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時事

核の脅威

府医ニュース

2017年9月20日 第2832号

現状を知り今後に備える

 唯一の被爆国である我が国は核廃絶を訴えてきた。核戦争防止・核廃絶運動を推進する医師の組織としては昭和57年、核戦争防止国際医師会議(IPPNW)日本支部が広島県医師会内に設立された。大阪でも翌58年に「核戦争防止大阪医師の会」が発足、以降、平成元年の規約改正等を経て現在のIPPNW大阪府支部の活動に至っている。
 しかし、情勢は非常に緊迫している。9月3日に強行された核実験について、防衛省は6日、マグニチュード6.1の地震波から約160キロトン規模と推測されるとした。「水爆実験」の可能性も否定できない。マグニチュードが1増加するごとにエネルギー量は31.6倍になるが、前回の核実験でのマグニチュードは5.3であった。水爆は原爆を起爆剤として核融合を起こし、条件次第で数十から数百キロトンまで調整でき、高高度での電磁パルス攻撃も可能と主張している。数百キロトンの場合、その規模は広島型原爆(15キロトン)の数十倍である。核出力は3次元で立方根になり、直線距離にして約4倍の差になるが、被害は面でくるため約16倍になる。
 広島市ホームページにある原爆データを紹介する。原子爆弾は地上約600mで炸裂し、最大直径280mの火球を形成、中心温度は摂氏100万度、地表面温度は数千度となった。爆発の瞬間、爆発点は数十万気圧になり爆風が拡散した。約10秒後には約3.7kmにまで達し、半径2km以内では木造家屋のほとんどが倒壊、鉄筋コンクリートの建物も窓は吹き飛ばされ、内部はことごとく焼失した。熱線で多数が死亡し、爆心地から3.5km離れた人々も素肌の部分は火傷になった。爆発後1分以内に放射された初期放射線の影響で、爆心地から約1km以内にいた人は数日以内に死亡した。残留放射線による犠牲者も多くみられ、当時広島市にいた約35万人のうち、死者は推計で約14万人に及んだ。
 現代の核兵器は威力が大きくなったが、爆風や熱線が届く距離が伸び、猛烈な量のガンマ線と中性子からなる初期被爆のみでの死亡は少ない。地下やコンクリート造の施設が必要であるが、爆発後1分以降に発生する残留放射能がある。米軍サバイバル全書によれば、残留放射能は火球直下の高度放射能残留地域と、火球が地面に接する時に兵器の破片や土と水が蒸発気化して上昇気流を発生し、高層で冷却され放射能生成物を形成する2種類がある。気化した爆弾の内容物は微小な放射性粒子となり、「死の雨」や粉塵として降下し、α線、β線、γ線を放射する。高い貫通力があるγ線、火傷を引き起こすβ線、更にα線とβ線は飲食や創傷から体内に取り込まれると体内被爆を起こす。被爆時間を少なくする「時間」、線源からできるだけ離れる「距離」、貫通力を持つ放射線から遮蔽する「シールド」が重要である。シールドは特にγ線を対象とし、トンネル、地下室等が望ましい。シールド効果は期待できないが、ビニールシートで降下物から距離を置くことができる。β線対策では身体の全部位を覆う衣服、マスク、ゴーグル等で皮膚への付着を防ぐ。汚染水を使っても身体の洗浄が望ましい。放射性降下物が濾過されている水源がよく、地下水源は比較的安全である。河川であれば数日経過していれば希釈され何とか使用でき、水源のそばに穴を掘り河川自体の土で濾過する方法などがある。ペットボトル等の閉鎖系の貯蔵水は安全であり、飛沫感染の標準予防策が参考になる。シェルターに待機して助けを待ち、汚染地区を無防備な状態で移動しない。残留放射能は7倍時ごとに10分の1ずつ減衰する。核爆発は甚大な被害を及ぼすが、その範囲は限定的である。核シェルターで初期の爆風と熱線、放射線に耐えれば生存の可能性があり、国や行政も検討すべきである。
 被爆体験のない我々が核兵器の脅威を認識したら、次に成すべきことは核廃絶に向けて活動を強化することである。5年前に広島で開催されたIPPNW世界大会での「ヒロシマ平和アピール」には、世界気候の変動など農作物の壊滅的被害による「核の飢餓」で、10億もの死者が発生する可能性が公表された。今年イギリスで行われた世界大会には、日本支部代表支部長として横倉義武・日本医師会長も出席した。医師から見た核の脅威について、IPPNWを通じて団結し、啓発していくことが大切である。(晴)