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府医ニュース

2017年5月3日 第2819号

◆「女は黙って頷いて肌を脱いだ。折から朝日が刺青の面にさして、女の背は燦爛とした」。谷崎潤一郎の小説『刺青』の最後の一文、女郎蜘蛛の刺青を彫られた娘が、魔性の女に変貌した情景である。
◆刺青は江戸時代、鳶や飛脚、駕籠舁きの間で流行し、勇敢さと華やかさを誇示していた。侠客や遊女などにもまた広まっていた。しかし、明治政府となり、近代化を目指す中、刺青は反社会的なものとして禁止令が出された。その後、刺青は恐怖心を与えたり、恥ずべきものという風潮になり、現代社会には馴染まないものとなった。
◆今、刺青はファッションとして改めて若者を中心に受け入れられている。その折に、看護専門学校生が背中などに刺青があることで休学となり、東京地裁に提訴するという事案がおこった。
◆刺青のファッション性や法としての判断はそれぞれに成り立つ。ただ、刺青が果たして医療現場に適合するのかを考えておく必要があるだろう。個人の人間性の安全よりも、職場や患者にとっての安心が求められる。(誠)