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医師・医療関係者のみなさまへ
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府医ニュース
2017年4月5日 第2816号
グローバリゼーションの一面としての経済競争は、イギリスのEU離脱や米国第一主義を掲げるトランプ米国大統領の就任など、各国が国益を最優先する潮流の中、先行き不透明な状況になりつつある。国内では、アベノミクスの金融緩和政策による年間2%の成長戦略が達成できないまま分岐点を迎えようとしている。経済再生による財源を得て政策の実現・安定化を企図したが、社会保障に関しては十分な果実を享受したとは言い難い。社会保障と税の一体改革において公平・公正な社会の実現のためのマイナンバー制度が導入されたが、カード取得率は8.2%と低迷し、期待された運用が不透明になりつつある。消費税増税が先送りされて財源が十分に確保できないまま、社会保障費の自然増を年5千億円に上限設定し、平成29年度予算では1400億円もの圧縮が閣議決定された。小泉内閣当時の年間2200億円の医療費抑制政策より緩やかとはいえ、社会保障にとって一層厳しい状況になることは否めない。
我が国は、世界に類を見ない超高齢社会を迎える。社会保障の充実は、社会の安定化に必要不可欠と考えられる中、財政支援以外の社会保障の効率化で対処しようとしている。即ち、地域医療構想や地域包括ケアシステムの構築、地域医療連携推進法人の設立などである。高齢者にとって必要な医療を階層化する一方、地域医療の確保に貢献してきた病院において、高度急性期・急性期から回復期・慢性期への病床転換を促し、病院での長期療養の代わりに尊厳を守りながら住み慣れた地域・自宅で高齢者のケアを行うことが主旨であるが、こうした政策には財源的裏付けがなく、加えて診療報酬面での締め付けなど、実施者に負担を強いるばかりであって、その実現に多くの疑問が投げかけられている。こうした財源不足を補うため地域医療連携推進法人を構築し、相互に資金不足を補う体制にしようとしているが、運用次第では医療界に大きな再編を呼び起こすことにもなりかねず、取り返しのつかない事態に至ることが想定される。
政府の政策を受け、都道府県で地域医療構想を踏まえた第7次保健医療計画や医療費適正化計画の策定が始まろうとしている。高齢者は地域の中で、健康寿命を延ばして高齢者の尊厳を維持し、地域に貢献することを望んでいる。しかし、有病率が上昇する高齢者にとって適切な医療は不可欠である。高齢者のアンケート調査でも適切な医療を受けられる所に住みたいとの意見が上位になることから、高齢者の高額療養費700億円の縮小等が受診抑制につながらないよう願う。維持・低成長時代の社会にあって1億総活躍社会の実現と地域社会の崩壊阻止には、医療環境を含めた社会保障は必要不可欠であり、悪影響があれば早期の見直しを求める。また、一部の特区で混合介護が開始されたことで、公的補助の縮小に大きな危惧を覚えており、トランプ米国大統領の所謂オバマケアの廃止宣言にみられるような、社会保障が自己責任とされ軽視されることは決して容認できない。
すべての国民が、安心して安全な医療を平等に受けるためには、医療機関の充実が不可欠であり、こうした社会の実現は医師会の社会的使命でもある。かつての資本主義とは異なる維持・低成長時代においては、共生経済が社会を支える資質であると考えられている。国の動向を注視し日本医師会と連携しながら、我が国の優れた国民皆保険制度の堅持に向けて果敢に邁進する。
大阪府が平成25年に策定した保健医療計画では、平成20年に策定された保健医療計画の良質かつ適切な医療を効率的に提供する体制を確保するため地域完結型医療の実現、患者の状態に応じた医療提供と急性期病院の入院期間の短縮に加え、5疾病として精神疾患(認知症を含む)が加えられ、精神科専門医とかかりつけ医とが役割分担と更なる連携の強化を通じて、早期発見・早期治療のための相談体制充実と地域連携推進、住み慣れた地域において支援やサービスが受けられる体制の構築等の課題解決に向けて支援することとなっている。
在宅医療推進の観点から、本会では、平成24・25年度において在宅医療円滑化推進モデル事業に着手、平成26年度から平成27年度にかけて在宅医療連携拠点支援事業を実施してきた。現在、地域医療介護総合確保基金による在宅医療推進事業を行っており、この間の成果と課題を踏まえて、今後も一層の在宅医療の推進に注力する。
介護保険法の中で制度化された在宅医療介護連携推進事業においては、郡市区医師会が必要に応じて市町村と連携できるよう行政に働きかけるとともに、関係機関と協調して、円滑な事業実施に努める。
認知症の人の意思が尊重され、住み慣れた地域の良い環境で自分らしく暮らし続けることができる社会の実現のために、認知症施策推進総合戦略(新オレンジプラン)に基づいて具体的な施策が進められるが、行政をはじめ関係団体と協議しながら充実した事業展開を図る。
