された。したがって医師の時間外労働時間にも原則上限が設けられることとなり5年後をめどに規制が適応される予定である。労働時間の短縮を実現するためにはタスクシフティングなど医師の働き方をサポートする仕組みが不可欠であるが、厚労省のホームページを見ると「働き方改革の目指すもの」の中に「投資やイノベーションによる生産性の向上」との記載があり、これからは医師も効率的に働き「労働生産性」を上げることを求められてくる可能性がある。
 先進国の中で日本の労働生産性は低いと言われている。平成27年のデータで比較すると日本における労働時間1時間当たりの国内総生産は米仏の約3分の2となる。しかし、この統計には高水準のサービスや顧客満足度などが反映されておらず、「サービス部門での労働生産性の測定方法は日本に不利に働いている」とフランスの識者が指摘していた(日本経済新聞/30年8月23日付)。
 私は内視鏡外科手術を積極的に行っていた施設で卒後早期から研修をすることができた。内視鏡外科手術は修練に時間を要し手術そのものにも時間がかかるため、「労働生産性」の観点からみると非効率的と言われるかもしれない。しかし、内視鏡外科手術は低侵襲で質の高い精緻な手術操作が可能であり、患者満足度は高い。この「満足度」や「質」といった数値化されにくい指標こそ医療の現場では大切にすべきことであると思う。
 医師は知識や技術のアップデートが常に求められる職業であり、研鑽と労働との線引きは難しい。研鑽の一部が労働とみなされると上限時間の規制で十分な研修ができなくなり、医療の質の低下につながる恐れが出てくる。健康管理に支障を来すような働き方は問題であるが、診療の質を向上させていくことは医師の責務である。働き方改革の行方には十分注意を払いつつ、様々な工夫をこらしながら勉強を続ける義務が医師にはあると思われる。

喜馬病院長
熊野公束
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