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医師・医療関係者のみなさまへ

時の話題

「医師の応召義務」をどう考えるか

府医ニュース

2018年9月5日 第2867号

医師の働き方改革を踏まえて

 日本医師会では、平成12年に「医の倫理綱領」を採択、16年には「医師の職業倫理指針」を作成し、会員に「医の倫理」の向上への自覚を促してきた。また、「医の倫理」については色々な問題があり、時代とともに話題も変化していくことから、「医の倫理の基礎知識」として、基礎的な事項を日医ホームページ上で掲載している。
 このうち、「医師の応召義務」に関しては、「医の倫理の基礎知識」の各論的事項に掲載されている。それによると、医師法第19条は「診療に従事する医師は、診察治療の求めがあった場合には、正当な事由がなければ、これを拒んではならない」と定めているが、法律学上は、医師を鉄道会社あるいは電気供給を行う企業と同じ立場に置き、契約当事者の一方に契約締結を義務付け・強制する条文のひとつだと説明されている。その上で、「この義務は、医師が医師の身分に基づき国家に対して負担する公法上の義務で、私法上患者に対して負担する義務ではない」と解されている。
 この条文のルーツは、明治初期の(ヨーロッパ)大陸法の継受に由来し、数回の変遷を得て昭和23年制定の現行医師法に引き継がれた。医師法制定の際、本条削除が検討されたが、守旧派の抵抗により罰則を削除して現在の形で残された。現行の医師法は、敗戦による医療施設が荒廃する中で、「救急医療など、本来、国・公立の医療施設、大規模病院が負うべき業務を、第一線開業医の責任に転嫁し続けていた」と、この論説では述べている。
 医師法の母法国・ドイツの現状は、日本とは異なり、ドイツ連邦共和国医師法中に、応召義務の規定は存在しない。ドイツでは連邦を構成する各州に強制加入の医師会設立のための法律が存在し、その中で医師会が自律的に医師「職務規範」を制定することを義務付けている。州医師会によって構成されるドイツ連邦医師会は、各州医師会医師職務規範の統一を図るために「模範職務規範」を作成し、改定を重ねている。規範では、早くから「救急医療奉仕義務」と言う規定が存在し、救急医療参加は、医師会員としての義務であり、全員参加が原則であるとしている(病気、産休などの例外あり)。更にドイツの医師職業規範には、「医師は患者が自由に医師を選択し変更する権利があることを尊重する。反対に、医師も救急または特別の法律上の義務のある場合を除き、診療を拒否する自由がある」と述べている。つまり、アメリカ同様、患者は医師を選ぶ権利があり、医師も患者を選ぶ権利があるとの考え方である。
 現在、「医師の働き方改革」を進める議論の中で、「医師の応召義務」等の特殊性を踏まえた対応が必要とされている。医師法に位置付けられた「医師の応召義務」について、国民の理解を得ながら日本の医療に合った形に考え直す時期に来ているのかもしれない。