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府医ニュース
2017年12月27日 第2842号
今年も残すところわずか。「ひふみん」「藤井フィーバー」「永世七冠」と、将棋界は各世代が大きな功績を残した1年でした。そして、我々は、「インスタ映え」を気にしながら、「プレミアムフライデー」にはおいしい料理に舌鼓――と言いたいところですが、鳴り物入りで始まったこの取り組み、早くも失速気味です。月末、しかも金曜日は仕事も立て込むことが多く、「ちーがーうーだーろー!」と言いたくなるのもごもっともです。「働き方改革」を唱えられても、結局のところは国による「働かせ方改革」ではないかという意見も……。
江戸川柳では「一年を二十日で過ごすいい男」と、悠々とした働き方をたとえて詠まれた力士ですが、九州場所中に横綱による暴行事件が発覚。これをきっかけに、角界を取り巻く軋轢も報じられていますが、力士一人ひとりが「心技体の充実」を図り、信頼回復を得ることが大切です。一方、「モリカケ」を巡っての「忖度」や「魔の2回生」のスキャンダルなどで一時は土俵際の安倍政権でしたが、新党結成での「排除」発言で与党に風が吹き、結果はご存じのとおり。内閣支持率も回復してきました。しかし、国内外で問題は山積しています。特に緊迫する北朝鮮情勢に関しては、「Jアラート」が鳴り続く情勢とならないことを願うばかりです。そして、「お友達ファースト」ではなく、すべての国民が安心・安全に過ごすことができる施策に努めていただきたい。「人生100年時代」を見据えるならば、過剰な社会保障費の抑制は「フェイクニュース」として、医療に「希望」を与えてほしいものです。
さて、政府は12月8日の閣議で、天皇陛下が退位される日を平成31年4月30日とする政令を決定しました。翌5月1日に皇太子さまが即位され、新元号となります。「平成」の時代に思いを馳せながら、本紙編集委員が独自の視点で平成29年の出来事を振り返ります。
本年9月、臨時国会が始まると同時に衆議院解散となった。一般的には衆議院解散と選挙を行うことは天皇の国事行為とされている。実際、その国事行為は「内閣の助言と承認により」行われるものである。つまり、解散は首相の専権事項とも言われる。その解散後の選挙で自民党は大勝。元々与党は衆議院過半数を保持し、更に8月に内閣改造したばかりであったが、選挙後の組閣で国務大臣はすべて再任で顔ぶれは変わっていなかった。なんのための解散なのかも理解できない。もし、解散せず国会が始まれば森友学園や加計学園の問題が追及されていただろう。そこを嫌がったのか、支持率がまだ保たれているうちに選挙を行いたかったのか様々な分析がなされている。事実として、6月末に閉会した通常国会から半年間も国会審議が行われないという異例の中、解散選挙が行われたのだ。
小学校新設に対する土地払い下げに首相や夫人が関与しているのではという質問に、「私や妻が関係していたということになればこれはまさに私は間違いなく総理大臣も国会議員も辞めるということははっきりと申し上げておきたい」と国会の場で首相は明言。その後、森友学園の講演会動画で夫人が籠池泰典氏と面識があったことは明らかとなった。面識はあったが関与ははっきりとしない、つまり疑わしきは罰せずということなのか。更に100万円の授受を籠池氏が述べたことに対して「首相に対する侮辱」という理由で証人喚問がなされたことも前代未聞である。
衆議院が解散されるとすべての議員はただの人になってしまう。まさか、首相が行った「国難突破解散」とは、夫人と森友学園の関係が疑わしいことへの禊だったのではないだろうか。つまり、国会の場で「関係があれば議員も辞める」といった事への落とし前だったという意味だ。彼の言う国難とは「森友加計問題で追及されること」であり、選挙で大勝したからには「その国難を突破した」という解釈ともとれる。解散での議員辞職をもって首相は筋を通したつもりではないだろうか。為政者の日本語の乱れに世の中の乱れを感じる一年であった。(真)
2月、厚生労働省「『我が事・丸ごと』地域共生社会実現本部」から「『地域共生社会』の実現に向けて(当面の改革工程)」が発表された。同本部は、昨年6月に閣議決定された「ニッポン一億総活躍プラン」を踏まえたもので、昨年末には「地域における住民主体の課題解決力強化・相談支援体制の在り方に関する検討会(地域力強化検討会)」の中間取りまとめが行われ、この提言を取り入れた改正社会福祉法(介護保険法等の一部改正)が5月に成立した。9月に最終取りまとめが公表されるとともに「地域共生社会の実現に向けた市町村における包括的な支援体制の整備に関する全国担当者会議」が開催された。
