TO DOCTOR
医師・医療関係者のみなさまへ

ミミズクの小窓

心を痛めるとがんリスクが高まる 

府医ニュース

2017年6月28日 第2824号

 現代社会では、誰もがうつや不安などの心痛、"psychological distress"と無縁ではない。そして心痛が心血管病のリスクを高めることは周知の事実である。しかし、心痛とがんとの関連についてはいまだ明らかではない。そこで今回、英国のユニバーシティ・カレッジ・ロンドン(ロンドン大学)のグループが16の前方視的コホートからunpublished dataを集めてこの問題を検討した(BMJ 356:j108,2017)。さしずめ"蔵出しスペシャル型研究"と言えるだろう。
 この研究の対象は16歳以上の男女合計16万3,363名で、登録時にはがんに罹患しておらず、GHQ-12によるpsychological distressのスコア計測に同意した人達である。GHQ-12は1972年にマンチェスター大学のGoldberg博士によって開発された"非精神病性の心痛"をスクリーニングするための質問票で、正式名は"General Health Questionnaire-12"という。なお念のために付言するがGHQと言ってもGeneral MacArthurとは何の関係もない。
 さて結果はと言えば、予想通りと言うか、論文を読まなくても想像がつくというか、psychological distressが多いとがん死亡は高まった。さすがにこれだけでは、いくら何でも大雑把過ぎるのでやや詳述すると、平均9.5年の観察期間で合計1万6,267人が死亡し、うち 4,353人ががん死亡であった。またデータを年齢、性、教育、社会経済的状況、BMI、喫煙、アルコール摂取などで補正した後検討したところ、GHQ-12スコアが高い(7~12=distressが多い)グループはスコアが低いグループ(0~6)に比べて、全がん、喫煙に関係しないがん、大腸直腸がん、前立腺がん、膵がん、食道がんと白血病で死亡リスクが有意に上昇していた。
 問題はなぜそうなるかであるが、著者らは生物学的機序としては、"精神免疫相関"の可能性を挙げているが、ちょっと聞き飽きた感がないではない。またpsychological distressがあればライフスタイルも乱れやすく、予防や診断後の治療にも熱心でない可能性にも言及している。これもまたむべなるかな、であるが、まだ事の本質には届いていないように思う。
 そこで提案だが "がんへの恐れがpsychological distressの原因になっている人のがんリスクの検討"はいかがだろうか。「ミミズク、性格がねじれてきていないか?」というご意見はいくらか当たっている。最近は「真理を透徹する」ことと「物事を斜めに見る」こととの区別がつかなくなっているのだ。これが老化なのか、実は加齢をものともしないたゆまぬ成長の証なのかは後世の評価に委ねたい。