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時事
府医ニュース
2017年5月3日 第2819号
今年1月、勤務先の病院でも新しい電子カルテが導入された。システムには、電子カルテからダウンロードしたExcelデータを加工して診療支援ツールを作成できる機能が付加された。おかげで糖尿病連携手帳(以下、糖手帳)のシステムが奇しくも生き残った。
一方、日医標準レセプトソフト(ORCA)は、ハードを購入すればソフトは無料でバージョンアップできることも功を奏し、現在、導入施設数は1万6千を超える。ハードの入れ替え費用は必要なものの、ソフトウェア購入時の費用が比較的廉価なのも魅力のひとつである。更に、大病院などの「重厚長大なオールインワン電子カルテ」とは異なり、「電子カルテとの連携機能」「レセプト計算に強い」との特長を持ち、病院にも導入されてきている。機能を最初から特化したORCAは、新しい機能を合体強化することにより、その機動性を更に強力にする展開に入った。ORCAはレセプトソフトをテコに、30種を超える電子カルテとの接続連携を目指すとのことである。訪問看護専用請求支援ソフト『訪看鳥』、主治医意見書・訪問看護指示書・医師意見書作成ソフト『医見書』、紹介状作成プログラム『MI_CAN』、介護報酬請求支援ソフト『給管鳥』など、次々と生み出されている。また、4月からは文書交換サービス『MEDPost』の提供が始まった。ORCAの可能性に期待したい。
ところで、Excelデータから加工した診療支援ツールソフトなどを、すべてのコンピューターで共用できないだろうか。電子カルテからダウンロードしたExcelデータを、「患者向け」「医師向け」「看護師向け」など、それぞれの診療支援ツールに変換できるソフトがあれば、多職種連携促進も含め、利便性は広がる。このような視点も併存させて、電子カルテ会社には取り組んでいただきたい。一方、こうした汎用ソフトが乏しい事実を勘案すると、糖手帳を含む診療支援ツールにニーズがないとの結論になる。
私はここに単純な経済論理である需要と供給の関係が成立すると考える。「重厚長大な電子カルテ」への追加プログラムには、膨大な追加料金が発生する。診療支援ツールのひとつである糖手帳でも、新たな電子カルテに移行する際の見積額は莫大であった。しかし、ニーズが発生すれば、需要と供給の関係で価格が下降することは経済理論である。診療支援ツールの価格低下を阻むのは、実はニーズを発生させないようにしている社会的ジレンマではないかと思うようになってきた。診療支援ツールは儲からない。儲からなければ価格が高くなる。ニーズがあっても価格が高くなれば誰もその方法論に手を出さない――この状態を解決するには、追加プログラムで対応するよりも、安くソフトを後付けできるシステムしかないのではないか。電子カルテのハードを作成した段階では予想もしなかったニーズに、納入後に安価で応えることが可能な電子カルテは、次世代を席巻すると思う。産業界においてはハードの充実が優先されるが、医療界におけるICT化は単純にハードを結び付けるだけではない。その先にある「コミュニケーションツール」として機能することが重要なのである。(晴)