平成28年4月に「障害者差別解消法」が施行されたが、その制度趣旨を尊重し、障がいの有無によって分け隔てられることなく、相互に人格と個性を尊重し合いながら身近な場所において日常生活又は社会生活を実現できるように、障がい者の差別解消に努める。また、差別的取扱いの禁止とともに、合理的配慮の不提供の禁止が努力義務とされており、今後も制度理解の推進を図っていきたい。
大阪府における自殺対策では、自殺者が減少するなど成果が出ているが、若年者、妊産婦、自殺未遂者への対応に道半ばである。今後とも積極的な施策が展開されるよう関係機関との協力を推進する。都道府県と市町村に自殺対策計画の策定が義務付けられることになったが、医療の観点から自殺の防止や未遂者への支援に向け、より良い計画が作成されるよう関係機関に働きかけたい。
平成29年度には、平成30年4月から始まる介護保険事業(支援)計画や障がい者支援計画・障がい福祉計画等の同時策定の作業が進められるが、医療の視点から必要な提言を行う。
大阪府の救急医療体制、特に地域の二次体制が診療科目を問わず脆弱なものとなっている。その主な原因は、医療費抑制策や医師不足などが原因と思われる。
二次救急医療体制の脆弱化の皺寄せが、「最後の砦」と言われる救命救急センターの三次救急としての機能に支障を来たしている。一方では、病院前救護体制における医療の質を担保する観点から、メディカルコントロール体制の充実が極めて重要であり、救急救命士の業務範囲拡大に伴う府内各地域におけるメディカルコントロール体制強化に向け積極的に関与していく。さらに、救急医療システムの再構築を図るべく、特に小児科、精神科、眼科、耳鼻咽喉科などの特定科目における体制整備の充実、強化を図っていかなければならない。そのためには、「大阪府傷病者の搬送及び受入れの実施基準」等の精査を行いつつ、受入れ医療機関の確保のため、医療機関等の相互連携と情報共有化が重要と考える。加えて、今後の南海トラフ巨大地震、直下型地震、風水害やテロなど災害時に備えて、コーディネート機能を含むJMATの充実を図る。
また、DMATをはじめ関係各機関とも緊密な連携を進め、災害時における薬剤の備蓄、流通および医療施設や救護所における適正な薬剤管理に向け、薬剤師会との災害時協定の締結を目指す。
少産、少子の傾向が一段と進んでいる一方、思いがけない妊娠、望まない妊娠、出産は虐待につながりやすい。大阪府が行う「にんしんSOS」など妊娠に悩む方のサポート体制の拡充を求めるとともに、健康でたくましく生き抜く子ども達を育て、女性が安心して妊娠、出産、育児ができるよう、母子保健体制充実のために一層努力する。また二次、三次周産期医療の現場は、医師不足、過重労働等々により疲弊、混乱を来たしている。未受診妊婦を出さないための妊婦健診の拡充をはじめ、すべての妊婦・新生児が安心・安全な医療を受けられる体制整備を図るため、産婦人科救急搬送体制確保事業を展開しており、更なる体制の整備が求められる。また、脳卒中など重篤な妊娠合併症にも対応するためには、一般救急との連携は不可欠である。そのためには、医師確保が困難な地域の医療提供体制の整備について分析を行い、集約化・重点化も含めた医療機関の機能分担やセミオープンシステムを柱とした連携の推進、医師の確保や医師の教育研究体制の整備など周産期医療システムの再構築を図っていかなければならない。
医師の不足と偏在による地域医療の衰弱が懸念される状況にあって、増加する女性医師の就業環境の整備、改善に対する取り組みが不可避の事態となっている。本会では、平成22年度から「大阪府医師会女性医師支援プロジェクト(Gender Equality)」に基づき、育児支援体制の整備、充実を図っている。さらに、平成28年度に「大阪府医師会ブロック女性医師支援ワーキンググループ」の活動を強化するため、府内二次医療圏の11ブロックを4地域に再編成し、今後、男女共同参画検討委員会委員とともに女性医師支援活動を推進していく。各地域での活動の自主性と活性化を図りつつ施策の展開に努める。育児のみならず介護の問題など、男女を問わず多様な働き方の容認と環境整備が今後の取組むべき課題であることから更なるワークライフバランスを確立するとともに、新専門医制度に対応したキャリアアップの支援を推進していく。また、平成26年度より協議を重ねてきた診療科の実情に応じた産休・育休中の代替医師を確保するための運用システムの構築に努める。
平成27年10月1日に施行された「医療事故調査制度」において、医療事故調査・支援センターに報告すべき医療事故が発生した場合に、医療機関の管理者は、施設の規模にかかわらず、速やかにその原因を明らかにするための院内調査を行わなければならず、事故調査が中立性、透明性及び公平性を確保し、迅速かつ適正に行えるよう支援するために本会は、「医療事故調査等支援団体」(以下、支援団体とする。)となり、大阪府内の支援団体の連携・調整を図ることを目的に「大阪府医療事故調査等支援団体連絡協議会」を設立した。
