
TO DOCTOR
医師・医療関係者のみなさまへ
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時事
府医ニュース
2017年12月20日 第2841号
国民医療費が40兆円を超え、日本医師会の医療政策に触れる機会が多くなった。「国の借金」が千兆円を突破する中、将来にツケを残さないために巨額な医療費を削減する――といった「成長足かせ論」が声高に唱えられている。これに対して日医は、「医療は国民の安心・安全を保障するものであり、投資への環境を作るとともに、現時点でも経済を下支えしており、増額は経済を加速させる引き金となる」と主張している。
医療費は治療への対価であるが、それが支払われた後、半分にも及ぶ人件費、3割程度の医薬品や医療材料費、2割程度の経費や委託費が、果たしてどのように世の中に巡っていくのかはよく分かっていない。ただし、これらが世の中の経済を支援していることは何となく理解できる。一方、平成28年度日医医療政策シンポジウムで、印南一路・慶應義塾大学総合政策部教授は、上記の「成長足かせ論」と「下支え論」には決定的な実証研究がないため、政治で話が解決されてしまう不安を語られた。医療費の経済効果は確かにあるだろうが、有効に活用されているかは不明である。医療関係以外に何を活性化していくのかの実証実験がなく、広く国民の応援を取り付けられない。
ある商品を買うことにより、その背後に控える膨大な経済を活性化する――という肯定的論理を「金は天下の回りもの」で検索したところ、面白い記事に出合った。
日本では、「お金は常に流動し、金持ちも貧乏になり、貧乏も金持ちになる」が一般的な意味合いである。「持たざる人」の方が多い世の中を励ます言葉と捉えるのが普通であり、お金を「流動的で曖昧な実体」と把握している。しかし、華僑の世界では少し異なり、「お金は自分達で回す」との意味だそうである(キャリアサプリ〈2015・5・11〉)。頭脳を使い閉鎖的に資金を展開していくことで、自分達の経済を活性化させていくと言い換えることができる。
アフリカにおける中国の進出はめざましく、また、インフラ整備は中国系の企業で独占されている。中国本国で、国家的に鉄道や電気自動車、スーパーコンピューター開発に巨額の資金が投じられることも、これに通じるのかもしれない。
資本主義は、自由経済の中で自由競争を主体に発展してきた。技術で遅れをとった社会主義国が、資本主義経済で発展した技術力を導入・発展させる上で、国家的な集中投資ができる社会主義は、現時点では好都合であったと中国が証明した――ということである。今後、資本主義の自由競争から生まれ出た発想の展開を、社会主義が凌駕するのかは歴史が証明するであろうが、米国に代表される資本主義と中国の社会主義は相補的に支援している現実がある。資本主義で開発された確かなものを、国家の力で強力に推進している。
ゴルバチョフ氏が日本を「成功した社会主義国」と揶揄したように、同様の現象は日本でも認められる。医療費は国家統制され、予算額も大きく変動することはない。診療報酬も決まった計画経済であるが、予算配分までのことであり、相当の額が貯蓄に回っていると思われる。40兆円の資金の投資先まで国家統制はできない。収入を得たものの意志で、発展性のある多くの技術を発掘し、小さな芽を育てるよう方向付けることは、医療体制を外圧から守り、産業基盤を充実させる意味がある。
国民医療費の経済派生効果を実証するには、安心・安全の場を提供する医療関係者が確信をもって地元産業に投資をするのが、最も説得力のある実証法であり、それが大きな木に育てば日本を牽引する可能性がある。(晴)