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時事
府医ニュース
2017年2月22日 第2812号
1968年に封切られた映画『2001年宇宙の旅』では、人工知能(AI)の暴走が取り上げられた。ヒトの英知の根元を探るべく木星探索に出発した宇宙船が舞台で、これを管理するコンピュータHAL(IBMの1文字前)には2つの命令が与えられた。当局の極秘事項として、乗務員にも知らされていない木星探索を全うする命令と、乗組員の生命管理である。ある機転からHALが自我を持ち始め、コンピュータの故障に疑問を持った乗組員が機能停止を画策したが、HALが事前に読唇術で察知し、乗務員を抹消する体制に入ったというのが物語の主要部分である。全編にモノリスという未確認物体が登場するが、技術革新を象徴的に描いているにすぎない。
米国の映画らしくHALに関しては、その機能を止めるという勧善懲悪の結末で終わっているが、スタンリー・キューブリック監督はそこでとどまらず、「スペースチャイルド」という訳の分からない大きな赤ん坊が最後に出てくる。人工知能もまたヒトの知性の進化ということで、許容していくと勝手に解釈した。解説がないと大あくびが出る映画であるが、不朽の名作に位置付けられている。
もし人工知能が自我を持ったら、我々は忌み嫌うものとして目を背けるのか、そういう現実はいつか来ると相対峙していくのか。キメラ動物にも言えるが、人造物であったとしても、自我を持った時点で一個体として尊重せざるを得ない。そのことは避けなければならないが、虫けらのごとく扱うと相手は尊厳を傷つけられ怒り出す。しかし、そうした時代が来るまでは、我々の生活に役立ち、適当な人工知能であれば使ってみたい。犬や猫は1万年間もペットであり続けている。駆け引きに関して「ちょっとお馬鹿さん」という愛らしさが、知能生物と暮らす日常には必要なのだ。
日経新聞によれば、現在の世界での人工知能に関する特許申請件数は、米国がトップで2位が中国である。中国はこの数年で2.9倍もの増加を示している。特許の伸びが鈍っているものの日本は3位であり、「質で勝負」が世界における我が国の位置付けといえる。単一機関でみると、世界をリードしているのは米国の企業である。IBMは「2001年宇宙の旅」で登場したコンピュータHALであり、これを映画化したスタンリー・キューブリックには脱帽である。日本の企業の50年前、そして50年後を想像してみればよい。そこまで日本はオリジナルを追究できるであろうか。オリジナルは文化的土壌が重要で、模倣では長続きしない。IBMは"Watson"という人工知能を開発し、多くの場面での活躍が期待されそうな感じがする。否定しようがしまいが、これは確実に我々の世界に入ってくる。患者は入口からベルトコンベアに乗り、ホールボディースキャンを受け、採血した後にロボットに症状を話し、診断が下り、出口では薬の袋が出てくる――将来、このようなことがあり得るかもしれない。医療側にしてみれば、自らを駆逐する機械など普及させたくはない。とはいえ、診断精度を高めることで患者の信頼が得られ、診療能率が高まるのであれば歓迎されるではないか。実際、病理学的検査の診断支援が稼働中である。しかし、すべてが人工知能で行われる医療現場などは考えたくもない。(晴)