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時事

医師の「働き方改革」とは

府医ニュース

2017年3月29日 第2815号

「応召義務」など、特殊性を考慮した対応が必要

 安倍晋三首相は「一億総活躍社会」の実現に向けて積極的に取り組んでいる。平成28年8月の第3次安倍第2次改造内閣の発足とともに、「働き方改革担当大臣」を新たに設け、加藤勝信氏が担当大臣に就任した。これに伴い、働き方改革の実現を目的とする実行計画の策定等にかかる審議に資するため、同年9月27日に第1回「働き方改革実現会議」が開催された。首相官邸のホームページでは、「働き方改革は一億総活躍社会実現に向けた最大のチャレンジ。多様な働き方を可能とするとともに、中間層の厚みを増しつつ、格差の固定化を回避し、成長と分配の好循環を実現するため、働く人の立場・視点で取り組んでいく」と紹介されている。同会議は本年3月17日の開催で9回を数え、また、「働き方改革に関する総理と現場との意見交換会」も複数にわたり開催されるなど、働き方改革の実行改革の策定に向けて議論が着々と進められている。当初は世間の関心はさほど大きくなかったと感じるが、大手企業の新入社員が過労自殺したことがクローズアップされ、時間外労働の在り方が大きく注目されることとなった。
 時間外労働の上限規制に関して同会議では、現行の「月45時間かつ年360時間」を上限とした規定を原則的な上限とし、特例を除き罰則を課す方針が検討されている。なお、特例として、「臨時的な特別の事情がある場合として、労使が合意して労使協定を結ぶ場合においても上回ることができない時間外労働時間を年720時間(=月平均60時間)」と示した。かつ、年720時間以内においても、一時的に事務量が増加する場合については、最低限、上回ることのできない上限を設定するとしている。これに関しては、「単月では休日労働を含んで100時間未満を満たさなければならない」などの詳細案を提示している。
 3月9日に行われた参議院厚生労働委員会で、自見はなこ議員は塩崎恭久厚労相に、「医師の働き方改革」について問うた。自見氏は、医師には医師法に基づく応召義務があると述べるとともに、自己研鑚や研究に努めなければないとし、一般の就労者とは異なる「医師の特性」を踏まえた対応を求めた。現状においても医療を取り巻く環境は非常に厳しいが、政府が進めようとしている枠組みに医師をあてはめた場合、医療現場は更なる混乱が生じる。なによりも、国民が受ける影響は甚大である。長時間労働の是正を進める以上、その結果としてサービス水準の低下があることも予想される。しかし、医療現場にとっては、そのようなことは断じて許されない。
 一方、厚労省は医師の偏在等に関する議論について、これまでの「医療従事者の需給に関する検討会・医師需給分科会」から、昨年10月に唐突に設置された「新たな医療のあり方を踏まえた医師・看護師等の働き方ビジョン検討会」に移して結論を導き出そうとしている。医師の偏在が解消できない場合、医師数を増やすこと、あるいは現在は医師にしかできない業務を医師以外の職種に「ワークシェアリング」する――といった懸念も想定される。
 こうした中、3月23日付の日刊紙等では、病院医師への適用について、法律の施行から5年の猶予期間を設ける方向で調整するとの報道がなされた。この間に労働時間の短縮などの勤務環境を整備するとしているが、先に述べたような「医師数の増員」などの方針が示された場合、医療側がいかに対応していくかについても真剣に考えていかなければならない。あわせて、医師という職業の特殊性も考慮しながら、「過重労働」で疲弊しない取り組み、そして、医師一人ひとりが自らの職業に誇りを持つことのできる環境づくりが重要である。(榮)