地域共生社会は、地域包括ケアの「必要な支援を包括的に提供する」理念を、高齢者のみならず、障害者や子ども・子育て家庭、生活困窮者支援に普遍化したことから、地域包括ケアシステムの進化したもの、あるいは上位概念とも表現される。制度・分野ごとの『縦割り』や「支え手」「受け手」という関係を超えて、地域住民や地域の多様な主体が『我が事』として参画し、人と人、人と資源が世代や分野を超えて『丸ごと』つながる社会を目指すものである。
背景には、高齢の親と無職独身の50代の子が同居している世帯(いわゆる"8050")や、介護と育児に同時に直面する世帯(ダブルケア)など課題の複合化、「ごみ屋敷」や軽度の精神障害など制度の狭間の問題、地域によっては専門人材の確保が困難になるなど、これまでの『縦割り』公的支援の限界が示されている。そして、土台としての地域力の強化(「他人事」ではなく「我が事」と考える地域づくり)が謳われている。
工程では、来年、共生型サービスの評価や生活困窮者自立支援制度の強化を行い、2019年以降に制度の見直しをした上で、2020年代初頭の全面展開をする計画となっている。
地域共生社会の推進は、自治体や地域の各機関・専門職、地域住民への丸投げとの批判的な見方もあるが、それだけ、超高齢・人口減少社会が今後更に進行し、問題が複雑化する中で、公的支援の(相対的)先細りに危機感が持たれている証左ともいえよう。(学)
本年、世間の耳目を集めたのが人工知能(AI)である。AIが囲碁・将棋名人をことごとく打ち負かした。加えて、AIで学んだ中学生棋士の快進撃で俄然注目された。AIのディープラーニングは人智を超えるとの極論さえ聞く。当然のごとく、AIの診断への活用が始まっている。大腸内視鏡検査では、前がん病変を98%の確率で検知できるとされた。画像診断への導入の意義は分かりやすい。一方、画像診断とは対極にある精神症状の分析へのAIの活用の開発は興味深い。
慶應義塾大学医学部では「AIを活用して精神疾患を定量的に判断し、見える化させる診断支援プログラムの開発研究」が進められている。精神症状の見極めにあたっては、患者の個性や医師の観点など曖昧な要素の影響が色濃い。重症度の定量的な評価が難しい面がある。そのため、診断・治療の標準化や治療効果の客観的判定が課題となっている。そこで、面接での会話内容、声量やトーンに加え、表情・動作をデータ化し、AIによる解析アルゴリズムで分析する。精神症状を客観的に数値化する。診断・治療の標準化だけでなく、客観的な治験判定での新薬開発へのAIの活用を目指すという。
しかし、AIでは患者の揺れる心を読み取ることはできない。AIは常に絶対的な順序・順番に基づいて結論に至るものであろう。精神科医が会話を繰り返し、患者の心の揺れを感じながら診断に至るプロセスはAIには代われないのではないか。AIは我々の予測を超えて進歩するかもしれないが、この溝は埋まらないし、埋めてもならないだろう。そのためには、AIへ全面的に依存するのではなく、また一律に排除するのでもなく、我々の足らざる部分で柔軟に活用するというスタンスが求められる。AIは勝負だけを目的としている。棋士の対局に臨む姿・表情や個性溢れる差し手が勝敗以上の楽しさである。(翔)
高齢者の自立支援に向けた保険者機能の強化推進などを盛り込んだ改正介護保険関連法が5月26日、参議院本会議で成立した。地域包括ケアシステムの推進と介護保険制度の持続可能性の確保の2点が改正のポイントで、▽地方自治体は第7期介護保険事業計画に介護予防・重度化防止などの取り組み内容と目標を記載する▽自立支援・重度化防止に取り組む保険者(市町村)への交付金により、財政的インセンティブを保険者に与え工夫・努力を促す規定を整備する▽「介護医療院」を創設するとともに、現行の介護療養病床は2023年度末まで経過措置を延長する▽医療・介護の連携では、都道府県による市町村への情報提供や支援の規定を整備する。更に、高齢者と障害児者が同一の事業所でサービスを受けやすくするため、新たに「共生型サービス」を位置付ける――こととされた。
介護保険制度の持続可能性の確保としては、2割負担者のうち所得が高い層の負担割合を3割に引き上げる。被用者保険の介護納付金について総報酬割を導入するが、段階的に実施し、全面総報酬割は20年度からとした。そのほか、住所地特例を見直し、適用除外施設入所前の市町村を保険者にするとともに、認知症施策で新オレンジプランの基本的な考え方を制度上、明確化する。更に悪質な有料老人ホームに対する事業停止措置の新設が加えられた。
