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蚊帳

府医ニュース

2017年8月2日 第2828号

 枕草子25段『にくきもの』に、「ねぶたしと思ひて臥したるに、蚊の細声にわびしげに名乗りて、顔のほどに飛びありく」とあります。
 眠りかけた時に顔の近くで「プーン」と蚊の羽音が聞こえてくるのは、まったく「にくきもの」です。しかし、最近では、屋内で蚊に悩まされることは少なくなりました。
 私が子どもの頃、田舎の祖母の家では、寝るときに緑色の麻の蚊帳を吊っていました。蚊帳の中では祖母や伯母が昔話を聞かせてくれました。
 自分と一緒に蚊を入れてしまわないように、蚊帳に入る時にはコツがありました。入ろうとするあたりの蚊帳を振るって付近の蚊を追い払ってから、体を低くして素早く入るように教えられました。決して立ったままめくって入ってはいけません。うっかり蚊を入れてしまうと「にくきもの」の状況になりました。
 大阪の私の家でも、確か中学生の頃まで蚊帳を吊っていました。中学生の頃は、蚊帳を吊ったり、朝になって畳んだりするのは私の仕事でした。八畳用の化繊の蚊帳は結構重たくて扱いにくかった記憶があります。
 現在、日本では日常生活で蚊帳を使用することはほぼなくなりました。しかし、マラリアなどの蚊によって媒介される伝染病の安価で効果的な防護策としてWHOが推奨しており、東南アジアやアフリカで日本製の蚊帳が活躍しているそうです。(瞳)