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医師・医療関係者のみなさまへ

ミミズクの小窓

下天の夢の最長期間

府医ニュース

2017年2月22日 第2812号

 「人間五十年 下天の内をくらぶれば 夢幻のごとくなり 一度生を得て滅せぬ者のあるべきか……」ご存じ幸若舞の「敦盛」である。さて、"下天の夢の時間"すなわち平均寿命は19世紀以降、飛躍的に延びている。では、ヒトという種の最高到達年齢は延びているのだろうか。この問いはまた、「我々ヒトは老化を解明しコントロールできるか」という命題にもつながる。
 ここに一石を投じたのが、米国のアルバート・アインシュタイン医科大学の研究チームの「ヒトの寿命に限界があるという根拠」と題する論文である(Nature 538:257,2016)。著者らは長寿に関する国際的データベース「Human Mortality Database」の分析に加え、日、米、英、仏の110歳以上 2"超長寿者 "の死亡記録を検討し「最近は100歳以降の寿命の延びが頭打ちになっていて、最高寿命は1990年代から延びていない。これらの結果はヒトの寿命には限界があることを示す」と結論した。
 BBCのウェブサイトはこの論文の著者らのコメントとともに様々な異論・反論を掲載して話題となった。著者の一人は「希有な例外は別として、ヒト寿命の上限は115歳くらいだろう。125歳のヒトに出会うには、地球が1万個必要だ」と述べ、これに対してドイツのマックス・プランク人口研究所のボウペル教授は「茶番だ(怒)!」と一蹴、「ヒトの寿命の限界の話は聞き飽きた(怒)! 科学的根拠ではなくて、ただの思いつきだ(怒)!」とお怒りである。無論ヒトの寿命には限りはあるだろうが、それでもなお老化のメカニズムを追求し、遺伝子の役割の解明などからブレイク・スルーを図ろうとする研究者たちをリスペクトせよ! というのが真意であろう。
 記録に残る最高年齢はフランス人女性のジャンヌ・カルマンさんで、122歳(1875―1997)で亡くなった。この間欧州は何度も大きな災禍に見舞われていた時期であり、幸運にも恵まれたのかもしれないが、とてつもなく強い遺伝子背景をお持ちだったと拝察する。メイヨー・クリニック医科大学のグループの一連の研究(Nature 530:184,2016など)は、ストレスによって生じた"老化した細胞"を除去することによって臓器の、ひいては個体の寿命の延長が可能かもしれない、と示唆している。無論併せてがんや認知症のコントロールも可能になることが必要だが……。期待したいが、まだまだ前途多難であろう。でもまあ、年金問題ほどじゃないけど。