この制度を踏まえて会員自らが「医師の職業倫理指針」に則って医療事故防止に万全を期す必要がある。本会では医療の安全性確保のため、医療機関における安全対策の推進役となる指導者育成のための研修会や郡市区等医師会と協同して医療安全に関する取り組みの強化、さらには、住民への啓発事業など諸施策について他の医療関係団体とも連携のもと、一層の推進を図っていきたい。
社会保障と税の一体改革は、社会保障の充実・安定化と財政健全化を目的とし、その一環として、公平・公正な社会の実現のために情報連携基盤を整えるべく、マイナンバー制度を整備し、平成28年1月から運用を開始した。この改革の大きな流れのなかで、医療情報のICT化についても、一定の方向性が示されつつある。医療情報は機微なものを含んでいるため、どこまでICT管理が進むのか、引き続き注視していきたい。医師会としても、利活用の在り方を提言できるよう、研究が必要になってくる。マイナンバーについては、当初の国民通知時からトラブルが続発しているが、今後、マイナンバーカード等の各種システムの稼働も始まり、社会保障、医療制度の在り方とも今後大きくかかわってくるものと推察される。NDB、病床機能報告制度、DPC等の医療データを組み合わせて、地域の医療ニーズを適切に管理する動きがあるが、データの一面的利用により地域の実情がしっかり反映されず、地域医療の崩壊を招くことが懸念されるため、データの妥当性等を精査・検証する機能が医師会に求められる。ICTを活用した地域医療連携については、財政事情が許せば、取り組むべき課題であり、また患者への電子データの提示も、今後、医療機関がかかわる課題として挙げられる。セキュリティを担保しながらの医療機関間データ連携や、あるべき医療の方向性を提言ができるような取り組みも、今後の課題として検討する必要がある。
本会は、平成25年4月1日をもって、非営利型一般社団法人に移行した。一般社団法人は、公益目的支出計画を的確に実施するという制約を除いて行政庁の監督を受けず、事業内容の自由度が高い。このような一般社団法人の特性を生かしつつ、これまでと同様、郡市区等医師会との連携を密に取り、医師会としての活動継続に支障が生じないように努める。
医療環境はいよいよ厳しく、不透明と言わざるを得ない。また、これまでの大阪府の財政見直しに伴い、本会の財政状況もかつてないほど厳しいものになっているが、われわれ医師は保健・医療など、国民生活の基盤を支える責務を担っており、如何なる状況にあろうとその職責を遂行しなければならない。そのためには、医師が自信をもって、安心して診療活動に従事できる環境整備が必須である。この基本を守り、現状の中で出来るかぎりの会務運営に努力することが執行部に課せられた使命と認識している。同時に、そのことが「健康都市大阪」の実現に、また、府民の健康で安心できる生活にも繋がると信ずる。
以下の事業の各項目について重点事項を掲げ、会務執行に邁進したい。
1.国民皆保険制度の堅持と国民のための医療制度改革の推進
2.地域保健医療体制の充実
(1)保健医療計画、地域医療構想の推進
(2)在宅医療の推進
(3)「かかりつけ医」機能の充実・強化
(4)生涯を通じた生涯健康管理体制の確立
3.母子保健(少子化問題を含む)対策の推進
(1)重症心身障がい児に対する医療的ケアの充実
(2)児童虐待の早期発見および防止対策の推進(乳幼児虐待を含む)
(3)母子保健対策の充実
(4)周産期医療体制の整備・推進
4.健康づくり事業の推進
5.感染症対策の推進
(1)あらゆる感染症に対する対策強化
(2)予防接種率向上策の強化と予防接種の広域化事業の推進
6.高齢者・障がい者等対策の推進
(1)介護保険制度への対応
(2)総合的な地域包括ケアの確立
(3)認知症対策の推進と高齢者虐待の早期発見と防止
(4)自殺防止対策の推進
(5)障がい者対策の推進
7.新医師臨床研修制度への協力体制の整備推進
8.救急・災害医療対策の推進
(1)救急医療対策の推進
(2)災害医療対策の推進
(3)救急業務高度化の推進
(4)二次救命処置等研修の推進
9.情報システムの整備・推進
10.学術研修活動の推進
11.大阪府内医療機関における臨床研究・治験参加促進
12.勤務医活動の推進
13.女性医師の就業環境の改善ならびに就業支援の推進
14.医療における安全性の確保と医療に対する国民の信頼の回復
15.診療情報の保護及び提供の推進
16.広報活動の充実
17.看護師の養成、確保
18.産業医の養成、産業医の資質の向上、地域産業保健事業への対応強化
19.安定した医業経営の推進のために
20.学校保健活動の活性化
21.活性ある会務運営の遂行
(具体的事項は略)