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医師・医療関係者のみなさまへ
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新春対談
府医ニュース
2019年1月2日 第2879号
「平成」最後の新年を迎えた。新たな時代の幕開けを控え期待に胸が高まる一方、成熟社会を迎えた我が国の将来の見通しは、決して楽観できるものではない。社会保障の充実により国民に安心を与えていくことは、国の重要な責務であるが、医療を取り巻く状況は厳しく、国民皆保険も危機的状況にあると言っても過言ではない。国民に必要かつ適切な医療を提供していくためには、政策実現に向けた力強いリーダーが不可欠である。新春対談では羽生田たかし参議院議員を迎え、医師会活動の思い出とともに、医療の課題と今後への展望を大いに語ってもらった(司会:阪本栄理事)。
茂松 明けましておめでとうございます。本年もよろしくお願い申し上げます。羽生田先生とは様々な会合でお会いしていますが、この度は「大阪府医ニュース」の新春対談にお越しいただき、有難うございます。「平成」発行分の新春号は今回が最後になりますので、記念になる対談にしたいと思います。
羽生田 こちらこそ、よろしくお願い申し上げます。
阪本 司会を務めます広報担当理事の阪本です。よろしくお願いいたします。まず、本紙の恒例の質問なのですが、新春号ということで、お雑煮について伺います。
羽生田 私の出身は群馬県なのですが、母が東京生まれのため、味付けは東京風のすまし汁でした。具材は四角く切ったお餅、なると、人参、ほうれん草でしたね。お餅をマッチ箱の大きさに合わせて切っていたことを思い出します。
阪本 非常にお忙しい毎日だと思いますが、年末年始の過ごし方についてお教えください。
羽生田 私の両親が元気な頃は、年末年始やゴールデンウイークを利用し、妻の実家がある飛騨に帰省していました。「娘の夫」として歓待してもらえますので(笑)、のんびりと過ごし、英気を養っていましたね。
茂松 確かにそうですね。ところで、ご出身の群馬県は、全国有数の小麦の産地だと伺いました。大阪では、お好み焼きやたこ焼きなど、いわゆる「粉もん」がソウルフードと呼ばれていますが、小麦を使ったご当地グルメをお教えください。
羽生田 「じり焼き」をご存じですか? 小麦粉に水や砂糖を加えて生地を作り、丸く焼いたものです。地域やご家庭で具材や味付けは色々あるようです。素朴な食べ物ですが、家にある材料で手軽にできますので、子どもの頃、おやつとしてよく食べていました。
茂松 お父様(故羽生田進氏)は、医師として地域医療活動に尽力された一方、衆議院議員を2期務められました。ご自身も同じ道を歩まれていますが、小さい頃から医師や政治家への憧れがあったのでしょうか。
羽生田 地元での父の様子は見ていましたが、実のところ、国会でどのような活動をしていたかはよく知りませんでした。
茂松 環境と言いますか、お父様の影響もあり、政治家を目指されたと思っていました。
羽生田 父の初当選は昭和47年12月で、小泉純一郎氏と同期です。また、地元には群馬県初の総理大臣である福田赳夫さんがおられましたので、福田派に属し、総理誕生を後押ししたと聞いております。初当選の時、私は医学部の卒業を翌年に控えており、政治への関心は高くありませんでした。しかし、卒業後、すぐに父に呼ばれ、「医師になるか、政治家を目指すか、今決めろ」と迫られました。何しろ卒業したてでしたので、「医師になります」と言いました。もし、「政治家」と答えていたら、秘書を経て、地盤を引き継いでいたのかもしれません。しかし、今、改めて振り返ると、医師会という組織にいたからこそ、医師連盟の代表として国会議員の仕事ができていると思います。長年の医師会活動を通じての強い思いが、自身の政治家としてのキャリア形成に役立っていると感じます。
茂松 おっしゃるとおりです。我々といたしましても、「国民、そして国民医療を守る」という立場で、国政に携わっていただきたいと望んでいます。そうしたお気持ちを直接伺えたことは、非常にありがたく、引き続き頑張っていただきたいと思います。
阪本 その後、30歳で羽生田眼科医院の3代目院長に就任されました。
