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時事
府医ニュース
2019年3月20日 第2886号
厚生労働省は2月20日に開催された第19回医師の働き方改革に関する検討会で、地域医療を適切に確保するための地域医療確保暫定特例水準を「年1860時間・月100時間(例外あり)」にすることを提案した。1月21日の第17回同検討会では、時間外上限を「年1900~2000時間」として議論が沸騰した。その後、厚労省は「指示なし」の時間を労働時間から除外し、1944時間以上としていた上位10%を1904時間以上とした。更に、12カ月で割り切れる1860時間にしたそうである。渋谷健司・同検討会副座長(東京大学教授)は、現場で疲弊している医師達に説明できるロジックがないとの理由で辞任された。確かに10%での線引きの理由は不明ではあるし、1860時間という数字自体の論拠も不明瞭である。4月に施行される働き方改革関連法の改正法施行までに、一定の結論を出さないといけないとの焦りも感じられる。
3月7日、大阪府医師会館で行われた府医勤務医部会第8~11ブロック合同懇談会では、7人のシンポジストが見解を表明した。星賀正明理事(勤務医担当)は、大学や救命救急病院では勤務時間が1860時間を超える医師が多いほか、大阪では「夜診」の診療体系があり、改革の難しさを述べた。平山篤志・大阪警察病院循環器内科顧問(前日本大学医学部附属板橋病院長)は、東京では医療圏外から流入する患者が多く、地域的にも急性期から慢性期まで雑多であり、医師の偏在も無視できない現状を示した。タスクシフトやスマートフォン管理など、独自の工夫をしていることなども紹介された。上田真喜子・森ノ宮医療大学副学長は、女性医師支援活動の実績を示し、キャリア支援や子育て支援とともに、代替医師支援活動がライフスタイルの多様性に対応していく姿に触れた。鍬方安行理事(救急医療担当)は、大阪で救急医療を支える医師数は極限状況で、専門外の医師で支えられている現状を報告し、タスクシフトや包括的指示などが必須とした。圓藤吟史・大阪労働衛生総合センター所長は、1900年代にUSスチールのゲーリー社長(当時)が「安全第一、品質第二、生産第三」の標語の下、労働災害の減少と品質の向上に成功した実例を挙げ、産業医の権限と中立性を強調した。加納康至副会長は、医師会が働き方改革を強力に推進していく方針を述べた。最後に、同検討会構成員である馬場武彦・日本医療法人協会副会長(社会医療法人ペガサス理事長)が進捗状況を報告した。馬場氏は1月21日の会合を振り返り、「比較的医師数の多い大阪でも、夜間救急は大学病院からの非常勤医師で支えられており、労働時間の上限設定は非常勤医師の派遣の縮小を招き、地域医療が崩壊する」との発言に言及。1860時間の数字が示された後、「宿当直の定義として、昼間と同程度の労働に集中することがまれであれば、宿当直は取り消さない」「自己研鑽を切り分け、患者への直接従事は勤務時間と定義されるが、上司からの指示がなければ勤務時間にはあたらない」「研修医に対しては、募集時に1860時間までの超過勤務容認の提示が可能で、それに対する超過勤務手当は支払わなければならないなどの条件が加わった」――ことなどが述べられた。すなわち、この上限に付帯条件を付けることにより現実的運用を許容し、次のステージに議論が進んだことが示された。
各シンポジストの主張は独立した領域での問題提起であったが、「1860時間」が、大きな意味を持って議論に方向性を持たせたことは予想外であった。地域医療確保暫定特例水準は、大学や救急医療に携わる医師が対象である。しかし、地域医療の混乱を避けるための付帯的条件で、今回の小規模な懇談会でも議論が回った成果があった。一方、「この勤務体系で女性医師がどのようにして育児をするのか」「働き方改革は医療関係者全員が該当するのに、タスクシフトは受け手側が納得しているのか」など、即答できない質問も出た。今後はこれをたたき台に、上限時間を減らすための結論を5年以内に出す必要がある。最後に馬場氏は、「タイムカードでの勤務時間の記録は最低限必要である」と締めくくったが、4月以降には厳しい現実も迫っているのである。(晴)