TO DOCTOR
医師・医療関係者のみなさまへ

ミミズクの小窓

"表情"というイヌたちの戦略

府医ニュース

2018年3月28日 第2851号

今回は動物ネタである。ほとんどの哺乳類には〝顔の表情〟があるが、これらは能動的なコミュニケーション・ツールというより、意図的ではない感情の表出であるとされてきた。無論ヒトの古き良き友人であるイヌにしてもその例外ではない。ところが最近、飼い犬の顔の表情は、飼い主と意思疎通を図ろうとする積極的な意図によるものである可能性を示す研究が発表された(Scientific Reports 19 Oct 2017)。
 この研究を行ったのは英国ポーツマス大学のグループで、彼らは「顔面動作コーディング・システム(Facial Action Coding System FACS)」を用いて、ヒトが注目する場合としない場合、食べ物がある場合とない場合について、イヌの表情の変化の頻度と現れる動作単位(action unit)を解析した。結果はといえば、イヌはヒトから注目されている時により頻繁に表情を動かすが、食べ物は表情変化に影響しなかった。イヌは顔の表情をヒトに対する意図的なコミュニケーション・ツールとして用いている可能性があるのだ。
 イヌがヒトに対して最もよく使う表情、すなわち"得意技"が"inner eye brow raise"という動作単位で、"眉頭を上げて目を大きくして子犬のように可愛く見せる"という表情である(思わず自分でやってみた方は好奇心旺盛かつ実証主義的であるとみた)。ヒトが注目していると、この動作は倍以上の頻度で見られるという。なお、この動作は生物学的には"幼形保有"というカテゴリーに入る。平たく言えば"ぶりっ子"である。この手段、イヌ・ヒト間では非常に有効であるが、ヒト・ヒト間ではしばしば"気味が悪い"と捉えられて逆効果のことも稀でない。
 この研究結果に対するミミズクの感想は、「イヌ達、なかなかやるじゃないか」である。ひょっとしたら飼い主に媚びを売って立場を良くする、という戦略的意図もあるのではないか。また、最近はネコ番組の放映が多いので、イヌ達も危機感を持っているのかも知れない。もし大阪府医師会員諸兄姉がネコ番組を視聴していたら、飼い犬達が"inner eye brow raise"でアピールする可能性があるので、彼らに注目していただきたい。さて、ミミズクは"inner eye brow raise"に対する飼い主側の反応にも興味がある。きっとFACS解析に値する表情変化がみられると推察する。加えて声も優しくなるのではないか。これを"ネコ撫で声"ならぬ"イヌ撫で声"と言う。