TO DOCTOR
医師・医療関係者のみなさまへ

ミミズクの小窓

好中球数というリスク

府医ニュース

2017年7月26日 第2827号

 今回は好中球についてである。不肖ミミズクと好中球の付き合いは長く、もうかれこれ40年以上になる。この間、山あり、谷あり、富めるときも(なかったが)、貧しき時も……。なんて関係ではもちろんないが、好中球数でよく一喜一憂したものだ。
 好中球をはじめ、5種類の白血球にはそれぞれ表情がある。細菌貪食・処理を行う好中球は"武闘派"のイメージがあるが、好酸球・好塩基球も活躍する場面は異なっても基本は"武闘派"であろう。一方リンパ球は顕微鏡下では無表情で"インテリ策謀家"という風情であり、単球は単なる貪食細胞に見えて、実はリンパ球に抗原提示などを行うので "フィクサー"の雰囲気が漂う。「その性格付けはなんだ!」というご批判は甘んじて受けたい。
 さて、好中球の感染・炎症における役割は周知の事実であるが、アドレナリン分泌時、運動、副腎ステロイドなどによっても好中球は増加する。では平常時はどれくらいかといえば、おおむね2千~7千/マイクロl(リットル)といったところだろう。近年、心血管病の原因として慢性炎症が注目されている。慢性炎症に好中球が関与しているのは確実なので、好中球数が心血管病のリスクとなり得るという仮説が成り立つ。
 そこで英国のグループによる最近の研究(JACC 69:1106,2017)である。対象は心血管病の病歴がない30歳以上の住民77万5231人で、何らかの急性病態時の検血データ15万4179例、平常時の検血データ62万1052例を元にして平均3.8年フォローしたところ、12種類の心血管病5万5004例の発症が見られた。結果に影響を与える可能性がある様々な交絡因子を調整して好中球6千~7千の人と2千~3千の人を比較したところ、高好中球群のリスクは低好中球群に比べて心不全が2.04倍、末梢動脈疾患1.95倍、予期しない冠動脈疾患による死亡1.78倍、腹部大動脈瘤1.72倍、非致死性心筋梗塞1.58倍に増加していた。またこのリスク増加は"直線的"であり、わずかな好中球増加もリスク増加につながるという。一方、虚血性脳卒中では軽度のリスク増加(1.36倍)が見られたが、安定狭心症や脳出血のリスク増加は認められなかった。
 要するに好中球数も高血圧、糖尿病、喫煙などと並ぶリスクファクターの仲間入りをしたのだ。ここだけの話だが、この機会に乗じてミミズクは"metabolic hematology"なる分野を立ち上げようと企んでいるが、いつものように"ぽしゃる"だろうな……。