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時事
府医ニュース
2018年7月25日 第2863号
自動運転の定義は、米国の非営利団体であるSAEインターナショナルが定めたJ3016の定義が世界的に使用されている。「レベル0」は自動運転なし、「レベル1」は自動ブレーキなど運転支援をする機能である。「レベル2」は、高速道路などの単純な道で、前方を走行する車に縦列追従したり、車線に合うよう自動運転したりする技術であり、国内外でこの機能を搭載した車種が登場してきている。この上が「レベル3」で、見通しのよいところでは手放し運転が可能だが、緊急時にはドライバーが運転しなければならない。「レベル4」では条件が良ければ運転手なしで動き、更に「レベル5」となると、どんな道でも勝手に運転してくれる完全自動運転車である。
消費者側から見れば夢が広がるが、開発する側にとっては甘くない。アメリカでは、元エンジニアが自動運転開発技術に関する情報をダウンロードし、国外へ持ち去ろうとしていた事件が発覚した。AIを利用した技術は、国家の存亡をかけた先端技術であり、農業・工業・情報に続く「第4次産業革命」と言われる。IoTで形作られる都市の生活情報網の中、自動運転車はひとつの社会部品である。研究開発費の比較で見ると、IoTが圧倒的に強いのはアメリカである。車への投資に限らないが、グーグルを傘下に持つアルファベット社は約1兆8200億円、アップル社は約1兆2千億円である。IT産業に情報を握られると、車はこれら企業の下請け産業になってしまうわけである。自動車メーカーは必死で反撃に出ている。フォルクスワーゲン社(ドイツ)は1兆5千億円、国内ではトヨタが1兆800億円投じており、世界的に見ても少なくない。特にドイツは、クリーンディーゼル一辺倒であったが、排ガスデータの改竄や、世界的なディーゼル車の廃止の波を受け、起死回生を図ってきている。一方で、車を作らないIT企業は、はじめから「レベル4」以上の完全自動運転車の開発に力を入れている。車載基本ソフトで主導権を握ろうという魂胆だ。
日本政府は敏感に反応し、昨年、「官民ITS構想・ロードマップ2017」を策定した。ちょうど「働き方改革」が出てきた頃である。この中で2020年までに「レベル3」、25年までに「レベル4」、10年後には完全自動運転を実現する目標を掲げた。また、法的な被害者救済が行われるよう、自動運転での損害賠償責任について検討し始めている。現段階では、「レベル3」以上の車の事故は、車の所有者やドライバーの過失は問いにくく、システム欠陥などの場合は自動車メーカーが責任を負うことになるようである。既に保険会社は、「レベル3」までに対応した商品を発売している。こうした状況下で3月、アメリカのある企業が、完全自動運転テスト車両を走行中に死亡事故を起こした。「夜道の自転車の横断は『想定外』で、プログラムが対応できなかった」とのことである。動画を見ると、ヘッドライトに照らされた被害者は自転車に隠れて見えにくく、自動運転車はブレーキをかけずに通り過ぎた。事故では、テストドライバーの過失があり、企業責任も明らかになった。試運転は再開されると聞くが、事故による企業イメージの失墜による規模縮小は避けられない。事故対応力の差に気付いたのか、最近は自動車メーカーと協力体制をとる事例が増えている。
国内に目を向けると、トヨタでは、アメリカのIT企業にはIoTで勝てないため、「安全な自動運転」を第一に掲げる戦略をとっている。最先端をとるか、人々の安全が第一か――「お客様第一」の日本らしい対応といえる。働き方改革に関して、我々医療人は過剰労働の是正だけを主眼に考えているが、その出所が「基幹産業の生き残りをかけた体質改善による創造」とすれば、この成り行きを見守れば、医療の未来が見えてくるかもしれない。(晴)