
TO DOCTOR
医師・医療関係者のみなさまへ
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府医ニュース
2017年7月5日 第2825号
大阪府医師会は6月17日夕刻、大阪市内で医療問題研究委員会特別講演会を開催した。日本福祉大学相談役・大学院特別任用教授(同大学前学長)の二木立氏が「地域包括ケアと地域医療構想――新著『地域包括ケアと福祉改革』をベースにして」と題して講演。座長は茂松茂人会長が務め、府医役員や同委員会委員ら約60人が聴講した。
冒頭、二木氏は地域医療計画推進委員会など、政策関係の府医委員会の答申書に言及。地域の医療特性を踏まえ独自の見解を示しているとして、その内容を評価した。続いて、医療・社会保障改革を冷静に見通すべく、超高齢・少子社会について複眼的に考察した。
まず、現役世代の扶養負担は「高齢者だけでなく未成年者も含まれ、今後の少子高齢化を考えると将来も変わらない」と指摘。今後、生産年齢人口が減少しても、女性・高齢者の就業率の上昇、ICTの活用等により労働生産性が向上すれば、1人当たりGDPも着実に増加すると予測した。一方で、人口減少によりGDP総額の大幅な伸びは期待できず、加えて、女性・高齢者の就業率の向上は、地域での互助力の低下につながると述べた。あわせて、アメリカやユーロ圏と比較し、日本では労働生産性の上昇に実質賃金が比例していない現状にも触れた。
また、日本の医療費水準(対GDP比)はOECD加盟国で3位であるが、「高医療費国」であることを示唆するものではないと言及。高齢化の影響を補正した場合、日本の実質医療費は低水準であり、OECDが医療費の範囲を長期ケアまで含むようになったことに起因していると指摘した。二木氏はこれまでの歴史を踏まえた上で、医療・社会保障費の構成については保険料を主な財源とし、消費税を含む租税を補助的な位置付けとする自身の見解を述べた。増税に対する国民の抵抗もあり、財源を消費税に頼るのではなく、企業の過度の内部留保に対する課税なども含めた「租税財源の多様化」が必要であるとした。更に、応能負担の強化には賛意を示したが、税負担や社会保険料に適用されるべきと強調。患者負担は無料または低額の定額、低率の定率額が望ましいとした。
地域医療構想・地域包括ケアシステムでは以下を列挙。1.両者は法・行政的にも同格・一体である、2.地域医療構想における必要病床数の推計は、地域包括ケアシステムの構築が前提となる、3.地域ニーズへの対応や経営上の観点から、多くの病院が地域医療構想・地域包括ケアに積極的に関与する必要性――を述べ、一体的に検討することが求められるとした。2.に関連し、病床削減の相当部分は公立病院等の「休眠病床」の返上で可能であり、介護療養病床の廃止により医療法上の病床数は削減されるが、機能的には存続すると指摘。「介護難民」はほとんど生じないと私見を示した。また、日本は民間病院が多く、政府の権限で病床を大幅に削減することは不可能と言及。地域医療構想を推進しても、必要病床数の大幅削減は困難と見通した。
そのほか、地域包括ケアシステムの実態について、全国一律の「システム」でなく「ネットワーク」であると語り、具体的な在り方は地域により異なるとした。更に、多くの高齢者に急性期医療のニーズがあること、地域包括ケアシステム構築が医療・介護費の削減にはつながらないことなどを解説した。
講演の終了後には活発な質疑応答が展開された。最後に茂松会長は、国民のため、今後も地域の医療・介護に医師が積極的に関与してほしいとまとめた。