羽生田 議員活動で父が不在になることが多く、患者さんにはご迷惑をおかけしていました。3代目として何とか診療を継続したいと決意し、後を継ぎました。当時は、午前は診療所での診察、午後からは大学や他の病院に出向いていましたね。本格的に医師会活動を始めたのが38歳の頃です。
阪本 地域医療活動に尽力される一方、前橋市医師会や群馬県医師会の理事を歴任されました。地域の医師会活動で、印象に残った取り組みについてお教えください。
羽生田 昭和62年、前橋市医師会理事に就任しました。同市医師会には、前橋准看護学校・高等看護学院がありますが、当時はバブル景気に沸いていました。景気と看護師の人気には相関があるようで、景気が良いと看護学校の入学志願者数が減少するのです。前橋でもそうでしたが、全国の多くの看護専門学校で定員割れが生じ、地域医療を担う看護師の人材不足が大きな問題となりました。このため、同校では、他校に先駆けて約30年前から「社会人入学制度」を導入したほか、地域の学校を訪れ、推薦入学制度について繰り返し説明を行いました。
茂松 確かに、バブルの頃は看護師を希望される方が少なかったですね。
羽生田 好景気の影響で、せっかく入学したのに、条件のいい職種に就くため、夏休みが終わると退学してしまう学生も少なくありませんでした。現在は、社会人入学制度も全国に広がり、セカンドキャリアとして看護の道を目指す方が増えてきています。私見ですが、実際に医療現場で活躍されてなくても、地域に看護師資格を有する方がおられることは、住民の安心につながると思います。
茂松 看護師は、患者さんやご家族に寄り添う姿勢を学んでいますから、地域におられることは心強いですね。
羽生田 社会人入学制度は、学生全体のレベルアップにもつながりました。社会人を経験された学生は、目的意識を持っており、勤勉です。母親世代の人達が熱心に学ぶ姿を見て、若い学生が影響を受け、相乗効果が得られたことは大きかったですね。
阪本 その後、日本医師会副会長から政治の世界に転身され、まもなく6年となります。
羽生田 7月に参議院議員として6年の任期が満了になります。ただし、日医の役員を務めた期間の方が長かったものですから、社会保障をはじめ、ほとんどの政策については、日医の考え方を踏襲しています。横倉義武・日医会長とは、頻繁に意見交換の場を持っています。
茂松 羽生田先生とは、忘れられない思い出があります。私が府医理事に就任して初めて担当した分野は救急で、日医「救急災害医療対策委員会」にも委員として参画いたしました。府医では、更なる蘇生救命率の向上を目指し、二次救命処置(ACLS)の普及啓発に向けて平成13年に「ACLS大阪」を設置しました。翌年より実践的な訓練プログラム(ACLS大阪・医師会コース)をスタートさせましたが、15年4月に実施した研修会に、羽生田先生が急遽参加されたのです(左下写真)。
羽生田 当時は日医常任理事で、私も救急を担当していました。茂松会長と日医の委員会でお会いした際に、大阪での研修会開催をお聞きしました。受付を締め切っていたにもかかわらず、無理をお願いし、受講させていただきました。また、日医でも16年3月より「ACLS研修」を開始しました。私の修了証は府医の受講により交付されています。
阪本 大阪とは縁があるのですね。
羽生田 当日は千里救命救急センターの看護師さんらと同じグループとなり、突然の心停止への対応を実践的に学びました。
茂松 「在阪5大学病院の救急部門と救命救急センターが密接に連携し、訓練指導体制をとっていることが大阪の特色です」と、羽生田先生に緊張しながら説明したことを覚えています。当時、私は理事としてのキャリアもまだ十分とは言えず、正直、日医役員の先生方には「敷居の高さ」を感じていましたが、羽生田先生には大変気さくに接していただきました。また、Tシャツにジャージ姿で率先して訓練に取り組む姿を拝見し、その熱意や意識の高さに心打たれました。非常にアクティブで、「先生のような方に、将来の日本の医療界を託すことができれば」と、期待と憧れをもっておりました。私の目は確かでしたね(笑)。
阪本 とりわけ、当選4年目で参議院厚生労働委員長を務められたことは、医師連盟にとっても大きな出来事であり、頼もしく思いました。
