
TO DOCTOR
医師・医療関係者のみなさまへ
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本日休診
府医ニュース
2017年3月1日 第2813号
「遠隔診療 事実上解禁」をネット検索する。そこには、首相が後押し、IT化、患者の利点というワードが踊っている。紙面の都合上詳細は省くが、「直接対面して行われることが基本」の部分が緩和されたそうだ。「通院する時間を持てないばかりに治療を中断してしまう、だからネット診療を行う」。一見正論のように思える意見に流されてはいけない。遠隔診療により、この先どのような医療現場の崩壊が起こるかが十分に論じられていないからだ。
医療のICT化という大正義に反対すると、開業医の失業を恐れていると、オルテガの言う「大衆」的な意見で封殺されることがある。便利さの追及によって、医師と患者の関係が、「サービス提供者と消費者の関係」に置き換わることに懸念を呈さないのか。これは教養の問題である。様々な社会的変革(産業革命、IT革命、政治思想転換)により、人と人との関係が何物かに置き換わり、そして社会が荒廃することについては、過去の偉人らが指摘するところである(ポランニー、宇沢弘文など)。
一時は在宅医療バブルとして在宅専門診療所が多く開設されたが、度重なる診療報酬改定で閉院するところが増えた。そんな中、テレビ(IT)診療が経営の厳しい在宅専門診療所の夜間の副業として利用されてしまう可能性がある。将来すべての診療所でテレビ外来が主流となり、数十年後そのような診療に慣れた患者の看取りをすることに……。想像するだけで恐ろしくないか。このような外来形態で、私は良質な医師と患者の関係を維持する自信がない。
秩序を守る規制を緩和する恐ろしさを、有識者は分かっていない。規制緩和という経済的合理化は人心も変えてしまう。人心の変化は、改革者が大好きな「見える化」では決して見えないものなのだ。(真)