また、介護予防の総合事業への移行後の状況を検証し、障害者の受給していたサービスの量・質の確保に留意し、具体的水準を検討、決定する。介護職員の処遇改善効果を把握するとともに、雇用管理、勤務環境の改善を強力に進め、人材確保の必要な措置を講ずるとされた。介護職員の不足は深刻であり、早急な対策が必要である。(中)
昨年末、国会でカジノを含む統合型リゾート(IR)の法整備を政府に求める、いわゆる「カジノ解禁法」が成立した。これを受けてIR実施法案が来年年明けの国会に提出される見通しとなっており、今年はカジノ解禁に向けて実質的に動き出した年と言える。
IRはその経済効果、税収の増加が期待されている一方、カジノ解禁によるギャンブル依存症の増加が懸念されている。従来から、パチンコや競馬などの依存症が存在し、国立病院機構・久里浜医療センターが今年9月に発表した推計によると、過去1年以内にギャンブル依存症が疑われた人(20~74歳)は、全国で70万人にのぼると言う。これら既存の依存症対策を強化する議員立法の「基本法案」も検討されている。
大阪府と大阪市は2023年に湾岸部の夢洲でのIR開業を目指していると言う。大阪府立病院機構・大阪精神医療センターは、14年度から本格的にギャンブル依存症治療に取り組んでいる。
カジノ解禁に向けて、俄かに依存症対策が注目されるようになったように思われる。カジノ解禁ありきの対策には釈然としないものを感じるが、これを契機にギャンブル依存症や、最近問題となっているネット依存症など、他の依存症にも目が向けられ、対策が進むことを期待する。
しかし、依存症治療は容易ではない。すべての疾患において、予防がまず大切なのだが。(瞳)
政府は3月28日、働き方改革実現会議において「働き方改革実行計画」を決定した。計画では、同一労働同一賃金等の非正規雇用の処遇改善や、罰則付き時間外労働の上限規制の導入などが盛り込まれた。医師については、時間外労働規制の対象とするが、業務の特殊性を踏まえた対応が必要であるとの考えから、改正法の施行期日の5年後を目途に規制を適用することとし、2年後を目途に規制の具体的な在り方、労働時間の短縮策等について検討し、結論を得ることとなった。
医師の長時間労働、時間外労働、有給休暇などは、少なくとも昭和の時代に医師になった者にとっては無縁であり、有給休暇制度そのものも正しく理解せず、時間外手当がついた記憶もないのではないだろうか? 労働衛生から見ると劣悪だったかもしれないが、医師の仕事はそんなものと、多くの医師は疑わなかった。
その後、時代は平成に変わり、新医師臨床研修制度がスタートし、ようやく医師の過重労働についての議論が始まった。様々な取り組みが行われているが、まだまだ勤務医の労働環境が十分に改善されたとは言えない。
医師の時間外労働の主な理由は、「緊急対応」「手術や外来対応等の延長」「記録・報告書作成や書類の整理」「会議・勉強会・研究会への参加」などである。医師の働き方改革は、業務内容の精緻な分析が必要であるが、国民の理解と病院における人件費増への手当がなければ進まないと考える。(榮)
大和川と淀川は、大阪平野を成した2大河川である。遠く5世紀には現在の住吉大社付近から上町台地がせり出し、後に大阪平野になる淡水の河内湖と瀬戸内海を隔てていた。水の都大阪と言われる所以はここにあり、河内湖を取り囲む平野は肥沃な大湿地地帯になっていた。運河・難波堀江が上町大地を東西に開通後は安全な航行が保証され、難波は世界に通じる港街として発展した。
昭和62年から4年をかけ発掘された結果、5世紀後半には難波に16棟もの大倉庫群があったという。倭王国が直接建設した施設であった。当時の難波には現在と同様、東アジアから来る外国人が街に溢れていた。多くの文化が大阪を経由して日本に拡散していったのである。この後難波宮と大阪城を例外として、大阪はそのほとんどの歴史を都としてではなく、交易を中心とした商業都市として発展していったわけである。
この経済の発展と豪族の古墳群は無関係ではない。最近、仁徳天皇陵と長く親しまれてきた世界最大の古墳の名前が、大仙古墳という名称でも呼ばれるようになった。議論はあるが仁徳天皇が埋葬されたかどうか断定できないそうである。いや、むしろその方が良いかもしれない。百舌鳥・古市古墳群を上空から撮影した写真を見ていただきたい。何の歴史的裏付けもないが、全く雑然とした思いつきで建設したような墓の配置は、現代の大阪そのもののような気がする。
群雄割拠、中央の政権に支配されない商業都市の端に位置する古墳群は、爆発する大阪のパワーであり、15世紀間全く変わらない大阪人気質の象徴として、ぜひとも世界文化遺産になってほしい。(晴)