羽生田 党内で「参(さん)志(し)会(かい)」という同期会に属しているのですが、その中で最も早く委員長に抜擢されました。議員にとって、然るべきポストに就くことはステップアップにつながり、非常に重視されます。私自身、ポストに固執したわけではないのですが、参議院厚生労働委員会のメンバーでは年長者の部類であり、そうしたことも影響したのかもしれません。また、厚生労働分野は審議事案が非常に多いのですが、特に厚生分野では与野党が対立することはあまりありません。与野党の関係が比較的良好であることも、就任理由のひとつなのかもしれませんね。
茂松 昨年は大阪府北部で大きな地震があり、秋には北海道胆振東部地震も発生しました。また豪雨、台風被害も甚大でした。羽生田先生は、参議院東日本大震災復興特別委員会の委員として活動されておられますが、災害医療体制の在り方など、お考えをお聞かせください。
羽生田 昨年は災害が多く、しかも続けざまに発生しましたので、大きな災害の報道も次に起こった災害にかき消されるほどでした。昨年6月の大阪北部地震も、その後の豪雨災害や9月の台風21号などがあり、復興の状況はあまりニュースで取り上げられませんでした。これでいいのか、という思いがいたします。
茂松 これまで大阪では大きな自然災害が少なく、どちらかと言えば「支援する立場」にありましたが、今回、特に初動対応がいかに難しいものであるかがよく分かりました。
羽生田 災害が起こった時、どう行動すべきか改めて見直すきっかけになりましたね。持論と言いますか、まだ私案の段階ですが、都道府県に1人、災害コーディネーターを配置してはどうかと考えています。災害時に知事と同じ権限を与え、自衛隊、警察、消防や日赤に派遣要請等ができる立場の人が1人いれば、指示系統も統一できますし、全体のつながりも生まれ、過酷な状況下でも物事がスムーズに動くのではないでしょうか。
茂松 おっしゃる通りです。災害時の経験が豊富な方にコーディネーターになっていただくことを期待します。ぜひ実現につなげてほしいですね。
阪本 「医療基本法」「成育基本法」の法案成立の機運が高まっています。
羽生田 日医委員会で提言を取りまとめていただきましたが、これらの法案が成立に至っていないことを大変申し訳なく思っております。衆参両議院には法制局があり、議員立法に関する素案を法律的な文言等をチェックした上で議論しますが、「医療基本法」制定に関する日医の提言について、法制局に相談したところ、芳しい返事が得られませんでした。日医に差し戻し、再度検討してもらった経緯があります。指摘いただいた箇所を見直し、内容をスリム化しました。「医師・医療者と患者さんとの信頼関係」を基本に、その責務は国や地方公共団体にあるという形にしました。各党への説明の後、超党派による議員連盟を組織し、早期の成立を目指しています。また、「成育基本法」の法案成立に向けては、党内での議論を踏まえ、自民党案をまとめました。超党派による議員連盟の設立に動いていたのですが、その頃、野党の再編があったことも影響し、かなりの時間を要することになりました。会員の先生方から見ても、この間の動きについては、もどかしく感じられたことでしょう。しかし、一つひとつクリアしていかなければ物事が進まないのです。超党派による「成育基本法」の議員連盟の事務局長には、小児科専門医である自見はなこ参議院議員が就任しており、法案成立に尽力しているところです(編注:この対談後、12月8日午前2時参議院本会議にて全会一致で成立いたしました)。
茂松 数多くの調整など、ご苦労は非常によく分かります。また、医療には不確実性があります。ルールづくりにおいて、どの程度まで明文化するかは大きな検討課題ですし、国民の皆様にもご理解いただくことも大切です。
羽生田 特に医療情報等は機微な内容ですので、取り扱いには慎重な対応が求められます。医療の不確実性に関しても、患者さんは理解しておられると認識していますが、一層の取り組みが重要です。法案の名称である「医療基本法」ですが、「患者さんの権利を守る法律を作りたい」との患者団体の願いが先にあり、「患者の権利法」という名称案が検討されていました。患者さん側とも話し合いを重ね、また、日医会館のほか全国各地で「医療基本法(仮称)制定に関するシンポジウム」を日医主催で開催しました。このような積み重ねにより、名称案を「医療基本法」とすることで、患者さん側にも納得をいただきました。
茂松 国は「持続可能な社会保障」に向けて、財政健全化を大義名分として医療費抑制を打ち出しています。経済財政諮問会議や財政制度等審議会財政制度分科会で、社会保障制度改革に関する議論が行われていますが、「改革工程表」では、非常に厳しい内容が示されています。
