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医師・医療関係者のみなさまへ

医問研で加納副会長が講演

府医ニュース

2017年5月17日 第2820号

患者の回復もたらす「医の倫理」

 大阪府医師会は4月12日午後、平成29年度第1回医療問題研究委員会を開催。加納康至副会長が「医の倫理を考える」と題して講演を行い、日本医師会が昨年改訂した「医師の職業倫理指針」の内容から、応召義務やカルテ開示など医師が日常的に遭遇する課題を取り上げた。
 加納副会長は冒頭、「医の倫理とは、医師が行う医療の意図が患者の望む回復をもたらすための医師の心がけ」との日医の考えを紹介。その上で、法と倫理の関係では、「最低限度の規範だけが法として定められている」として、医師法と医療法を概説した。医師法で定められる「医師の欠格事由」については、「医師に求められる倫理に反する行為と判断される場合は、これを考慮して厳しく判断することとする」と医道審議会医道分科会が厳格に示していると指摘。医事関連法に限らず、交通法規をはじめとする法令遵守を徹底するよう促した。
 続いて、日医「医師の職業倫理指針」の作成経緯を説明。医の倫理綱領の理念を基に、医師が臨床現場で遭遇する具体的事例を検討し、16年に策定されたと述べた。更に、医学・医療の進展を踏まえて改訂され、28年には3訂版が発行されたと報告。「医師と患者の関係」といった基本的なものから、終末期医療、遺伝子医療、医療事故など内容は多岐にわたるとして、その中から数項目を取り上げて説明した。
 「患者の同意」では、判断能力に問題のある患者の容態が急変した際の対応を委員に問いかけた。身寄りのない高齢者の増加が予想される中、対応に正解はないと指摘。患者本人の意思表示の確認や、家族を交えた話し合い、病院内での協議などを通じ、最もふさわしい治療法を考えて実行することが求められるとした。特に、同意のない医療行為に注意を促し、「トラブル発生時に医療の善意は通用しない」として、慎重な対応や経過の記録などの必要性を強調した。
 「診療記録の記載と保存」では、廃院時の診療記録の取り扱いを例に挙げて解説。診療録(カルテ)は医師法、その他の記録は医療法で保存期間が規定され、診療録の保存義務は、「転院、中止、死亡など診療が完結した時点から起算する」と解釈されていると説明した。現在は電子カルテが普及し、11年の厚生労働省通知により診療記録の電子保存、外部保存も許容されるようになったと加えた。
 「守秘義務」に関しては、警察からの照会や、覚せい剤中毒の疑いが濃厚な患者への対応、未成年患者の家族から病状を聞かれた際の問題点を示した。守秘義務が医師に課される理由として、手塚一男氏(日医参与/弁護士)の言葉を紹介。「よき医療を施すためには患者からの率直な事実の開示が不可欠であり、そのためには開示した事実が他に漏洩されることがないという医師に対する信頼がなくてはならない」として、警察から照会があった場合でも、その人物が警察であることを改めて確かめた上で、可能な限り調査目的を確認すること、患者の同意を得ることが最も望ましいとした。
 そのほか、カルテ開示や応召義務などについて説明した後、「終末期患者における延命治療の差し控えと中止」に言及。人生の最終段階にある患者も、その意思に沿った適切な医療措置を受け、人としての尊厳を保持する権利があるとした。その上で、延命治療の差し控えや中止は刑事責任を問われる恐れもあり、法律上の対応を熟知しておく必要があると強調した。看取りに関しては、在宅医療が推進されるに伴い、ますます重要な課題になっているが、議論がなかなか深まらず、また、個々人の死生観が大きく影響すると述べ、国民のコンセンサスを得ることが重要とまとめた。

人生の最終段階
茂松会長が見解

 最後に茂松茂人会長が発言した。医師には、法律で多くの義務が課せられている一方で、財源不足を理由に医療費が抑制される現状を問題視。国民に必要な医療が適切に提供できるよう、我々は声を上げていかなければならないと理解を求めた。更に、終末期医療に関しては、日本には多くの宗教が混在するため、看取りに対する捉え方も様々であり、「死」についてどう考えていくかが大きく注目されているとの見解を示した。今後、一層の議論を深め、国民とともに検討していかなければならないと締めくくった。