日本の物づくりは戦前戦後を通して高い技術力を背景に世界的評価を得てきた。私達はそれを当然のものとして「モノづくりニッポン」を誇りに思ってきた。敗戦のダメージを乗り越え、日本人の特長を活かし成し遂げた復興と発展は世界中に認められ、日本製品の信頼度は他の追随を許さないと自負するに至った。かく言う小筆もその流れの中で成長してきた一人である。
ところが近年、我が国を代表する物づくり企業のタガが緩んだのか数々の不祥事が露見している。基幹である自動車産業の排ガス規制や完成検査の不正、電機メーカーの粉飾でたらめ?経営、建築物の設計施工に関する不正、素材メーカーの品質データ改ざん等々、書ききれないほどだ。で、お決まりの謝罪会見。「私は知らなかった」「把握していたが暴露されたから公表した」って? それが会社のすべてを把握しているはずの大企業のトップの言葉か、と呆れて言葉もない。JISも取り消され、正直に製品づくりをしてきた社員はやり切れなかろう。
世界的なシェアを得たが故に、信用失墜の代償は計り知れない。「使用に支障はない」とは国内顧客企業の言だが、庇い合いなど通用しない海外企業の対応次第で存亡の危機につながりかねない。「日本ではそんなこと考えられないよね」との誇りはあっけなく崩壊してしまった。
後継者不足に悩みながらも日本のモノづくり精神はまだ息づいている。杜撰な大企業は市井で奮闘しているモノづくり達のプライドをも傷つけた恥を知るべきだ。その罪は重い。(禾)
耳目を集めた国内政治は、東京都知事の希望の党の立ち上げであろう。政権の信を問う解散のあおりで、野党第一党の危機を回避するウルトラCが希望への合流か。泥船から溺れる者がすがった希望の藁が小池人気であった。
現職総理に花道を、と希望するマスメディアが持ち上げた(敵の敵は味方)のか。女史の戦略は世論調査の高賛成案件を公約に組むことであった。改憲・集団安保賛成・原発廃止である。花粉症ゼロはお笑いでも、満員電車ゼロは荒唐無稽ではない、通勤電車を総二階にする(乗降時間の倍増まではアタマにない)のだそうだ。
都知事選の勢いで、争点になりえないような公設市場をテコに都民ファ旋風で都議会を席巻した。しかし希望ばかりの政策や排除なる言質をとられて失速した。基本姿勢が改憲なので、テレビに梯子を外されたのか。
結果はご覧の通り、与党に希望を与えた。あまりにも目まぐるしい政党再編の一方で、操をただした正統の野党勢力に希望の灯が点った。(冬)
史上最年少14歳2か月でプロ棋士となった藤井聡太四段が、公式戦29連勝の新記録を達成した。しかもその快進撃は、1954年に史上初の中学生棋士となり、「神武以来の天才」と呼ばれた加藤一二三九段とのデビュー戦から始まった。将棋界の長い歴史を紡ぐ縁の中で生まれた新たな史実、まさに「将棋界に新星現る」である。
将棋は、時代の変遷とともに進化を続け、独創的な発想と研究から、これまでに多くの優れた戦法が生み出されている。加えて、より深い研究で対抗策が練られ、その技術革新には際限がない。コンピューター時代に入ると、いよいよ将棋の戦法は日進月歩となる。膨大な棋譜データベースを整理し、最新の棋譜情報からいち早く研究することの重要性が増した。
そして、現代将棋は今、人工知能(AI)に敏感に呼応して、大きな変革時代に入っている。既にAIはトッププロ棋士をも凌駕し、むしろAIから戦法を学ぶことも主な研究手法となっている。AIは、全く新しい斬新な戦法を生みだすだけではなく、これまでの定跡に反する戦法や、過去に使えないとされた戦法の新たな可能性を見い出しているという。これまでに蓄積された先人達の叡智の上に、AIから得た技術を成長期の若い優れた頭脳で吸収し、いきなり実績を上げているのが藤井四段なのである。
今年最後に、将棋界にもう一つのビッグニュースが生まれた。羽生善治棋聖が竜王位を奪取し、前人未到の永世七冠を達成したのだ。これは、将来にも破られないかもしれない大偉業である。この羽生永世七冠が、ある企業での対談でAIに関してこう述べている。「AIは確率的に前より良くするものであって、絶対的に正しいものではない。AIが日々の暮らしの中に入ってきた時、私達はAIの出す答えが正しいと勘違いしやすい。そういう錯覚が起こらないように社会に導入することが問題になる。また、これが正しいという画一化が起きるのは悪い道である」
藤井四段の29連勝は、彼の個性の上にAIという新たな技術の利点を活かした、ひとつの象徴的な事象と言える。未来社会にとっても、AIを錯覚することなく、ヒトの個性や多様性の上に適用していくことが重要である。(誠)