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働き方改革

府医ニュース

2018年2月7日 第2846号

過重労働と組織硬直性

 1月15日、厚生労働省「医師の働き方改革に関する検討会」から、『医師の労働時間短縮に向けた緊急的な取り組み』骨子案が発表された。これは1.医師の労働時間管理の適正化に向けた取り組み2.36協定の自己点検3.既存の産業保健の仕組みの活用4.タスク・シフティングの推進5.女性医師等に対する支援6.医療機関の状況に応じた医師の労働時間短縮に向けた取り組み――の6項目からなる。医師の働き方で最大の難所は、罰則規定を伴う「36協定」(労働基準法第36条の略で、時間外及び休日の労働に関する労使協定)である。時間外または休日に労働をさせる必要がある具体的な事由とその内容に関して協定を締結し、事前に所轄労働基準監督署長に届け出る。延長時間は区分に応じて限度時間を超えないものとしなければならない。「特別条項付き36協定」は、臨時的に限度時間を超える場合に締結されるが、このような協定は特に抑制が必要、というものである。第37条では原則として時間外、休日及び深夜には割増賃金、更に1カ月について60時間超の時間外労働をさせた場合には5割以上の割増賃金を支払わなければならないと定められている。時間外労働が多くなるほど割増賃金を多くして労働時間が短縮するよう体系化されている。上限が制限される趨勢にあるが、現実的に「36協定」を完全に順守すれば、医療は崩壊すると言われている。背景に医療経済が拡大傾向にあったことが一因に挙げられるが、縮小してきた産業経済の再攻勢ともいうべき働き方改革で、政府は医療にメスを入れてきた。
 1月23日の大阪府医師会勤務医部会研修会では、「病院における労働環境整備と医師の働き方改革」と題し、大阪労働局から2名が講演された。同労働基準部監督課の神田哲郎氏は、勤務医は日本社会では法律上『労働者』であり、労基法に違反すれば当然罰則規定が適用されると明言され、厳しく受け止めた。一方、今後の医療における働き方改革の方向性とも取れる言及があった。罰則規定が適用される会社(病院には言及されず)では、「ワンマン社長」が多く、部下の不平不満を十分把握していない硬直化した意思伝達体制があるとの事例を指摘された。法に抵触する際、体制の硬直化が並存する客観的事実に注目したい。
 さて、緊急的な取り組みの中で、真っ先に行わなければならないものは、「医師の労働時間管理の適正化に向けた取り組み」である。「適正化に向けた取り組み」であり、適正化と断定していないことに注目したい。解説では、「タイムカード等が導入されていない場合でも、出退勤時間の記録を上司が確認するなど、在院時間を的確に把握する」と表現され、「必ずタイムカードを設置」とはしていない。「36協定の自己点検」では、協定の順守といった強い表現は用いず、「業務の必要性を踏まえ、長時間労働とならないよう、必要に応じて見直しを行う。診療科ごとの実態を考慮した複数の定めを検討するとともに、医師も36協定の適用対象であることを周知する」とし、神田氏が述べられた組織の硬直性を解消する試みとも受け取れる。ただし、この柔らかな表現は、順守しなくてよいという意味ではない。関東労災病院経営戦略室長・救急総合診療科部長の小西竜太氏は、1月17日開催の府医勤務医部会第5~7ブロック合同懇談会において、医師の働き方改革に関してコメント。地域包括ケアシステム、地域医療構想、新専門医制度などの体制的改革と異なる攻め口を持ち、これらと並行して数年かけて実行されていくことを強調されている。全体の改革が完成するまで、働き方改革における36協定の実施も徐々にハードルが上がるということである。また、勤務医部会研修会では、同雇用環境・均等部指導課の砂修氏が、「働き方改革の目的は生産性向上ではあるが、長時間労働の是正と機会均等、仕事と育児・介護の両立、そして人口減少に歯止めをかけ、幸福な日本を再興させることが最終目標」と述べられた。働き方改革を大きな視点で捉え、その中で「36協定」を解釈している考えを強調された。労基局は、医療従事者の勤務時間把握が確実に実行されることを見守るようにも感じた。(晴)