羽生田 「財源がない」との前提で、「財源をどこからどのように調達するか」が焦点になっていますが、「本当に財源がない」という訳ではないでしょう。災害の復旧・復興費用としてあれだけの補正予算が充当されるのですから。しかし、社会保障関係費に国家予算の多くが使われているため、ここを抑制しなければならない――いわゆる「医療費亡国論」ですね。「医療費によって国が滅びてしまう」との考えが、いまだに根強く残っているのです。そうした中で、医療界が圧迫されているのが現状です。消費税は、社会保障の安定財源として位置付けられています。10月から消費税率が10%に引き上げられる予定で、これによって社会保障の財源が少し増えることは確かです。しかし、増税後の「買い控え」による景気の落ち込みも想定されます。経済とのバランスが本当に難しいですね。
茂松 経済施策が優先され、企業の内部留保は大幅に増加していますが、賃金は伸び悩んでいます。
羽生田 国民、企業双方とも、将来に対する大きな不安があります。「お金がない何もできない」といった不安が、貯蓄や内部留保を増加させる要因を生み出しています。社会保障は国民の安心に寄与するものでなければなりません。しかし、国民が安心して老後まで過ごす体制づくりが十分ではありません。
阪本 横倉義武・日医会長も、社会保障の充実が需要創出や雇用拡大、経済成長等につながると主張されています。
茂松 羽生田先生もご指摘のように、「医療費興国論」による活性化が望まれます。また、税金や保険料は、そもそも国民から集められたものです。政治家の方は国民の代表ですから、「国民がどのような国の在り方を望むか」を真摯に考えていただきたい。社会保障費や医療費が抑制されている現状では、国民の安心にはつながりません。
羽生田 小泉政権下での医療制度改革では、「三方一両損」のフレーズが多用されました。医療機関・患者さん・保険者が応分負担する主旨でした。しかし、診療報酬のマイナス改定や国民の負担増など、一方的に痛みを押し付けながら、国は損をしていません。今でも間違いであったと思っています。
茂松 これ以降、医療はもはや聖域ではなく、サービス業と捉えられる風潮が高まりました。医療は生命と健康に直結しますから、「平時の国家安全保障である」と私は認識しています。国民皆保険制度を堅持し、必要な医療を適切に受けることができる体制がしっかりと構築されますよう、よろしくお願いいたします。
阪本 現在、我々にとって特に関心の高いテーマのひとつが、「医師の働き方改革」です。党内のプロジェクトチームの座長を務めておられ、意見の取りまとめに努力されていることと思います。
羽生田 日医においても、「医師の働き方検討委員会」「医師の働き方検討会議」で議論されています。基本的な理念として、「地域医療の継続性」「医師の健康への配慮」の両立が掲げられています。ご指摘のとおりであり、その考え方を踏襲して検討を重ねています。この2本柱は非常に重要ですが、いざ進めようとすると9割程度が相反するものであり、両立が非常に難しいのが実情です。時間外労働がなければ、今の日本の医療は成り立たないと言えます。私も理解しておりましたが、ヒアリングを実施して改めて痛感した次第です。日本の医療が、いかに医師・医療関係者の献身的な努力で成り立っているかを如実に物語っています。長時間労働を是正すると、救急医療や産科・小児科といった診療科に大きな影響を及ぼし、縮小や休止に追い込まれることも考えられます。人材確保と同時に、国の財政的な支援が不可欠です。働き方に本腰を入れ、本当に変えていこうとするのであれば、政府にも相当の覚悟が必要です。
阪本 おっしゃるとおりです。
茂松 一方で、医師数の増加に関しては、需給バランスに配慮することも大切です。
羽生田 厚労省「医療従事者の需給に関する検討会」の医師需給分科会で議論がなされています。医学部定員は、「地域枠」の創設などで臨時増が図られてきましたが、今後、医師需給は均衡することが見込まれます。全体的なバランスを見据えつつ、増加分の削減に向けた議論をしていくことになると思います。
茂松 最後に、今年の抱負をお願いします。
羽生田 今年は私にとって大切な1年になります。「すべての人にやさしい医療・介護を」――私のモットーです。この実現のため、更なる発展・充実を目指し、国政の場で力を発揮できるよう頑張ってまいりたいと思います。
茂松・阪本 本日は有難うございました。